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ロボコンガールズ  作者: 蒼原悠
Ⅴ章 ──不死鳥の辞書に不可能の文字はない
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083 電撃作戦!





 疲労の激しいフェニックスとは対照的に、余裕を持ってプレーできている『Armada閏井』のメンバーは未だ疲れが少なかった。

 しかしながら競技開始から一時間二十分が経過しようとしている。思っていたより、長丁場だ。


「三メートル、か」

 川内は呟いた。

「このまま一気に決めちゃうのはなんかつまらないし、そろそろ攻撃に再転換してもいい頃合いかな」

「そうだな、脅威は少ない方がいいし」

 十勝が賛同の意見を述べる。うん、と頷くと、川内は奥入瀬に声をかけた。「あと何チーム残ってそう?」

「九じゃないか」

「随分減ったな。五分の一か」

「俺たちが何もしなくても、勝手にお互いが潰し合ってるからな」

 閏井が何か行動を起こすだけで、さっきの『梅宮花魁之舞』のように周りは独りでに戸惑い混乱し、暴走してくれる。だが、残っているのは恐らく強豪チームばかりのはずだ。

「やっちまおうか」

 川内の一言は、インカムを通じてすぐに有田と物部に伝えられた。よっしゃ、と二人は俄然意気込む。この二人、本音では『積み木』を積むのより、投げる方がずっと好きなのである。

 そうと決まってしまったら、勢いはもう止まらない。閏井の魔の手の襲来を受けたチームが三つ、次々に塔を崩されロボットを壊され、涙に暮れながらフィールドを後にする。要した時間は、僅かに八分である。


 余裕という単語すら、もはやこのチームには相応しくなかった。

 去年は二位につけていた山手フィジックスが、今年はいないのである。東高軍が早期にリタイアした今、向かうところ敵なしとはまさしくこのことだ。

「有田! 次、そこを狙うぞ!」

「おうよ、任せとけー!」

 互いにコミュニケーションを取りつつ、次なるターゲットを決めた有田と物部の【BREAK】はV字状に展開した。どちらを攻撃目標に据えるべきか悩んでいる様子の他チーム攻撃ロボットを挟撃し、投げた『積み木』であっさりと駆動部分を破壊して動けなくする。鮮やかとしか言い様のないそのスピードと的確さに、向こうのメンバーもただ口をぽかんと開けているばかりだ。

 もうテンションが上がりまくりの物部、らしくもなく声を上擦らせて叫んだ。

「よし、次っ────」



 その時だった。

 ああ、それは本当に文字通り、一瞬だった。

 【BREAK】の前方に横から飛び込んできた一台のロボットが、強い力で【BREAK】を撥ね飛ばしたのだ。

 ガシャア────ッ!

 横倒しになった【BREAK】は、その場でスピンしながら五メートル近くも滑走する。その横を、例のロボットが高速で駆け抜けていった。

「あっ……!」

 物部は【BREAK】を回収するのも忘れ、その影を目で追った。先頭部分にピストン状の機構を備えた、クローラー駆動のくせに異様に速力の高いそのロボットは────。

 閏井の塔を狙っている!

「川内! そっちにロボットが向かってるぞ!」

 トランシーバーに怒鳴った物部の脇を、ロボットを追跡するように一人の少女が駆け抜ける。赤のシャツを纏ったその少女は、

「いっけええぇ────!」

 渾身の叫び声と共に、手にしたリモコンに何かを入力した。

 塔の目の前まで来ていたそのロボットの向きが、突如としてがくんと変わった。

「そうか、狙いは【BABEL】だ……! 」

 物部の声よりも早くロボットが【BABEL】の懐に飛び込み、破砕音を派手に上げながら【BABEL】の巨体は横転した。直ぐに方向転換をしたロボットは、返す刀で塔の広い面に衝撃を叩き込む。がらがらがら、と乾いた音を立てて塔は消え去った。

