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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第10-11日 8月12日-13日
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第126話 攻撃準備

「延期しろだって?」

 8月13日朝、突然東京から打診があった。防衛大臣が、総攻撃を2日延期しろと言ってきたのである。

 8月14日の総攻撃でもしその日のうちに戦闘を終えることが出来なければ、終戦記念日である15日にも戦闘がもつれ込む。これを防衛大臣は嫌がっていた。6月と9日も攻撃中止を指示した人物である。

 さらに言い訳の様に気象庁の情報を付け加えていた。今南の海上に巨大な台風があり北上してきている。これは四国を直撃するコースである。これをやり過ごしてから攻撃に移る方が安全ではないのか、と言うのである。

「冗談ではない!」安西は叫んだ「今、14日の攻撃にむけて準備を整え、士気も高まっている。それを延期するなんて……」

 隣では青葉陸将と塩山二佐が統幕長に電話をかけて抗弁している。

「一体何のために我々を派遣したんですか、我々の判断を信じてください。1日伸ばすごとに、相手は戦力を整える可能性があるんですよ。兵は拙速を尊ぶといいます。とにかくできるだけ早く作戦を決行するのが肝要なのです!」

 結局、統幕長が防衛大臣を説得し、総攻撃は14日のままとなった。


「本当にどうなるのかしら……」

 旭美幌はやりとりの話を聞いてため息をついた。殉職者を出してもなお、総攻撃を前に周囲の士気は高かった。しかし彼女は何一つ乗り気ではなかった。もともと軍人でも警官でもない役人なのだ。それに日本人同士なんで戦わなくてはならないのか。彼女はそれがいまだ理解できずにいた。

「ちょっといいかな?」

 テントの入り口で声がした。和田であった。

 旭さんは、鬱陶しそうに振り向いた。

「先輩……」

「どうしたんだい、そんな顔をして」

「先輩、私はまだここにいなくてはいけないんでしょうか、先輩が戻った今、私がいる意味はあるんでしょうか?」

「もちろんだよ」

「でもなんの能力もないのに?」

「それはまだ気づいていないだけだ。現に、この間の戦闘でも戦っていたじゃないか」

「あれがたまたまですよ」

「いや、十分な素質だ。もっと磨けば……」

「いい加減にしてください!」旭さんは叫んだ「私はこんなことしたくないんです。戦闘も、祈祷もしたくはない! そんなことをするために内務省に入ったんではないんです!」

「でも……」

「でもじゃないんです!」

 旭さんはそう言って涙を流し始めた。当惑するのは和田である。泣く女の扱いなど、知らないのである。

 その時間が悪いことに、金城さんが入ってきた。アメリカ軍の観戦武官が着いたことを告げに来たのだ。

 金城さんは、涙を流す旭さんと、一緒にいる和田を見て、金切り声に似た叫びをあげた。

「ちょっと! 何してるんですか!」

「いや、ええと、これは」

「副隊長補佐を泣かせるなんて、よっぽどの覚悟があってのことですよね⁉」

 金城さんは凄んだ。

「金城さん……」旭さんは涙をぬぐって答えた「そんなに怒らないで。隊長はべつに悪気があってのことではないと……」

「命拾いしましたね。副隊長補佐に免じて今回は許しましょう」

 金城さんはそういってこほん、と一区切りするように咳払いをした。

「お二人とも、米軍の観戦武官が来られました。今幕僚団や師団長に挨拶されています。あと、どうも実際に戦闘をした人の話を聞きたいようです」

「そういうことなら行こうか」和田が言った

「あまり乗り気がしないけれど……」旭さんも重い腰を上げた。

 テントの外に出たとたん、安西と、誰かが英語で話をしている声が聞こえてきた。

『これは何でしょうか』

 それは海兵隊の士官であった。指さしている先にあるものを見て、3人はたまげた。

 それは確かに祈祷師(シャーマン)戦車であった。しかしこれまでのシャーマン戦車が山車であったとに対し、それは黒いピックアップトラックの荷台に、社が据え付けられていたのである。

「これはまるで戦車と言うか……」

 霊柩車であった。

『シャーマン戦車の改良型、スーパーシャーマンです』

 安西は得意そうに説明している。その士官はふんふんと頷いている。

『これに祈祷師を乗せて、結界を切り裂くのです』

『なるほど』

 そこで安西は和田たち3人に気づいた。

「やあ、紹介しましょう。合衆国海兵隊のクロウ・P・ホーガン中佐です」

 和田と金城さんが敬礼(脱帽していたのでお辞儀である)した。旭さんは慣れていないせいか、脱帽時であるのに挙手の礼をしていた。

 ホーガン中佐が返礼した。

『彼らが内務省の特殊部隊です』

 ほお、という顔になった。おそらく若い女性、とくにあまり戦闘に向いてなさそうな人がいるのが気になるのだろう。

『彼らは皆優秀な呪術師です』

『呪術師……』

『米軍にはそういうのはいますか?』

『いえ、対UFO部隊ならありますが』

 そう言ってホーガン中佐は笑った。

 そしてまじまじと3人を眺める。そして、その後ろのトラックに気が付いた。

『あれはなんですか』

『ああ、あれは陰陽頭が愛媛県の大三島から運んできたものです。中世の鎧です』

 大三島は瀬戸内海に浮かぶ島である。行政上は愛媛県今治市に属する。しまなみ海道で本土や四国と結ばれている。

『鎧?』ホーガン中佐は聞き返した。

『ええ、大三島の大山祇神社にある、国宝です。九郎判官義経が身に着けたという鎧です。義経公は、源氏と平家の内乱の際、源氏軍を率いて平家を滅ぼしたのです』

 すなわち、平家が反乱を起こしており、それを討伐するためのゲン担ぎなのだ、と付け加えた。

『なるほど、ゲン担ぎですか……これはおもしろい』

 ホーガン中佐はそういいながら頷くのであった。

 一方で和田は気がかりであった。同盟国の目が入ったのだ。下手な真似は、どうあがいてもできないのだと、心に誓うのであった。

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