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2second  作者: 多々野よーすけ
第1章 日常
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第1章 5 アラーム

夢見が悪くてまるで起きていたかのような気だるさを感じ、寝不足のような気分になる。

夢のせいで寝た気がしないというのは最悪だ…。


ベッドのそばに脱ぎ捨てたワイシャツを拾い上げ肩に掛ける。

緩めていたベルトを締めなおし、寝室からリビングへ移動した。ひんやりとしたフローリングが足の裏からつたい、キュッと引き締まる。


小型の冷蔵庫まで歩き、中から水を取り出し煽った。

俺の部屋には家具は小さな机と椅子、折り畳み式の簡易ベッドしかなく、床板も剥き出しで生活感などほぼない。


あれから6年。あの、歴史に大きく刻まれたQB王都侵入事件。

未だ原因は解明されておらず一体どうやって、周りの階級の街をすっ飛ばして王都に入ったかわかっていない。周りの階級にはほぼこれといって被害はなく王都にだけ狙いを定めたかのような事件だった。


当時20だった俺も26になり、リィが死んでからも6年という換算になる。


この時期、11月の後半になると頻繁にあの時の夢を見るようになる。

11月30日これがリィの命日だ。

6年経った今でも夢見にあの事件が表れ時折俺の安眠を、妨げる。


「ハァ…」


もう、6年?…それともまだ、6年?


俺の中で時間軸がおかしく回りながらここまできてしまった。


白儀 リィ12歳。

当時コンクエスト=ライオンの幹部あった白儀 リオの唯一の肉親である。

6年前のQB王都侵入事件でQBに下半身を食いちぎられ、インセイルに重度の感染。

そしてそのままQBに進化し、レイル=モナークに駆除された。


その頃20だった俺はまだ、リィは助かると思っていた。そう、信じていた。


俺にはそれだけの力はあると…最低限、唯一の肉親を守れるだけの実力はあると信じていた。いや、疑うことさえしていなかった。


しかし、リィは俺の知らないところでQBに襲われ体を食いちぎられ、最後はレイルが止めを刺した。


今の俺ならそれも仕方のなかったことだと割りきれる。

割り切らなければ俺は自分自身を保てていられなくなってしまうからだ。

しかし、笑えない話…そうしてもしなくても…リィは無条件に俺の枕元に立ち延々と俺を攻め立てる。


『なんで、助けてくれなかったの?お兄ちゃん…』


6年間、欠かさずこの時期になるとリィは俺の夢に表れるのだ。


あの時は本当に無力だった。


今でもあの時の自分を殺してやりたいと思う。





誰もが仕方がなかったと言う。


誰もが俺のせいではないと、同情する。


誰もが…






俺は何とか枕元のリィから逃れるため、その『誰も』に甘えることにした。

至って簡単なことだった。


仕方がなかった、と言って片付けるのは。

考えることをやめ過去のことだと割り切って飾られていた写真たてを伏せた。

飲み干したペットボトルを握りつぶしゴミ箱に放り投げる。

今日何度目かのため息が出た。

朝だというのにいつもより気だるい。リィが死んでからのその後を思い返すと目も当てられない。


語るべきのその後の話は醜い以上のものだった。


リィを失ってからの俺の生活など…_____。


毎日、何も感じずに過ごし…与えられた仕事を淡々とこなす人形。

「無」とは俺のためにある言葉のようなものだ。影も薄いし…。

そんな伽藍洞になってしまった俺をほとんどの者は手にあまして、干渉しなくなった。

だけど、レイルとミーヤ…ライオンの皆は見捨てなかった。


本来なら俺は処刑されても文句は言えない。


何故ならコンクエスターの現リーダーであるレイル=モナークに刃を向けた挙げ句、No.3であるアルムルク=デルケイトの命令を無視。

あまつさえ人類の敵であるQBを匿ったのだから。

大罪では済ませれないはずだった。極刑または裁判も無視して死罪だ。


しかも肉親である…という私情を戦場に持ち込み民間人の命を危険にさらした。


当然、王族による審判は死。


しかし、レイルの言葉足らずでありながら、力強い説得とミーヤの当時の現場検証、俺の精神状態をこと細やかに掲載したデータにより死罪は免れた。アルムルクも政界の要人に根回ししていたそうだ。


だが、無罪放免という訳ではなく…俺はライオンの幹部という称号を外されラビットの構成員にまで降格。

天から地に転がり落ちるとはまさにこのこと。


ただ、淡々と仕事をこなしていればまたラビットではあるものの再び幹部になれ、今はその地位に安定している。


そして俺がまだ、コンクエストスコラに在学中の時同級生であったシリルと再会をし、なんとなく日々を過ごしている。


ざっと思い返すとこんな感じ…

…過去を振り返ってみてもロクなことなどなかった。この世界は単純明快で生きるか死ぬか、得るか失うかの二者しかない。生きることで失う日々なら正直王族の審判が出たとき素直に死んでもよかったかもしれないと今でも思う。

それでも死なないことを、生きることを選んだのは失ったぶん取り戻したいと思ったからだろうか?

今なお自分のことさえ理解できずこうしてのうのうと生きている。


ああまた、アラームが俺起こそうと鳴りそうになる。





後2秒。


2、1…







…始まった。

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