 見かけの速度は毎秒十メートル近くはあっただろうか。刹那のうちに終わった電撃的な奇襲に、物部も、有田も、なすすべがなかった。


《おおっと! 閏井の塔が崩されました! 信じられません、あれは山手女子フェニックスの攻撃のようです!》

 信じられないとばかりに喚く実況に、会場は大きくどよめき、次いで多くが歓声を上げた。それは、閏井の攻撃によって痛い目に遭ったリタイアチームの面々であった。

「やった……!」

 【ドレーク】を手動操縦に切り替えた陽子は、確かな手応えを感じ【ドレーク】の後を追った。早く、早く陣地に帰らなきゃ。

 途中で閏井のもう一台の攻撃ロボットが『積み木』を投げてきたが、最大速力毎秒九・五メートルを誇る今の【ドレーク】にそんなものは効かない。華麗に避けて見せると、ちくしょうと罵る閏井のメンバーをすり抜けて陽子たちはフェニックスの元へと駆け戻ってきた。たった十秒である。

「すごい! すごいじゃんヨーコっ!」

 途中ですれ違った悠香が、興奮も露にハイタッチをしてくる。その向こうで菜摘や亜衣や麗が、驚きと喜びとが入り雑じった顔で陽子を見つめている。

「どーよ」

 【ドレーク】を停止させると、陽子は笑った。「あたしたち、まだやれると思わない?」

「うん……!」

 菜摘が立ち上がって、陽子の手を握る。

「あの暴れ馬みたいな【ドレーク】を操縦したヨーコも、立派に働いてくれた【ドレーク】も、かっこよかった! かっこよかったよ……!」

 麗も亜衣も、その言葉に強く首を振ってくれた。亜衣など早くも涙ぐんでいる。

「……そうだよ、ロボットのみんなは頑張ってるんだ。生身の私たちがもっと頑張らなきゃ、割に合わないよね」

 菜摘の言葉はそのまま、一気に高揚したフェニックスの士気の目指す未来を示していた。陽子の目論みは、達成されたのだ。




「……山手女子のこと、侮り過ぎてたな。俺たち……」

 全員の集まった場所で、十勝はパソコン画面の青白い光を浴びながらぼそっと言った。

「どのくらいで直る……?」

 物部の心配そうな声に、奥入瀬は右手を上げて答える。少し黙ってろ、という意味だろうか。渋々陣地の端に座り込んだ物部は、さっきの十勝の言葉に応じた。

「全くだ。思えばあんなに端に陣取ってる連中だし、フィジックスでもないから取るに足らない存在だと思ってたよ。あんなにヤバいロボットを隠し持ってただなんてな……」

「……あの性能の高さだし、フィジックスからの技術提供を受けてる可能性もあるよな」

 川内が唸り、四人は沈黙に包まれる。正確には、あの攻撃力を支えているのは物理部ではなく冬樹の個人的な腕前なのだが、そんなことをこのメンバーが知るはずはない。

「どうする、これから」

 十勝が問うと、物部が答える。「反撃だろ。今も有田は健在だし、どうせあと少しでそいつも直るだろ?」

 奥入瀬はまだ無言のままである。

「早計じゃないか?」

 川内が口を挟んだ。

「せっかく快進撃だった僕たちの勢いを止めてくださったんだ。相応の敵として、これからは扱ってやったらどうかな」

「……最後まで取っておくって事か?」

 奥入瀬が遂に口を開いた。川内は、ふっと笑う。

「察しがいいね」

「俺もそれ、賛成」

 十勝もがそう言うので、物部は頷かざるを得なかった。悔しい、相手は自分の【BREAK】を撃ち破った敵なのに。

 だが。冷静になって考えれば、それも悪くない。

「去年の一位と二位が再び勝敗を決するんだ、テレビ的にも受けがいいだろ」

 冗談めかして言った川内だったが、その目は本気だった。





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