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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第12日 8月14日
148/151

第145話 吊り橋の戦い⑤

 わずかであるが時間を遡る。

 指揮通信車は前進していた。前線からは戦闘模様が伝えられている。どうやら、川を挟んで撃ち合っているようである。

 次いで先行した普通科が、橋のこちら側に取り残された敵部隊と会敵したという知らせが入る。

『敵は見積もって20未満、突破は容易……』

 そう伝えてきた次の瞬間、通信が途絶えた。呼びかけても返事がない。

 数度呼び掛けて、やっと答えが返ってきた。

『……こちら……小隊、目下敵と交戦中、12名がすでに行動不能……』

 奈良井は驚きの声を上げた。しかし、こちらが12人動けなくなったというなら、相手は文字通り全滅しているであろう。

「相手の損害は」

『ええと……見る限り、皆無であります』

「皆無だと」

『はい、刀の女に襲われ……』

 そこで通信は途切れた。

 車内の一同は沈黙した。

「どういうことだ」奈良井は言った「刀で、わが部隊が敗れるなど」

「いや、それはありうる事態です」

 和田はそれ以上に理解していた。さきほど、自身の式神がやられたことを感じたからである。

 奈良井が顔を和田の方に向けた。和田は続けた。

「十分に訓練された呪術家ならば、一個小隊は相手できます」

「連隊長」和田は身を乗り出して続けた「僕が行きましょう、相手をできるのは、自分くらいです」 

「いやしかし……」

「連隊長殿、呪術師や怪異相手に通常兵器では太刀打ちできないことはすでにご存じのはずです」安西が横から口をはさんだ「通常兵器で済むのなら、3回も総攻撃を要してはいません」

「……わかった」奈良井は頷いた。

 和田に付き従ったのは安西、金城、そして旭であった。それに護衛として一個小隊がついた。当然観戦武官たるホーガン中佐は危険だということで車内待機となる。

「な、なんで私がこんな目に……」

 旭さんは目に涙を浮かべるがそれに気づくものはいなかった。雨で全員顔が濡れていたからである。雨にしては妙にしょっぱい味を口に感じながら、彼女は雨の中進んだのである。


 そして時間は今に戻る。


 打ち込んだみどりさんと和田の刀の間で火花が散る。みどりさんが飛びのく。和田も刀を構えなおした。

「あいつだけ撃つことはできないですか?」

 私はとなりにいた本田氏に声をかける。

「無理ですよそんな芸当。それに宮様からも手出しするなと言われましたし……」

 そんなの律義に守るべき命令かよ、と私は独り言ちた。

 しかし状況が芳しくないのは見た通りである。見れば、和田の背後には増援がさらにやって来ている。30名はいるだろうか?

「うげ、ユタまでいるぞ」

 坂本が言う。

「あとは……あれはどこかで見た顔だな」その中の一人には見覚えがあった「ああ、みどりさんと前一騎打ちしたやつだ。一等陸尉だとかなんとか名乗っていたっけ」

「そいつ強かった?」

「みどりさんが押されるほどには」

「やばいな」

「やばい」

 だが幸いにも二人の戦いに彼らは割って入ろうとはしない。和田がそう命じていたのかもしれない。律義にそういう武士の情けをかけてくれるあたりが恨めしい。

「あなたがっ、わたしに、勝ったこと、ありますか!」

 みどりさんは打ち込みながらそう叫んでいる。

「どうかな、君の方が、不利だと、思うけれどね」

 和田も言い返しているようだ。よくそんな余裕があるものである。

 最初は互角かと思ったが、さきに一個小隊を相手にした分、みどりさんの方が疲労がたまっている。次第に息が切れてくる。

 そして。

「うわっ!」

 みどりさんが後ろにのけぞる。水たまりで足を滑らせたらしい。そのまま尻もちをつく。だが右手は刀を放さない。すぐに起き上がろうとした瞬間、右手に激痛が走る。

 和田が、彼女の腕を踏んでいた。

「降伏しなさい」和田は言った「そうすれば命までは奪わない」

「なんであんたなんかに!」

 みどりさんはそのまま右足を大きく蹴り上げた。それは和田の股間に見事ヒット、身もだえする和田を尻目に、みどりさんは素早く起き上がると、車の陰に舞い戻る。

「……あれは流石に非道では」

 私はみどりさんに言うが、しかし彼女は澄ました顔で

「ロリコン相手にはあれでも足りません」

 と言うのであった。

 敵は銃を撃ち始めていた。パンパンパン、と車体に弾が当たる音がする。本田氏は応戦を始めていた。

「どうする、あいつ倒せなかったし」

「でも時間は稼げました。おそらく主上はもうすぐ……」

 そう言った瞬間であった。聞いたことのないような大きな爆発音が響いた。

 我々はとっさに振り返り川の方を見る。そして唖然とした。

 ダムの水門が吹き飛ばされていたのだ。

「上!」

 誰かが叫んだ。我々は目を疑った。

 それは巨大な金属の塊だった。それが空中からこちらめがけて落下してくるのである。

「退避、退避――!」

 我々は叫ぶ。逃げると言っても方向は一つしかなかった。前は敵、となると、後方、つまり川の方に退却するしかなかったのである。

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