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観光ガイド、異世界を行く!  作者: かすたどん
観光ガイド、挑戦する
3/6

第3話 観光ガイド、外の世界を知る




とんとんとん。

とんとんとん……。


そんなノックの音で俺は夢の世界から帰還した。

ぼんやりする目を開けると、そこは俺が1晩を過ごした宿の1室。


「……ああ、もう朝か。ふわぁぁぁ」


あくびをしながらここに至るまでの経緯を思い出す。

異世界に召喚された、昨日。

レッシュ観光旅行社を手伝うことになった。

で、今後の生活をどうしようと思っていた時、エルに『宿はとってあるよ』と言われてここに来たんだっけ。

それでその後クロを部屋に呼んで……。

俺は体を起こしてソファで丸まって寝ている女の子に声をかける。


「おーい、クロ、朝だぞー」

「む、ううううん……。せんぱいとクロの記念すべき朝、くぁぁ……」

「紛らわしい言い方やめろよ」


そこにいたのは、夢の中でも俺のことを「せんぱい」と呼ぶ「こうはい」。

金髪の髪を朝日に輝かせる美少女アシスタントのクロ。

いや同室で寝たからって、ヘンなことしてたワケじゃないんだマジで。

昨晩、2人で今後のことを話し合っていた途中でクロが寝落ち。

俺もクロを部屋に運ぶのは面倒だったのでソファで寝かせた。

ただそれだけのこと。


……うん、俺は無罪だ(自分のパンツを確認しながら)!


と。



とんとんとん。



「ああ、忘れてた。ノック」

「むぅぅー?」


まだ意識が覚醒しきっていないクロを放置してドアの方へ。

こめかみを揉みながら「どちらさん?」と声をかける。

30代くらいの男性の声が返ってきた。


「ハルキの旦那、お迎えにあがりやした! あっし、ロキシーと申しまして、昨日旦那の乗った幌馬車の馬番でございやす!」


眠気の残る頭が顔と口調を一致させた。

ああ。この粋な話し方、微妙に覚えてる。

カギを開けると愛嬌のある顔が覗いた。


「朝からご丁寧にどうも」

「へい! エルカナ姐さんから伝言でごぜえやす! 『早速仕事が決まったから城門へおいで』とのこと。しかし道にでも迷われたらてえへんで、あっしがお迎えにあがりやした!」

「ああ。ちょっと待ってて。身支度整えるから」


早速仕事の話ときた。

エルを待たせるのも悪いと思って、すぐ準備に取り掛かる。

しかし……


「せんぱい、櫛ってどこかありますかー?」


ひょこっ、と。

クロが入り口を覗き込んだ。

まだ入り口にいるロキシーとバッチリ目が合う。

ちなみにクロはピンク色のパジャマ姿。


男女が同じ部屋で一夜を明かした構図(客観)。


マズい。

そう思った瞬間にはもうロキシーの頭が気まずそうに垂れていた。


「す、すいやせん! あっしとんだお邪魔をっ!」

「ち、違う! 誤解だ!」

「ご、5回も! 旦那、見かけによらず絶倫なこって!」

「ダメだこの人! クロ、なんとか言ってやって!」

「それよりせんぱい、肩貸してくれますか? 腰が痛くて……」

「それってソファに寝てたからだよね他意はないよね⁉︎」

「その話、あっしには刺激が強すぎやす!」

「順調に誤解が深まっていく⁉︎」


パルコムで迎えた初めての朝は、これまでの人生で最も騒がしい朝だった。



★★★★★★★★★★



幌馬車で10分。車だったら5分くらいか?

俺たちは昨日と同じく賑わっている城門前の市場に到着した。

ちなみにこの貴重な時間はロキシーの誤解を解くために費やされたわけだが、ロキシーは「若いお2人には当然のこと。胸張ってくだせえ」とニヤけながら目を逸らすだけだった。

