表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/41

irregular time jazz

BLって、blueな奴らのLOVEって事?

「おい! おいって」

 背後から纏わりついてくるキーボくん二号をキーボくん一号はやんわりとその拘束を外し、距離をとる。

「何ですか? 二号さん」

 一号の言葉にあからさまにムッとする二号。

「その二号さんって、やめてくれない」

 なぜ二号が怒るのか分からず首を傾げる一号。

「二号さんは、二号さんじゃないですか」

 ガシっと、二号が一号の肩をもち壁に押し付ける。

「俺はお前の二号ではなくて、一番になりたいの! それくらい気付けよ」

 一号は自分の口が二号の唇で塞がれたことに驚き固まってしまう。そうしている間にも二号のキスはより深いものになり、一号はその刺激に身体を震わせる。

「ッン」

 その反応に二号は気を良くして、敏感になっていく一号の身体を優しく淫らに撫でていく。


 コレは……と俺はリアルなキーボくんが、くんずほぐれつの行為をしている同人誌を読み、顔ひきつるのを感じた。


「なんだ? これ」

 安住さんは『青い兄弟、商店街で燃えて……』というタイトルの本を手にそういう言葉を発する。もう一体のキーボくんに入っている安住さんを呼び出し、二人で緊急会議をしているようだ。

「商店街事務局に届けられた、キーボくんのファンという方からのプレゼントです」

「ほう」

 安住さんはニヤニヤしながら、その本を読み続けている。珍しく透さんが目を吊り上げた怒りの表情だ。というか、こんなに感情的な様子は初めてである。

「ほう、じゃないですよ! キーボくんがこのように世間から思われているなんて、忌々しき事態ですよ」

 俺も良く知っているわけではないけれど、真面目な透さんにはこういう世界まったく免疫がないのだろう軽くパニックを起こしているようだ。

「ユキさん、たぶんそう思っているのは世間の中のごく特殊な層だけだと思いますよ」

 そう説明しようとするが、聞こえてないようで安住さんの方をジッと見ている。

「うほ~すげ~キーボくんの下半身ってこうなってるんだ! 一号けっこうなモノもってたんだな~ 初めて知ったよ! 」

「生生しい話はやめてください!!」

安住さん頼みますから。これ以上透さんを刺激するのは止めて欲しい。

「いいですか? 今後はこんな誤解をうけるような行動を慎んでくださいよ!

 それから、キーボくんは恋愛禁止ですから! 今後は京子さんともキーボくん姿でのデートは厳禁ですから」

 たぶんこういう本を書く女性って、そんな空気あろうがなかろうがソッチへ話をもっていくものだと思うのだが、ユキさんは自分達がそう思わせる行動をしたことでそのように思われてしまったと考えているようだ。

「恋愛禁止って、アイドルかよ」

 安住さんはもう興味をなくしたのかキーボくんの本をテーブルに投げる。

「京子がなんかキーボくんを嫌っているからそんな事しねえけど、お前こそソレやるなよ!」

 透さんはムッとした顔を返す。安住さんと話していると、透さんが幼くみえる。

「俺は彼女なんていませんし、いたとしても安住さんみたいにキーボくんでデートなんてしません!」

 安住さんがニヤ~と笑う。

「えぇぇぇ! 恍けやがって聞いてるぞ……」

 そこまで言って安住さんは視線をチラっとカウンターの杜さんの方に向けて黙る。

「なんですか! 聞いてるって」

 透さんってけっこう、こういうところ突っ込んで聞いてくるんだ。安住さんは目を泳がせる。

「いや、ほら、バーのイケメンマネージャーってことで、店でも声かけられてるんじゃねえの?」

 透さんは、フーとため息をつく。

「そんなお客様に手を出すなんてするはすないでしょ? なんですか、そのイケメンマネージャーって」

 透さんはカッコいいというより綺麗な顔しているから間違えていないとは思うけど、透さんには自覚ないようだ。

「おめえも硬いな~! さっきの動揺の仕方といい、まさか童貞って事ないよな?」

 安住さん何てこと言うんだろ? 透さんはその言葉に怒るというより呆れている。

「この年でそんなはずないでしょ!」

 あっさりとそんな言葉を返す透さん。しかしそこでそういう話題乗らないほうが良いのでは? 安住さんのニヤニヤした顔を見てそう思う。

「え! 東明くん何気に経験豊富? 今まで何人と付き合ってきたの?」

 顎に手をやり実際に過去を振り返っている透さん。

「そういう意味で付き合ってきたということでしたら五人でふつうですよ。中学生で一人、高校大学で二人ずつ」

 キッチリと報告という感じでとカミングアウトしてしまう所が真面目な透さんっぽい。しかし「そういう意味で」というとそういう関係をもった相手ということ、何気に初体験が早くないかと俺は思う。

