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観光ガイド、異世界を行く!  作者: かすたどん
観光ガイド、挑戦する
1/6

第1話 始まりはハイジャック?

作者の好きな物を詰め込んだ小説です。

どうかお付き合いくださいませ。

目安 : 1話あたり5000字以内

 


 ツアーガイドとして世界を飛び回る度に。

 知らない世界を1つまた1つと知っていく度に。


『誰も知らない土地をガイドしたい』


 という俺の気持ちは強くなって止まらない。



 ★★★★★★★★★★



「急ごう、クロ! 出発に間に合わない!」

「あーん、待ってくださいよー、せんぱいっ!」


 高さと広さを兼ね備えた国際ハブ空港に、切羽詰まった日本語が響いていた。

 はるか先の搭乗口を目指す2人組みの内1人は俺ーー又吉春樹。

 その横を並んで走るのは、コンビを組んで1年になる白鳥クロエ。通称クロ。

 小柄なクロが一歩踏み出す度、猫っ毛の金髪ツインテールが俺の肩をくすぐる。

 純日本人の俺が北欧ハーフっ娘の手を引いて全力疾走する姿はかなり目立ってしまうが、なりふり構っていられない。

 飛行機の出発まで時間がないのだ。


「この飛行機逃すと仕事に間に合わないぞ!」

「わ、わかってますよぅ! でもーー」

「泣き言言わずに走る!」


 俺たちは大手旅行会社に所属するツアーガイドだ。

 通訳、お客様の先導、観光地案内など、海外旅行のすべてを任されている。

 スタッフにとっては「誰だよこんな過密強行スケジュール組んだの」と文句を言いたくなる内容だが、それでももちろん遅刻は許されない。

 半泣きのクロを引っ張って走ると、わずかな時間を残して搭乗ゲートにたどり着く。

 空港のグランドスタッフがクロの金髪を見てイタリア語で話しかけてきた。


「Si prega di mostrare il biglietto《チケットを出して》」

Capiscoわかりました。せんぱい、チケットですって」


 クロが流暢な通訳を頼りに飛行機に搭乗する。

 息つく暇なく急かされて、チケット片手に席を確認。

 俺は通路側で、クロは同じ列の窓側だった。

 通路側席を好むクロといつも通り席を交代して、俺はようやく息を吐く。

 クロがひょこっと俺の顔を覗き込んできた。


「ギ、ギリギリセーフでしたね」

「ああ。今回はマジでヤバかった……」


 寝坊や遅刻など、俺たちに非があるミスならまだ納得できる。

 しかし今回遅れそうになったのは、道も詳しく知らないクセに『裏道通るよ』とドヤ顔で言って案の定道に迷ったタクシードライバーのせいで……。

 いや、こういうことが想定できなかった自分のミスでもあるのか。


「でもさすがせんぱいっ! すぐドライバーと交渉して別のタクシーを呼ばせた判断力と勇気、鮮やかでしたっ!」

「そんなことない。信用できないドライバーだって乗る前に気付くべきだった」

「そして謙虚! ああんもう、せんぱいったらさすがですっ!」

「あのさ、そこまで大げさに言われると恥ずかしいっていうか……」

「あとあとー、パスポートを出す仕草もすごく旅慣れてるって感じでー」

「…………」


 なぜこの後輩は、意味なく俺の行動を全肯定してくれるんだろう……?