本当に何もないのに。

昨日どころかコンビを組んで1年、まったく何もなかったのに。



……別に物欲しく言っているわけではないので一応。



幌馬車から降りて人の波を見渡すと、市場の片隅に見覚えのある三つ編みが見えた。

エルだ。

今日はえらく小さく見えるなと思ったら、しゃがんで熱心に何かをしている。


「エル、おはよう」

「おはようございますっ!」

「ああ、2人とも。昨晩はよく眠れたかい?」


凛々しく、穏やかな笑みを浮かべて挨拶を返すエル。

服装は昨日と同じで腰に差した刀と漆黒のフォルム。

飛行機の中では浮いていたが、異世界の風景ではよく映える服装だ。

昨日、突然飛行機に現れた時はマジでアブナイ人だと思っていたが、冷静に接してみると笑顔がステキな美人さん。

レッシュ社長やロキシーと比べると割と常識人なのかもーー


「こんなところで何を?」

「大したことじゃない。アリの脚をもいでいたんだ」

「心の闇が深い⁉︎」

「これをしている時だけ、イヤなことを全部忘れられる」

「あんた実は1番の危険人物だな⁉︎」


前言撤回。

最大級に警戒の要る人だった。

エルは足でアリの死骸を払い、俺に向き直る。


「早速仕事なんだ。同行してくれるね?」

「ああ、邪魔にならないようにするよ」

「それは困る。初日からたっぷり働いてもらうよ、よしはる」

「……よしはる? 俺のこと?」

「『またよしはるき』略して『よしはる』さ。嫌かい?」

「いや。好きに呼べよ、エル」

「それで、今日はどこへ行くんですか?」

「休題。それは道中で話そう。ロキシーは来ているね?」


外に出た勢いそのままに現地まで出て行くらしい。

俺とクロは幌馬車にトンボ帰りし、エルを加えて再出発となった。

エルがロキシーに指示を出すと車輪が石畳の上をゆっくり転がり始める。

馬車はしばらく走った後、関所のような場所で一旦止められた。

幌から顔を出すと、高い城壁とその1部になった大扉が。


「ここから城壁の外に出るのか」

「肯定。今関所で手続き中だから少し待ってほしい」


手続きはかなりユルかった。

槍を持った門衛が馬車の中を門番がさーっと眺めるだけで終わり。

異世界人の俺とクロも「ツレだ」というエルの1言ですんなりパス。

結局ものの5分でチェックは終了し目の前の大扉が開かれた。



ぎぃぃぃぃぃぃ……。



と。


「わあ! 大自然ですねっ!」

「……すげえな、まるで秘境だ」


目の前に広がっている、大自然。

かろうじて馬車の轍が残っているだけで、あとは人間の痕跡がない。

地球にこんな場所があるなら『地球最後の秘境』呼ばれているだろう。

俺とクロが目を輝かせながら感動していると、エルが口を挟んでくる。


「そんなにいいものではないよ。モンスターも生息しているからね」

「モンスター……か」


一応、話には聞いていた。

城壁の外に存在する凶暴なモンスター。

その強さはピンキリだが、キリでも一般人ではまず敵わないそうだ。

だからエルのような「護衛」という職業も存在するらしいが……

あー、なんか今更になって不安になってきた。

そんな俺の内心とは裏腹にエルはすぐさま仕事の話を始める。


「説明。今回の仕事は、最近見つかった『マーリット神殿遺跡』の調査。主にその遺跡がダンジョン化していないかを調べる」

「『ダンジョン化』……って何ですか?」

「ダンジョン化とは言葉の通り、強力なモンスターが棲みつくことで、その周辺が危険地帯になることだよ」

「む、難しいですね……?」

「要約。地形がモンスターの影響を受けることの総称と思えばいい」


実際にあった例を挙げると、こんな感じらしい。

小豚鬼(オーク)が隠れ家を作って廃墟をワナだらけにした。

巨大蜘蛛(ビッグスパイダー)が山一帯にクモの巣を張り巡らせた。

火竜(ドラゴン)が棲みついてただの山が活火山になった。などなど。

大小様々あれど、危険なことには変わらないみたいだ。


「じゃあ、マーリット神殿がダンジョン化してたらどうするんだ?」

「ダンジョン化の可能性は低いと踏んでいるが……その時は私の出番さ」


言いながらエルは、腰に手を当てて刀を振り抜く仕草をした。


「ダンジョン化の原因になったボスモンスターを倒せばその場所は元に戻る。それを請け負うのもわたしの仕事だね」

「まさかガイド以前にそんな大仕事が待ってたとはな……」

「ボスモンスター……強そうですね」

「うん。毎回楽しみにしているんだ。斬りごたえがあるからね」

「…………」

「…………」


この人はなんでこう、満面の笑みでアブない何かをチラつかせるんだろう。

俺とクロが苦笑いをしていると……。

馬車の動きが、ピタッと止まった。


「お三方! 着きやした!」

「到着だね」

「案外早かったな」

「あまり遠くに行くと危険だからね。さ、ぼちぼち行こう」


刀に手をかけたエルを先頭に、幌馬車から降りる。

すると……。


「おおっ……」

「立派な遺跡ですねっ!」


巨大な教会が森の開けた場所にどんと立っている、立派な神殿。

遺跡と呼ぶにはまだ早い、マーリット神殿の建物だった。

かつての繁栄と財力を想像させる、外壁の細かな装飾。

多くの信者が行き交ったであろう、広大な敷地。

人に見放されて寂しく佇む姿にも高貴さと神聖さを覚える。


「印象はどうだろう、よしはる?」

「いい。俺たちのいた世界なら間違いなく有名観光スポットだ」

「世界遺産クラスですねっ」

「中の方も相当期待できそうだな」


誰も知らない観光スポット候補を前に、静かにテンションを上げる俺。


「進撃。神殿の中に入るとしよう。ここからの単独行動はご法度だよ」


刀の柄から手を離さないエルを先頭に、クロ、俺の順で1列になる。

先頭のエルが警戒しながら古びた扉をバキィ! と蹴り開けた。

老朽化していた板は、それだけでいとも簡単に吹き飛ぶ。


「さあ、行こう」

「…………」

「…………」


いや、まあ用心を重ねるのはいいんだけどね?

観光スポットの扉を蹴り開けるって。

観光社の人間としてちょっとどうよ?




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