 安住さんもそう思ったのだろう意外そうな顔をしている。

「ユキくん、料理出来たみたいだから、お願い出来るかな?」

 杜さんが、そう透さんに声かけることで、この話は中断されてしまう。透さんがいなくなるのを確認してから杜さんは安住くんに笑いかける。

「あのさ、ユキくん純情だからあまりそうった話をツッコまないであげてほしいな」

 杜さんの言葉に安住さんは『んー』と小さい声をあげる。

「でも、それなりに経験してんだろ?」

 杜さんは安住さんの言葉に笑う。

「ユキくんは、あの顔であの性格だろ? だから女の子から結構モテるんだ。しかもしかもかなり熱いアプローチしてくるような強い女の子に。そして優しいからその相手に押し切られるように付き合うって感じ。で、悪い虫を払うのが大変だったようだよ」

 悪い虫を払うって、さらっと杜さんが気になる単語を言う。誰がその元彼女(わるいむし)を払ったの?

 安住さんはその部分が気にならないのか『東明らしい~』と笑っている。

「でさ、今の彼女はどんな感じ?」

 安住さんの言葉に、俺は『え?』と思う。まああの性格で顔だし、彼女いてもおかしくはないのだが。杜さんは安住さんの言葉に苦笑いする。まさか、その彼女も気に入っていないのか? 俺は怖くなる。

「彼女じゃないよ、まだね」

 杜さんはため息をつく。

「それがまだ互いが気になっているだけという感じで、ユキくん自体もそんな感情を相手に抱いている事も気が付いていない感じなんだ」

安住さんは、目を丸くキョトンとした顔をする。

「何? いい大人なんだから、それが愛か友情くらい分かんだろ」

 Kenjiさんのアプローチにも気が付かなかった透さんである。結構鈍感そうだ。

「だから、さっきも話したように、アプローチされて始める恋愛ばかりしてきたらから、自分から相手に興味をもってという事に慣れていない。

 そして今回初めてユキくんが相手を感じて想う相手が出来たんだ。だから皆でそれを温かく見守っている所なんだ」

 皆で? ってどの皆?? 俺は首を傾げている横で安住さんがニヤニヤしている。

「そういう事か、ふ~ん」

「君は余計な事しないように」

 杜さんのキツメの声に、安住さんはニヤニヤをやめて頭を下げる。そのタイミングで透さんが料理をもって降りてきた事で、この話題は終わりになった。


 しかし透さんに、好きな人か……どんな人なのかな~と俺は考える。カワイイ系? 綺麗系? どちらにしても、優しい彼氏になるんだとう。しかし、その相手の女性と透さんの関係が進むスピードよりも、キーボくん一号と二号の関係はより濃厚な方向に進んでいく。しかしこういう本を本人?本マスコットに渡すのかが分からない。ひっそりと同じ趣味の人同士で楽しんでいただけたら良いと思う。


 それでもキーボくんイベントで頑張っている透さん。今日も中央広場でのイベントをこなしている。俺は最近、薄い本のせいでお疲れモードの一号さんを台車で迎えにいったら、赤いキャップを被ったキーボくんの方がコッチ向く。何故だろうか、ほとんど同じ姿なのに安住さんが入っている二号さんだと分かる。この二体ってすぐに区別がつく。

 二号さんは、俺を見て台車を見てなんかニヤリと笑った気がした。

「おーい、一号! ()()が迎えにきたぞ~!」

 着ぐるみなのに、なぜこの人はしゃべるんだ、しかも大声でとんでもない事を。するといつにない機敏な動作で透さんの入った一号さんがコッチを振り向く。何故だろうか? 着ぐるみ着ているのに殺意に近い鋭さで一号さんが二号さんをにらみつけているのを感じる。


シャーーー


 一号さんから謎の音が響く。


 お蔭で、怒りでチンチンとなったキーボくん一号さんをなだめながら台車で黒猫に帰る事になる。そして後日、明らかに俺と分かる相手とキーボくん二体が三角関係になっている物語が届き、俺はめまいを起こしそうになる。あんだけ神経質になった透さんの気持ちが少しわかった気がした。そして、この行き場のない怒りをどうしたら良いのか悩むことになる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