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ロボコンガールズ  作者: 蒼原悠
Ⅴ章 ──不死鳥の辞書に不可能の文字はない
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086 大爆発



※物理学的に無理のある描写が一部ございますが、ご了承のほどをお願い致します。




 その瞬間、【ドレーク】の尾部に取り付けられた箱から、目には見えない波動が勢いよく放たれた。

 例えそれが光だったとしても、波動が広がる様子を見ることは不可能であっただろう。加えて傍目には、それは何の変化も見られなかった。

 それを攻撃と感じ取ったのは、人間ではない。ロボットであった。フェニックスのものを覗く全てのロボットが、一斉にその動きを止め、或いは力を失って崩れ落ちたのである。

 はじめ、起きた事態を知り得た者はフィールド内には誰もいなかった。当の悠香でさえ、唐突に動きを止め沈黙に陥った【ドレーク】を、少しの間じっと見ている事しか叶わなかった。


《おや、これはどうしたことでしょうか! ロボットが揃って動かなくなっています!》

《驚きですね。見事に一台も動きません。一体、この会場内に何が起こっているのでしょうか?》

 困惑した様子の実況を聞いた観衆も、ようやくフィールド上で発生した事件を知った。声援の消えた会場には、その代わりにひそひそと話し合う声がさざめきとなって響き渡り始める。

 物理部も友弥も、それは同様だった。ただ一人、落ち着いた様子を見せているのは冬樹だけだ。


「見たかよ、あれ」

 冬樹はさも自慢げに笑った。「あれが、俺の力作『ロボット破壊装置』の力だよ」

「なんで、あんなことに……?」

 茫然自失とする友弥。この顔が見たくて、冬樹はあんな性能過剰(オーバーキル)な兵器を製作したのだ。意気揚々と冬樹は説明を始める。

「種明かしするとな、あれは強力な電磁石なんだ。電磁石にはパルス電流の大きさを目一杯大きくして超強磁場を発生させる『直接放電法』って技術がある。今回はそのパルス電流を放出するための特殊回路を、我が校の物理部と一緒になって作ってみたのさ。磁力にして数十テスラ、医療用MRIの十倍近くにはなる」

「…………」

「……な、なんだよその目付き。大丈夫だって、人間には何のダメージも及ばないよ」

 友弥に睨まれた冬樹、途端にたじたじと弁解の姿勢になる。

 友弥は爆心地に一番近い悠香が心配でならなかった。詳しくないから分からないが、強磁力を浴びるというのは放射線被曝に等しいのではないか?

「……まぁ確かに、一瞬の出来事なら大丈夫かもしれないわね。磁力でしょ? そもそも自然界には、磁場が溢れてるもの」

 北上が呟く。

「あくまで人間(・・)は、無事でしょうね」




「どうなってんだ、これ……?」

 停止した【BREAK】をあちこち調べながら、どこも異常が見られないと確認するそのたびに奥入瀬は顔をしかめた。

「どう?」

「全く」

 覗き込んできた川内に、カバーを外した【BREAK】を見せる。どこの回線も焼き切れておらず、どこの部品も弛んですらいない。

「でもこれ、動かないんだよな……?」

「ああ」

 あの閏井が、困惑していた。物部の【BREAK】はまだ辛うじて電波の反応があるものの、動かないので実質的には故障と同じだ。残りの二台に至っては完全に沈黙してしまい、しかも傍目にはどうして故障しているのかさっぱり分からない。


 待てよ、と川内は思った。傍目には見えない?

「目に見えるところに、被害が起きてないとしたら?」

「……えっ?」

 思わず聞き返した奥入瀬の声が、裏返った。川内は十勝を呼ぶ。

「十勝。これ、全く反応が無いんだよな」

「ああ、全く」

「やっぱり」

 川内の焦った顔が、妙に印象的だった。

「……回路をやられた」




 一方。

「……えっ?」

 フェニックスの陣地では、陽子が奥入瀬と全く同じ聞き返し方をしていた。だがその声には思いなしか、狼狽に混じった欣喜が感じ取れる。

「基盤を替えたら、あっさり直ったよ」

 そう言葉を返しながらリモコンを手渡した麗も、不可思議極まりないといった表情をしている。その足元で、元通りに回復した【ドレーク】が『ぎゅるん!』と車輪を空回りさせた。クローラーさえ取り付ければ、もうどの辺りが壊れていたのかなど全く分からない。

 パソコンの画面を見ていた菜摘が割り込んできた。「どうも、電子基盤が磁場に晒されて狂ったみたいだよ。戻ってきたそいつをテスターで調べた時、微かに磁気を帯びてた。データのグラフを見てもその瞬間、モーターが大電流を浴びてクラッシュしたのが反映されてる」

「じゃああれは、磁場を放出する爆弾だったんだ……」

「すげえ……」

 こういう時、どういう感想を述べたらいいのだろう。悠香たち五人は各々の顔にてんでばらばらな表情を浮かべ、それを見比べあった。適切と思えるような答えは、少なくとも五人の中には一つもない。


 と、麗の肩の向こうをふと眺めた悠香は、気づいた。

 多くのチームはまだ引き起こされた事態の正体すらも掴めぬまま、ぼうっと時間を過ごしているではないか。


 そうか、これが目的だったのか!