 女の子から『さすが! ステキ!』と言われて悪い気しないけど。

 しかもクロほどの美少女から言われれば、素直に超嬉しい。

 ちょっとクセのあるふわふわした金髪ツインテール。

 エメラルドの海を思わせる透き通った碧眼。

 透き通るように白く柔らかな印象を受ける肌。

 唯一ニッポン遺伝子の出た丸顔もつるんとしていて愛らしい。

 信頼と実績と最強の北欧ハーフっ娘クオリティ。

 そんなクロとコンビを組む俺は、もしかしなくても超ラッキーなんじゃーー


「クロの顔、なにか付いてますか?」

「い、いや、うん。なんでもない」


 碧眼に見つめられ慌ててごまかした。

 クロも深くは追求して来ず、そのまま一旦話が途切れる。

 まあ、移動時間だって俺たちにとっては休憩時間だ。

 着陸までの5時間(時差込み)。

 朝からバタバタしていた分、ゆっくりさせてもらーー





「問いかけ。そこの人、少しよろしいだろうか?」





「うん?」


 ハスキー気味なよく通る声に遮られた。

 久しぶりにクロ以外の声で日本語を聞いたから、俺は思わず片目を開ける。

 声の主は……俺の左側、窓際席に座っている人。

 長い黒髪を三つ編みにして背中に垂らした女性だった。


「えっと……お、俺?」

「肯定。もちろん君のことさ」


 端正で優雅な顔立ちに、顔の中心を通る整った高い鼻筋。

 俺を見つめる瞳はルビーから抽出したように深みのある紅。

 華やかな美しさを持つ、クロとはまた違うタイプの美人。

 しかし穏やかそうな微笑みの裏、雰囲気だけは妙に鋭い。

 その矛盾じみた美貌に気圧されて、俺は無意識のうちに背筋を伸ばしていた。

 と。


「せんぱい?」


 俺の異変を感じ取ってか、通路側席のクロが覗き込んできた。

 怪しい美人に少し眉根を寄せる。


「お知り合いですか?」

「いや違うけど……」


 こんな良くも悪くも目立つ知り合い、いないハズだが。

 そう思いながら俺は、さりげなくパスポートと財布をクロにパス。

 外国人に日本語で話しかけられた時は要警戒だ。

 平和ボケした日本人を騙すため、日本語を学ぶ犯罪グループだって存在する。


「何か用ですか?」


 警戒心をむき出しにしながら突き放すように言う。

 怪しい品を勧められるか、もしくは両替詐欺か。

 幸いまだ飛行機は離陸していない。

 妙な動きがあればすぐ騒ぎを起こそう。

 と、身構えていた俺の耳に。

 彼女の答えは意外な物だった。


「一緒に来て欲しいところがある」

「は?」


 騒ぐどころか黙らされてしまった。

 待て待て、状況わかってる?

 滑走路に向かおうとしている飛行機の中だぞ?

 一般人を犯罪に巻き込む手口?

 いや怪しすぎて誰も引っかからんだろ。

 肉食系女子の新手のナンパ?

 いや逆ナンなんて世界中のどこでもされたことないぞ。

 いろいろ考えすぎて首が縦にも横にも動かない。

 そんな俺にシビレを切らしたのか、彼女は肩をすくめた。


「やれやれ、力づくで連れて行くしかないな」


 と、ため息交じりの声が聞こえた瞬間。

 ガシッと。

 俺の腕は掴まれていた。


「お、おいっ! なにをっ!」

「怖がる必要はない。すぐ終わる」


 突然のことに俺は抵抗すらできない。

 ていうか、俺の腕を掴む彼女の力が万力のように強くて動けない。

 彼女は大して力んだ様子もなく、空いた片手を自分の腰に回した。

 そして何か細長い物を腰から外して振りかぶる。

 それはーー鞘に収まっている刀。



 ……カタナ?



 待て。

 刃物系は機内持ち込み厳禁のはずだぞ。

 まさかハイジャック⁉︎


「せ、せんぱいに何やってるんですかっ⁉︎」


 と。

 俺が反応するより早くクロが声を上げた。

 そして俺の、空いていた左腕をぎゅっと掴む。


「ああ、そうだった。彼女も連れていくんだった」


 一体何を言っているんだ⁉︎

 と、聞く時間すら与えられず。

 俺とクロが同時に刀の鞘で叩かれた。

 こつん、と軽い感触が頭に響く。



 と同時に。



 周囲の景色がテレビの砂嵐のようにガザガザと変化を始めた。

 丸みを帯びた機体の内部やエコノミーの椅子が徐々にかすんでいく。

 視界がテレビの砂嵐みたいに白、黒と点滅する。

 強い磁場に放り込まれたような感覚。

 そのままクロもろとも暗い点滅信号の中に引きずり込まれて……


「うわあああああああっ⁉︎」

「どひゃああああああっ⁉︎」


 旅客機内はちょっとうるさくなってすぐ静かになった。







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