第1章 9 出会い
呼び出された俺は、ラビットが警備を任されているこの下町、スラムから出るためにターミナルへと来ていた。
簡単な荷造りを終え、大きな荷物は郵送で身近におきたいものは手荷物でゆっくりとシュデルの乗り場に行く。
「新聞を…」
「あいよ…200ルッツだ」
売店の店主に金を渡し丸められた新聞を片手にターミナルを歩く。
暇つぶしになるものを買っておかないとここから先が中々に長い。
ライオンの本拠地があるのはずっと上の王族だけが住むことを許された街。
ルリア(白の都)だ。
6年前のルリアのことを思い出すとなんだか懐かしい気がする。自分もあそこに住んでいたのかと思うとなんだか遠い昔のことのように思えた。
急ぎの出頭命令が出たところでライオンの本部に着くのは早くても3日後。ここスラムから王都は端から円の中心に行かなくてはならないためどう頑張ってもそれくらいかかってしまう距離なのだ。
中心から都市の説明をすると、
ルリア(王都)、カラミット(貴族街)、ロザン(貴族街)、トトリ(町人、商人街)、サーガ(一般街)、スラム(一般街)
という街の構成になっている。
ルリアを囲むようにそれぞれの街が出来上がっていて。区画整理により、厳しく行き来は制限されている。
たとえコンクエスターであってもルリアに自由に行き来できるのは階級の上から3番目のホースまでだ。
元々東の国として発展したというこのイーズという国は一つの島の形をしている。簡単な形状をいえば、円錐状の島だ。その頂点にあるのがルリア
。
また、外部に近ければ近くなるほどQBに襲われやすくなる。そのため一番外側の街、スラムに住んでいるのは一般市民の中でも階級のより低い人々が住んでいるのだ。
そこが俺の仕事が任されている地域になる。
QBの危険にさらされながらそのせいか人々の暮らしは安定せず、もちろん常に命の危険にあるためか皆不安げに暮らしている。
不安は人々の心に巣喰い、治安は最悪だ。
それがスラムと名付けられてしまった所以なのだが________。
そして何よりもこの国は移動する。
どういうことかというと1つの陸が長い年月を経て機械化され、少しでもQBのいない方向へ延々と動き続けているのだ。
ランシティ(RunCity)走る街、そのままの名前で呼ばれているこのシマ1つに大体、5億人が居住していると言われ、ひたすらQBから逃げ続ける日々を送っている。
この仕組みはイーズ以外の国でも使われそれぞれの国が移動しながら交易をし、決められたルートにしたがって5カ国が回るように動いている。
決められたレールの上を5カ国のランシティがグルグルと移動し、その道すがらにはコロニーと呼ばれる小さな街がありそこで5カ国の人々は交流したり貿易をしたりしている。
説明しきるとするなら五つの大きな駅(国の波止場)の中間中間にそのようなコロニーがあり、そこは貿易港として栄えている。もちろんランシティの外壁の外側にあるためスラム以上にQBに襲われやすいがスネークなどの数の多いコンクエスターが出張として警備に当たっている。
どこまでも俺たちラビットは戦力外だ。
ルリアからスラムまで街ごとに高い塀で囲われており、位の違う者同士が交わることはほとんどない。
一つの国でありながら閉鎖的な環境はそれでいて人々の生活を安定させてもいるから不思議だ。隣の芝生は青い、といえども、最早隣の芝が見えなければ青いかどうかなんてわからない。
________極論だ。
たまに王都で祭儀があったり、祝日だったりすると街にたった1つある門が開き行き来できるがそれはあくまでも祭りの間のこと。
皆浮かれてそんな階級差には目もくれないのだから。
そんなことだから、ラビットのターミナルからライオンのターミナルまでは随分と遠い。
行くのにも3日、帰るのにも3日。滞在期間を入れたらどれほどになるのか…
まだ、QBが蔓延っていない時代には飛行機?なんていう空飛ぶ鉄の塊なんかがあったらしいが、今ではもうそんなのは夢のまた夢。
ほとんどシュデルが主流でどこにいくにもレールの上を辿る。
シリルとエリカに見回りを任せきりで大丈夫かほとほと心配だ。
喧嘩っ早い2人のことを思い浮かべて俺はターミナルに到着したシュデルに乗り込んだ。
「ふぅ…」
長距離を走るシュデルの座席についてようやく一息つけた。
行き先の距離によってシュデルの内装は変わっていて、片道3日かかる距離となると最早部屋のようになっている。
座席があり、その上には寝台がある。
物書きをするための机もついていて居心地はそこそこにいい。
荷物を空いている隣の席に置き、丸められていた新聞を開いた。
「新型…か…」
一面を飾る新型の記事に眉間にシワが寄るのを感じた。
「すみません、向かい側失礼します。」
新聞に目を通していたらふと耳に心地の良い女の声がし、向かい側の席に所作の綺麗な女が腰をかけた。
「同乗させて頂く、クレア=デューラーと申します。短い間ですがよろしくお願いしますね?」
「白儀 リオだ。よろしく」
差し出されたすらっとした手を握る。
透けるような金髪と緑色の綺麗な目が特徴的だ。シニヨン風にまとめられた髪はきっと下ろしたらさぞ美しい金髪が見えるのだろうなんて、細いその金糸に目をやっているとその緑色とかち合った。
「?何か…」
「あ…いや、綺麗な金髪だと思って…」
「まぁっ…リオさんはお上手ですね?」
クスクスと笑うクレアはどこかの令嬢を思わせるような仕草で口元をおさえた。いや、実際に令嬢なのかもしれない。エリカとは違う、お育ちの良い品のあるお嬢様といった感じだ。
「あら…?リオさんって、もしかして…コンクエスターですか?」
「?ああ、そうだが…?」
「やっぱり!!その胸元の勲章と制服に見覚えがありまして!…ラビット所属で?」
どこか目を輝かせて聞いてくる彼女に頷けば興奮気味に返ってきた。
「嬉しいです。実は私もコンクエスターなんですよ。所属はスネークで…」
「っ、そうなのか…」
驚きで思わず表情が固まる。
こんなたおやかな女性がコンクエスターとは…
いや、コンクエスター全員が全員戦闘員というわけではない。オペレーターという可能性も…
「バッチリ戦闘員です!」
「…」
________何となく心が読まれたような気がしなくもないが、こうして話してみると確かに一癖ありそうな人物だ。
どうやら話を聞いてみるとスラムにはコンクエスターの仕事の一環で来ていたようで、その仕事を終えたため今からスネークの街、サーガに帰るようだ。
お互いのコンクエスターについて話してみると面白く、スネークにも扱いの困る幹部がいるらしい。
それに何の偶然か、俺がコンクエストスコラに在学中の後輩だったシオン=テクリーと同僚らしいことがわかり昔話に花が咲いた。
俺の名前を何となく聞き覚えがあったらしくそれもシオンから聞いたというのだから世界は狭いものだ。
隣街までだがクレアと話に盛り上がった。