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丹生谷王朝興亡記  作者: 淡嶺雲
第9日 8月11日
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第97話 急転

 私とみどりさんは参道を九段下駅方面へと下りながら駆けていく。私は電話を取り出すと、小泉さんに電話をかけていた。

 すぐに電話はつながった。

「もしもし、小泉さん、やっかいなことが……」

『さっくんから聞いたのです』電話の向こうからの声は移動中なのかノイズが混じっていた『今日にするのですか?』

「そのつもりです。いまどちらにいますか? できれば車を……」

『今もう向かっているのです。いま甲州街道を走っているのです。どこで落ち合うのがいいですか?』

「そうですね……四ツ谷は仙洞御所が近すぎます。市ヶ谷も……」

『そこまでいけば九段でも変わらないのでは?』

「いいえ、少し離れたところがいいのでは」

「北の丸公園にしましょう、そこの駐車場で落ち合いましょう」みどりさんが横から言った「あそこなら駐車場も何か所かあるので、車を停められるはずです」

 私はそれを伝えた。

『了解であります』

 そう言って電話は切れた。

 わたしとみどりさんは靖国通りを横切ると、田安門から江戸城内へと入り、武道館の横を横切って南へ向かう。北の丸公園内の駐車場で、小泉さんの車にランデヴーできた。それは国産のハイブリッド自動車であった。

 我々はすぐ車に飛び乗った。発進させようとした小泉さんをみどりさんは制した。

「本当にありがとうございます」私は言った。

「いいえ、用事は終わったのですか?」

「ええ、終わりました」みどりさんが答える。

「作戦を早めるということでありますが」

「ええ、14時に搬出が早まったので、それに合わせて作戦を決行します。そうでないと宝剣は名古屋に。それに、どのみち我々が東京にいることはバレているのです。時間がたてばたつほど、リスクが高くなります」

「危険なのは変わらない、ということでありますね」

「そうです」

「それはそうと……この車も、壊してしまうんでありますよね?」

「そうです。申し訳ないですが……」

「いいのです。社用車なので私の懐は痛くもかゆくもないのです」

「始末書は?」

「そんなの何とでもなるのです。それより頼まれたものを買っています、確認してくださいなのです」

 我々は後部座席にあった袋を確認した。逃走のための、変装用の衣装が入っていた。

「ありがとうございます」私は言った「何から何まで」

「いえ、これでいい画が撮れるなら安いものなのです」彼女は言った「さて、車はどこへ行けばいいですか? 大手門の方でありますか?」

「いいえ」みどりさんが答えた「通常、皇居や宮内省へのトラックの出入りは乾門が用いられています。おそらく乾門を出て、すぐに高速に乗るつもりでしょう」

「なるほど、だからここというわけでありますね」

 乾門は皇居の北の門であり、首都高速代官町ICのすぐそば、その向かい側は北の丸公園にあたる。乾門から北へと延びる道をゆけば右手に科学技術館や武道館を見て、田安門に至る。すなわち我々が来たのを戻る形となる。

「さて、時間まで車はここに待機していてください。我々の合図で、作戦通りに車は動かします。小泉さんは、それまでに車から退避していてください……そうですね、ここやここ(みどりさんはそう言ってスマートフォンの地図アプリの画面を指さした)ならいい写真が撮れますよ」

「ありがとうございます、小生、ジャーナリストとしての責務を全うするのであります」

 小泉さんはぴしっと敬礼の真似をした。そして続けて言った。

「ところでなのですが、車を動かすと言いましたが、だれがするのでありますか?」

「ああ、まだ紹介していませんでしたね」

 そう言うとみどりさんはポケットから紙でできた二つの人型を取り出し、なにか短い呪文を唱えた。

「?」

 それを見て小泉さんは怪訝な顔をしたが、一瞬後に驚きの顔に代わった。

 瞬きの直後、後部座席には、今までいた私とみどりさんのほかに、もう一人、赤いゴシックロリータの服を着た小学校高学年程度の少女が出現したのである。

「こ、これは?」

 そう言った小泉さんはさらに助手席からの視線を感じた。そちらを向くと、こんどは青いゴシックロリータ服の少女が座っている。

「ええと、今、え、どうしたのです……?」

 小泉さんは目を回して混乱している。

「心配いりません。式神です。瑠璃と、珊瑚という名前の」

「どうしたの、わたしたちを呼び出して」「そうだよ、何の用なの?」

 二人は声をそろえるように言う。はっきり言って目を閉じてしまえばどっちがどっちか聞き取るのはむつかしいほど似ている声である。

「二人とも、仕事の時間です。いまから宝剣を奪取します。すべてはあなた方にかかっています」

「なんでお姉さんの言うこと聞かないといけないのさ」

「じゃあ僕から言えばいい?」私は言った「和田さんも言っていただろう、いまは協力してほしいって」

「うーん、ご主人様の言いつけなら仕方ないかなあ」「ねー」

「はあ、どいつもこいつも」

みどりさんはため息をついた。が、その直後、こぶしを握り締めて言うのであった

「みなさん、これが天王山だと思ってください。これで我々の運命が決まります。東京に真の我々の実力をとどろかせるのです。願わくは、この戦いをもって東京人を戦慄せしめよ!」

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