またとない奇跡
夜のとばりが下りたころ。
新品のデジカメを引っ提げて、わたしは裏山に飛び出した。
あのとき撮った、一枚の写真。
流れる川を背景に、まっすぐ飛ぶ蛍たち。
手に持つ見本の写真には、緑の天の川が流れてた。
上手いかどうか分からない。
でもパパはA4版で飾ってくれた。わたしの大事な宝物。
川の近くに来ると、蛍たちが踊ってた。
見た目は写真と同じ。
シャッタースピードを落とし、台にカメラを据える。
流れる川を背景に、シャッターを次々切った。
カメラのプレビューは、思い描いたのと違ってた。
緑のバッテンがいっぱい映ってる。
同じ景色を見てみたい、同じ写真を撮りたい。
何度シャッターを切っても、映るのはバッテンばっかり。
ちっとも見本のようにならない。
ほんの少し下なら……。もう少しカメラが右なら……。
惜しい写真が何枚も撮れる。
もう次でやめようか。
わたしは今日最後のシャッターを切った。
蛍は季節限定、今日がダメなら一年後かもしれない。
シャッター音がした後に、急いで確認する。
最後の写真に期待を寄せて、ボタンを押した。
出てきた写真は天の川とはほど遠い。
でもわたしは歓喜に沸いていた。
蛍たちは写真の中で円を描いてる。それは何重まるかわからない。
そして、外周を飛ぶ蛍は波打つように光の軌跡を残し、蛍たちは緑の光の花まるをわたしにくれた。
宝物が一枚増えた。新しい大事な宝物。
この軌跡の写真はもう二度と撮れない。一生に、いや地球で一度の奇跡に思えた。
きっと、これから撮る全ての写真が。