「私たちは事前に基盤交換するように言われてたけど、他所のチームにはそれがない! だから、修理に時間がかかるんだ!」

「それだ!」

 (ひらめ)いた悠香の叫びに、陽子が手を打って賛同した。「あの装置はロボットを壊すことじゃなくて、それで時間を稼ぐのが目的の兵器なんだ!」

 ならば、行動すべきは今しかない。思わぬ形でもたらされたこのチャンスを、フェニックスは失うわけにはいかないのだ。


「あたし、さっき考えたアイデアがあるんだ」

 陽子が声を上げた。「磁力爆弾を使っちゃった以上、攻撃でも何でも距離が問題になってくるじゃん。『積み木』も遠くて大変って話、さっきハルカともしてたでしょ? 」

「うん」

 頷く四人。すると陽子は、猛烈に大胆な計画を口にしたのである。


「その『積み木』の塔を、丸ごと動かそう」


 それを聞いた悠香たちがどのくらい驚いたかというと、仰け反って後ろに倒れそうになったくらいである。

「スペックシートを見てて思い付いたんだ。あのモーターなら、いける」

 陽子は本気である。いや、この場で陽子のそのアイデアを馬鹿にしている者など、誰一人いない。

 悠香も呟いた。「そうか、どうせ塔の一段目は接着剤が剥がれちゃってるんだから……」

「そういう事」

 陽子は立ち上がり、ロボットたちを順々に指し示す。

「まず、塔の一段目に熱塗料を吹き付けて、【エイム】に掴ませるんだ。そしたら手動走行に切り替えて、その後ろに【ドリームリフター】を接続して、【ドレーク】で押す。【ドリームリフター】は設定した速度が遅いだけで馬力は大きいし、重量もバカみたいに重いから、推進力&(おもり)として十分な力を発揮するはずだよ」

「……他所に狙われたら、お仕舞いだね」

「【ドレーク】を殿(しんがり)に付けて、いつでも離脱攻撃できるようにすればいい」

 説明を受ければ受けるほどに、なんだか現実味を帯びた計画のような気がしてくる。

 現実問題、この辺りにはもう『積み木』が残っていない。何かやらねば、状況打破は無理だ。

「やってみよっか、それ。私は価値のある挑戦だと思う」

 悠香は賛成した。残りの三人も、続々と頷く。

「……ありがとう」

 嬉しくてちょっと笑った陽子だったが、次に目をしばたいた時にはもう、凛々しいいつもの表情になっている。

 陽子は宣言した。

「早速、やるよ!」





 一方、そんな会合が行われているとは知らない、保護者席では。

「あの子たち、どうしたんだろう」

 親たちが不安そうな目線を交わしていた。

 フェニックスは一歩も動かぬまま、何やら真剣な顔付きで話し合いを重ねているのである。不安にもなろう。

「リタイアとか言わないわよね……」

「……まさか、そんな事はないでしょう」

 おろおろする悠香の母に、麗の母はそう言って返した。

 根拠はない。だが、あれはリタイアの相談をしているようではなさそうだ。むしろこれから何かを企て、派手に作戦展開しようとしているような空気を感じる。

「でももう、他所のロボットが一斉に停止してから四分ですよ?」

 菜摘の母もまた、分からないとばかりに首を振っている。「他所のチームみたいに、まだ修理をしているんじゃ──」


 そこで言葉が途切れた理由を全員が知るのに、二秒と必要なかった。

 フェニックスが動き出したのだ。しかも、これまでの動きとは全く違う。輸送ロボットが塔そのものを掴んでいる! 

「何、あれ……」

 悠香の母の呟きに、今度は麗の母も言葉を返す余裕はなかった。塔を掴んだロボットの後ろにさらに二台のロボットが付き、押し始めたのである。

「まさかあの塔そのものを移動させようとしてるんじゃ!」

「そんな、成功するわけが……!」

「あれかもしれないですよ、塔をどこかのチームにぶつけて壊そうとか……!」

 憶測でしかものを語れないのが歯痒い。あれは一体、何をしようとしているのか。五人の保護者たちには誰一人として見当がつかなかった。

 いや、むしろフェニックスにとってはつかなくて正解だ。ついてしまったら作戦の意味がないのである。

 『塔を動かして陣地を変える』なんて大胆不敵な作戦、発覚しようものならどんな攻撃を受けるか分からない。




 ハイリスク・ハイリターンの反攻作戦が、始まった。





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