Side-Men
Side-Men=ミュージシャン以外のメンバーのこと
杜さんに言われて篠宮酒店にお使いに行くと店長さんがニヤリと俺を見て迎えてくれる。
「大の字!よく来たな~お前さんが来るのを待ってたんだ」
悪い人ではないのだが、杜さん同様ニヤリと笑っている時のこの方は少し厄介な存在に思える。
「そういえば、ご無沙汰していました。最近はあまりお会い出来ていませんでしたね」
俺がそう言うと、店長さんフフと笑う。
「まあお前さんもなかなか忙しかったみたいだからな!
お前さんもやるな! 男はそうでなくっちゃいけねえ!」
篠宮さんと杜さんは仲が良い。だから凜さんとの事色々伝わっているのだろう。
「はぁ」
俺としては気の抜けた反応を返してしまうのも仕方がないと思う。あらゆることが怒涛のように過ぎてってようやく最近落ち着いたところである。凜さんのお父さんとの対面の次の週、凜さんにお食事に誘わし行ってみたらお母さんがいて和やかな時間を過ごし、その流れで、次の週末に何故か俺の実家で凜さんと過ごすことになった。お蔭でシッカリとした親公認の関係となっている。
「で、コレは俺からの婚約祝いだ!」
ドヤ顔で渡されたのは日本酒の瓶だった。
「あの、婚約した訳ではなく、結婚を前提にお付き合いしているだけですが!」
そう返すと篠宮さんはカカカと笑う。
「ただお付き合いを始めただけで、お祝なんてもらえませんよ!」
「イヤイヤ、お前さんはスゴイよ! あの杜でさえ苦労した澄ママのお兄さんをアッサリ認めさせたんだからよ!」
それは俺がスゴイのではなくて、杜さんに問題がありすぎただけのような気もする。そして改めて日本酒の瓶のラベルを見て顔が赤くなるのを感じた! そこには大きく【凜】の文字が書かれている。
「この、酒は……」
俺が口ごもっていると、篠宮さんはニヤニヤとする。
「コイツはなぁ! 会津法津の生原酒でなかなか美味しい酒で、決してからかう意味だけで渡したんじゃねえ。お前さんが一番この酒の存在を楽しめるんじゃないかと思ったんだ」
百パーセントからかっていると思うのだが。
「この酒は、滑らかなのに濃い、甘いようで存在感あるしっかりしたボディーをもった酒で、本当にお嬢さんのイメージで作ったんじゃないかと思うような味わいなんだ。しかもな! それだけじゃねえんだ。面白い事にこれは冬発売の『生原酒』、春は発売になると『一回火入』となり、秋にはさらに熟成が進んで『ひやおろし』として発売されるといったように、季節によって異なる味と名前になるお酒なんだ」
目の前にある瓶を見てみると首部分に【生原酒】という紙が貼られている。
「つまりはさ、女性も同じだ! 根本的な所は変わらなくても、季節によって、時期によって、様々な魅力をみせてくる。女性は様々な可愛さ美しさを見せ、男を魅力していくもんだ!
この酒のようにな! うちのもそうだろ?
妻として姿も可愛いし、お店で仕事している姿もまた可愛い!
また母親の表情している時は聖母様のように美しい! そして――」
確かに凛さんは年上なのに可愛くて、凛としているのに惚けている。様々な表情全てが彼女の魅力になっている。とか考えていたら、篠宮さんの奥様を讃える言葉はまだ続いていたようだ。その話は止まる事をしらないように三十分近く続くのを俺はただ呆然と聞いているしかなかった。あまりにも淀みなく言葉が出続けているから、適度に合いの手を入れて遮るのも難しい。その話題の奥さんが助けに入ってくれた事でなんとかその良く分からない時間を終了する事が出来た。
そんな意味のあるお酒なら自分で買うと言ったのだが、最初の一本は贈らせてくれと言いきられ、俺は【凛】を手にスゴスゴ帰る事になる。嬉しいのだが、なんなのだろうか? この商店街においての好意ってものすごく照れ臭い。
もらった【凜】は、二人のお祝に貰ったこともあるので凛さんと二人で飲むことにした。
「へぇ、こんな日本酒あるなんて、大輔とか透とかはないのかしら?」
凛さんは猫のように興味津々な表情で瓶を見つめている。
「さぁ? 透さんとは、字もいい感じだからありそうだけどどうなんだろ?
でもその酒、実はねスゴイ面白くて……」
篠宮さんから聞いた話を伝えると凛さんは面白そうに目を輝かせる。そして、注がれた酒を嬉しそうに眺めてクイっと呑み干してニッコリ笑う。
「美味しい! けっこうシッカリした味のお酒なのね」
俺も呑んでみて、その味を口の中でその香りと味を確かめる。
「面白いね。甘いけど……酸味もあって、甘酸っぱい?」
甘味と酸味の濃厚さすべてがシッカリ感じるこの酒、確かに凜という言葉のイメージより凜さんのイメージなのかもしれない。
「美味しくて良かった♪ 私と同じ名前だけに」
「篠宮さんはそのあたりプロだよ! 美味しいからこそ俺達に贈ってくれたんだと思う」
フフフと凜さんは笑う。
「そういえば、前ダイちゃんの所に持って行ったお酒も篠宮さんで買ったけどどれも美味しかったものね!」
俺は頷く。篠宮酒店はお酒に拘りをもつ杜さんが信頼しているだけある。癖のある親父さんだけど、酒に関しては本当にプロだと思う。高い良いお酒だけではなく、俺達学生が楽しめるようなお酒も分かっていてお勧めしてくれる。
「そうそう、春に『一回火入』手にいれられるように注文しておいたよ」
そう言う俺に凜さんはニンマリと笑い抱きついてくる。
「流石ダイちゃん♪ 春はどんな味なんだろうね? 楽しみ~」
そう言いながらキスしてくる凜さん。【凜】の濃厚な香りのする凜さんのキス。いろんな意味で俺を熱くする。
「なんか【凜】でクラクラする程酔ってきた」
そう言うと凜さんはクスクスと笑い顔を近づけてくる。
「酔わせたのは日本酒の方? 私?」
「両方かな?」
そう答えキスを俺からしかける。まさか篠宮さんもこういう意味で【凜】を楽しむといったのではないと思うが、結局【凜】を呑みながら凜さんとの夜を盛り上がって楽しむ事になる。
これ以後、この【凜】を季節毎に楽しむというのも俺達の恒例のイベントの一つとなった。
コチラの話を書く際、篠宮楓さんの協力をいただきました!
篠宮さんありがとうございました!




