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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第10-11日 8月12日-13日
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第127話 精霊の帰還

 翌日の午後である。

 一台のプロボックスが警戒線を越えようとして検問に引っかかった。乗っていた人物が、和田との面会を求めているという。

 それを聞いた和田はにやりと笑った。それが誰であるか知っていたのである。

 そこにいたのは、二人の少女と、その後ろに女性が2名。2名の女性はばつの悪そうな顔をしている。

「ご主人様~」

 それは瑠璃と珊瑚であった。

「あの二人が、私たちを連れて帰ってくれたんだよ~」

「それはそれは……」和田は言った「それはありがとうございます」

「それでは私たちはこれで……」

 そう言いながら二人が立ち去ろうとした時である。騒ぎを聞きつけた雪村警視正が駆けつけてきた。

「和田君、これは……?」

「いえ、僕の『被保護者』です、おかまいなく……」

「いや子供を連れてこられても……って、え?」

 雪村警視正はきょとんとした。すぐ直前まで和田の隣にいたはずの二人の少女は雪村の背後に立っていた。

「これは……?」

「僕の式神です。迷子になっていたようですが、彼女らが助けてくれたようで」

「そうなんですか」

 そう言って、その場から離れようとしている女性たちの方を見た。そして、少し気になることに気づいた。

「ちょっとそこのお二人……」

「はいっ?」

 思わず二人が振り向いた。雪村警視正は、即座にピンときた。

「あの二人を確保!」

 そう叫んだのと同時に二人は走り出す。しかし遅かった。すぐに和田と、雪村のタックルを食らって転倒、手錠がかけられた。

「ちょ、ちょっと何をするんですか」

「私たちが何をしたというんです!」

「うるさい!」雪村は叫んだ「松代葵で間違いないな! お前には公然わいせつ罪の疑いで逮捕状が出ている! それから千曲流子、凶器準備集合罪及び電波法違反で逮捕する!」

「そんな人違いです!」

「警視正、免許証が車にありました。本人で間違いありません」別の警官が言った。

「あとで護送する、とりあえず連れて行け」

 松代さんと千曲さんはそのまま連れて行かれた。

「雪村さん、あれは?」和田は尋ねた。

「岡山の集団露出事件の犯人です。逃亡中だったのだ」

 和田は、ああ、と頷いた。

「そしてもう一人が、上諏訪解放戦線のメンバー。東アジア反日武装戦線の生き残りだ」

 東アジア反日武装戦線、と聞いて和田は思い当たる節があった。

「そういえば諏訪といえば……」

 そう呟いたとき、瑠璃と珊瑚が口を開いた。

「そういえばねー、面白いことをあのお姉さんたちが言っていたよ」

「そうそう、丹生谷の中にも、お仲間がいるんだって」

「仲間? そりゃ彼女たちは丹生谷の協力者だろうね」

「違うよ、あの中に、上諏訪解放戦線の人間が、入り込んでいるんだ」

 和田は合点が言った。自分と戦ったあの女性、それがそれで間違いない。

 しかし、丹生谷の人間の大部分は、彼女の素性を知らないようであった。なんだか嫌な予感がする。そうして黙ってしまった和田の袖を瑠璃と珊瑚が引っ張った。

「ねえ、ご主人様、どうしたの?」

「顔が暗いよ」

「ああ、嫌なんでもないよ。君たちが無事でよかった」

 そう言って二人の頭をポンポンと叩いた。

「それで、ご主人様、熊野や吉野は、どう動くの?」

「どうって?」

「クーデターだよ。丹生谷はクーデター派と手を組んだって……」

 和田は驚いて周りを見回した。幸い聞いている者は誰もいなかった。

「いいかい、これは誰にも言ってはいけないよ」

 和田は二人にささやくように言った。

 和田は冷や汗が止まらなかった。クーデターだって!? そんな話は聞いていないぞ!

 自衛隊は常に公安の監視対象であった。戦前でも、二二六事件では警官も5名殉職している。そして戦後にも何度かその試みはあったというのである。

 当然和田は立場として、すぐ報告すべきである。しかし和田は報告しなかった。

 捕まった松代さんと千曲さんも黙秘を貫いた。であるから、結果として、丹生谷内部で、そして東京で何が起こっていたのか、把握したものはいなかったのである。

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