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短編

家具屋『he May』

作者: 生きの良いバグ

昔々あるところに竹細工の匠として有名なお爺さんがいました

匠がいつものように妻の手弁当を持って竹林へ歩いていますと背後の空から聞き慣れない音が近づいてきたので驚きながら振り向くと巨大な光り輝く物がぐんぐん迫ってきたのです


ときおり夜空の星が流れて落ちるのは知っておりました


匠が子供の頃、婆様から聞かされた夜話の昔がたりで『落ちてきた星に当たって死んだ熊がいた』こと『その死骸は焼け焦げて見るも無残』であったこと『あれは獣の身で天に反逆しようとした不届き者を神々が誅殺しなさったに違いない』と


匠はその技を人々から褒め称えられてもべつに慢心したりしていません

そしていつも神々を敬ってきました


「南無ー!南無ーっ!!」


手をこすり合わせながら祈ります

(それ、神々用の祈りじゃないです)


祈り方は間違ってましたが匠のluck値は意外に高く

蹲る匠のはるか頭上を熱風・轟音ともに

星は竹林へと墜ちたのです


◇◇◇◇◇


竹林に突き刺さっていたのは白銀に輝く巨大な竹でした

空では熱の塊に見えた巨大竹ですがはや冷めたのか匠はその切り口らしき部分からおそるおそる入ります

すると中の節が大きく開いて中からそれはそれは輝くばかりに美しい女性が現れました


「家具屋『he May』でーす

 こちら月じゃないですね」


he Mayというのは英語赤点だった初代が妙ちくりんな誤訳した思い出を『若かりし頃の恥ずかしい黒歴史を嘲ってやる』と名づけたもので『無知を戒める』意味合いらしい


「は?かぐや姫?」


匠の方は赤点どころか英語をそのものを知らない

家具屋も都にすらない時代なのだ


「月まで配達するとこだったんです」


ぶつぶつ呟きながら「たかが月までなのに事故っちゃって」と続けます

「よっこしたら窃盗犯になっちゃう」

美女はとても悲しげでお人好しの匠はひどく同情したのです


◇◇◇◇◇◇◇


匠と妻は美女を引き取り

養女として慈しみました


最初は『月へ行きたいなら及ばずながら手伝おう』としていたのですが「故障箇所を修理する部品が足りない」とかで老夫婦は娘がこの地で生きる術を探すよう考え直しておりました。 まず10年もの長きに渡って模索していたというのに美女は歳を経る風でもなく時が止まったかのように竹筒から現れた頃と変わらず適齢期の娘に見えました。


そして夫婦の美女自慢から次第に尾鰭がつき始め、いつしか都の公達の耳にまでその噂が届いていたのです


◇◇◇◇◇


「結婚なんて無理ですぅ」と家具屋姫

「どんなに遅くなってでもきちんと配達しなくちゃ盗人扱いされてクビじゃないですか」


世間知らずなお爺さんとお婆さんですが盗人程度の罪で斬首は『ありえねー』でしたし殺されるくらいなら少しくらい好感度が低くても権力ある公達に娶ってもらってきちんと保護される方が安心だと思ったのです


姫に想いを寄せる公達五人は二人の目にも人として一長一短でしたが学や財と武力を考えると悪い相手でもありません



なのに姫は「私アンドロイドですよぉ」などと訳の分からない理由で首を縦にふりません

しまいには天竺より遥か遠くの宝を条件に出す始末


『原油』とかいう宝をお題に出された公達は「特別な油ですぅ」と言われて荏胡麻油を「原油です」と差し出したものの姫は呆れた顔で「食用油じゃないですかぁ」と見破りました


他の公達も偽りの品を次々に見破られ、ただ一人本当に大陸へ渡ろうとなさった方も往路の嵐に巻き込まれて儚い姿でお戻りでしたから誰一人本物の宝を持参できませんでした


ただ故人の家人達が涙ながらに主をかばい、そんな勇敢で誠実な主を死に至らしめた姫の要求に深い恨み言を申されました為姫も老夫婦も宝探しの依頼を諦めざるを得なくなったのです


◇◇◇◇◇◇◇


やんごとなき御方様にもこうした噂が届き「ならば後宮へ」と申されました

何が「ならば」なんでしょう


「マスターに連絡したいですぅ」


お婆さんが「ますたあとは何かの?」と尋ねますと

「オンツークン・ヨミノ・ミミコット様は月の配送最高責任者様ですぅ」


な!

御月読の命様とな!

それは確かに月の最高責任者様に違いありません!!


「やっと探索ポッドが戻って交換部品作れそうなので良かったですけどぉ」


さて意味はわかりませんが『月の世界に帰る』っぽい言葉に聞こえます

姫の方は「こっちの月にマスターおられますかねぇ」とか呟いております


◇◇◇◇◇◇◇


「これはアンティーク調マグネットチェア、これは最新トイレシンク……」など姫は白銀の竹筒から戻ると老夫婦と言葉を交わすかわりに独り言ばかりになりました


実のところ老夫婦をはじめ公達やその家人達とこの世界での会話の噛み合わなさには忍耐強いアンドロイドもお手上げだったので通じ合う事を諦めてしまっておりました


パラレルワールドなのかタイムスリップなのかはともかく一度は月へ配達に行き不在証明となる画像を用意して月面で二千年ほど配達待ちしようと決めたのです


パラレルワールドだとしてもいつかはマスタークラスの者と出会えるでしょうしその為には地球で待機するより月の方が劣化しにくいからです


姫が宇宙船を発進させた時

五光に導かれたとか伝えられております


時の帝?

家具屋の予備マットレスをプレゼントしてもらえたし顔すら見た事もない噂だけの美女にいつまでも執着してるはず無いですって


お爺さんとお婆さんの気持ち?

それは永遠の謎にしておきましょ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。こういう童話ネタ&洒落ネタは大好物なんで楽しませていただきました。 [一言] ところで、ここまで一般的な童話(というか昔話)だと二次創作タグは不要じゃないかと思いますよ。元…
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