壱.はじまりの話。
ひらりひらりと少女は行く。
全てを知ったような顔をして、長めの外套をはためかせ、階下の出来事を見守っている。
そして口を開いた。
「君たちは其のまま何も知らずに入れば良いよ。楽しく人生過ごせるといいねーっと」
可愛らしい少女が二人と、青年が四人。
今、彼女が手に入れた人脈。
この事はきっと後に語るだろう。
ふっ、と彼女は地面へ向けて飛び立った。
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時は数年前に遡る。
少女が未だ、高校生だった時。
変わり者として知られている少女は今日も又屋上に突っ立っていた。
「お前、今日は何やってんだよ...」
青年が声を掛けてきた。彼の名前は小澤陸玖。この不思議な少女の友人である。
「えっへへー。風にあたりたくて。」
少女―磯原雪菜は答えた。
「私ねー、何か最近引きこもり気味でさー。」
にへへーと笑うも、彼は馬鹿にしたようにはっ、と笑い飛ばせば
「お前はいつもだろうが。今授業やってんぞ馬鹿野郎」
その言葉は心外だ、という顔を作り私は見つかったし行くか、と呟いた。
「おいちょっと待て雪菜。お前どこから行こうとしてるんだよ。」
「どこって...飛び降りていこうかと。」
「死ぬぞ?」
へーきへーき。だって私の特技だし。
私の兄も昔からそんな癖を認めてくれていたもの。
「陸玖は階段をのんきに足を痛めながら降りてきたまえよ、はっはっはー!!」
愉快そうに高笑いをしつつ、ぴよーんと屋上から飛び降りた。大した高さでもないのにビビりだなぁ、陸玖は。
こつっという音を響かせて着地する。
どうせ陸玖はまだ階段を降りているだろう。
授業が終わるチャイムが響く。
通る教師が驚いたように私を見るが、そんな視線は無視してポケットに入れておいた早退届けを渡した。
唖然とした顔をする教師をおいて、私は閉じている校門をひらりと飛び越した。
そして、私は学校なんかより大事な任務を果たす為に走り出した。