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ロボコンガールズ  作者: 蒼原悠
Ⅴ章 ──不死鳥の辞書に不可能の文字はない
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085 決死の反攻


 叫ぶと、フィールド上で立ち話をしていた二人はすぐに戻ってきた。どうしたのだろう、と麗や菜摘も顔を向ける。

「『Armada閏井』の戦略が分かった気がする」

 亜衣はゆっくりとそう口にした。勿体ぶっているのではない。亜衣にだってまだ、確証は持てないからだ。

「近い順、或いは攻略しやすい順かは分からないけど、閏井は一チームずつ潰す作戦に出たみたい。うちのチームがターゲットになるのも、時間の問題だと思う」

「マジかよ……」

 陽子が呻いた。確かに、閏井の動きはさっきから妙にピンポイントになっている。

「そうなると、閏井の動きを何とかして止めないといけないよね」

「でも止めるって、一体どうしたら……」

「塔を崩すとか?」

「あれからあのチーム、一段も積み上げてないんだよね……」

 この辺りは閏井の狙い通りであった。攻撃の停止と言っても、悠香たちにできることはかなり限られてくるからだ。

 打つ手の思い付かなくなった五人は暫し、黙ってしまった。金属の鉄骨が縦横無尽に延びた天井に、もはや何の音かも分からない響きが地鳴りのように共鳴している。ひどく不気味だった。


 フェニックスにはこの時、『積み木』が足りないというもう一つ別の問題も生じていた。

 横積みで五メートルを目指すためには五十個の『積み木』が必要だが、このフィールド内にはそもそも二百個しかそれがない。しかもフェニックスは端に陣取り過ぎたせいで、もう周囲に『積み木』がほとんど残っていないのである。

 遠くに取りに行くのも限界がある、と悠香と陽子は話していた。そこに、亜衣からの声がかかったのだ。


──発想を変えなきゃ。

 悠香は思った。

──ちょうど『Armada閏井』だけを狙って停止させるなんて無茶だけど、何もかも停止させちゃえば問題はないよね。そしたら、積み木をこちらに持ってくる時間が稼げるかも……。


 とすると、使えるモノは……? 


 その時、悠香の脳内に浮かんでいたモノを冬樹が知ったら、『それだ!』と高らかに叫んだだろう。うろ覚えながらも、悠香はしっかりとその名称を口にした。

「『ロボット破壊装置』……?」

「何だっけ、それ」

 呟いた菜摘に、亜衣が奥から紙の束を放る。冬樹が教室に完成品を持ってきた時に置いていった、≪ショットガン≫の使用方法や修理の仕方の記載された紙だ。

「それに何か書いてないかな」

「使い方なら……」

 ぺらぺらと捲った菜摘は、その一部分を指し示した。


『動作ボタンを押すと、リモコンの電波の届く範囲にいる限りは瞬時に作動する。

使用前に必ず電子機器類は退避させ、半径五十メートル以内に置かないこと。高周波回路に少なからぬ影響を及ぼし、破損する(おそれ)有。

緊急の修理に対応できるよう、指示しておいた予備用基盤の準備をしておくこと。その際、必ず布で包み、金属製の箱に入れること』


 それだけが書いてある。諸元その他一切は記述されていないが、

「……半径五十メートル以内のロボットに、大ダメージを与えるって事なのかな」

悠香の弁に全員は頷いた。恐らく、そういう事なのだろう。

「使おう」

 悠香はすぐさま言葉を接いだ。「なんかよく分からないけど、私たちにできることは全部やろう。せっかく石狩さんが作ってくれたんだもん。無駄にしたまま終わるなんてできないよ。ヨーコ、操縦は私が代わる。みんなの電子機器類を回収して、控え室に置いてきて」

 こくんと首を垂れた陽子に、デジタル腕時計や電子端末など次々にモノが手渡される。悠香は残りの三人を振り仰いだ。

「ナツミ、【ドレーク】にもし何かが起こったら、その時に起きた事をしっかり見てて。レイちゃんとアイちゃん、すぐに修理できるように準備しといてもらえる?」

 分かった、と三人は口々に応じた。未だ高速化されたままの【ドレーク】を悠香は見つめ、ふっと力を抜いた余白に気合いを入れる。


 勝負だ。




 目指すは、このフィールドの中心部。

 半径五十メートルが対象範囲ならば、山手女子フェニックス以外の全ての残存チームがその円内に収まるはずだ。

「途中で襲われたら……」

 前を走る【ドレーク】を追いかけて走りながら、悠香はただひたすらにそれを畏れていた。陽子同様に操縦の練習を積んでいる悠香にしてみれば、反撃など大して難しい事ではない。だが、万が一にでも『ロボット破壊装置』を壊されてしまったら。そう思うと、【ドレーク】の尾部に搭載された直方体状の装置が、さっきよりも何倍も存在感を増している。

 そして、悪い予感は的中した。悠香の姿を認めた閏井の一人が、怒鳴ったのだ。

「またヤツが来たぞ!」

 向こうのロボットが急加速し、『積み木』を投げてきた。すんでのところで【ドレーク】はそれを(かわ)したが、すれすれだ。

──遠すぎて反撃もできない! 

 悠香は唇を噛んだ。閏井のロボットは長距離からでも攻撃できるが、【ドレーク】はそうはいかないのである。


 不幸にも、その時【ドレーク】を視界に捉えたのは物部だった。

 先刻【BREAK】を打ち破られた恨みが、一気に喉元を通過して膨れ上がった。くそ、と舌打ちした物部は【BREAK】をそのまま近くの『積み木』に向かわせ、がっしりと掴む。

「おい、物部! ターゲットはそっちじゃない!」

「うるさい────!」

 川内が必死に自制を求めていたが、怒りに狂う物部には立て板に水であった。【BREAK】の舳先が再び【ドレーク】に向かい、物部は速度を最大まで引き上げる。


 悠香はぐるりと遠回りして、目標地点を確認した。

 それは閏井の陣から横十メートルの、フィールドのまさに中心の場所だった。一度は陽子が斬り込みに成功し、そして塔を崩してきたあの場所だ。

「待てこらぁ────っ!」

 怒りで血相を変えたさっきの閏井のメンバーが、再び『積み木』を掴んだロボットと共に追いかけてくる。決意を込めた拳を左手に握った悠香は、【ドレーク】を右折させた。サスペンションから悲鳴のような火花が上がり、蹴散らされた部品がフィールドの肌の上を抉るように飛んでいく。無理を承知で、こうしたのだ。

 見る間に迫る閏井の陣。横からもう一台のロボットが飛び込んできたが、【ドレーク】には一歩間に合わなかった。

 中心が迫り、

 迫り、

 迫り、

 ────! 






 悠香は、ボタンを押した。





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