Sheets of Sound
Sheets of Sound=ジョン・コルトレーンのテナー・プレイに対する表現。「音の洪水」「敷き詰められた音」とも表現される威的な速さでコード・プログレッションを行うこの演奏方法。
良い酒は悪酔いしないと言うのは正しいのかそうでないのはまだ俺の長くない人生経験から結論は出せないが、確かにこの朝の目覚めは最高に心地よかった。柔らかいベッド、軽い肌触りの掛け布団、そして腕の中で眠る柔らかいな女性の身体……。俺に、抱きつくように眠っている相手の肌蹴てた肩に布団をかけてあげてから再び目を閉じる。腕の中で甘えるように俺に顔をすりつけてくる感触が擽ったくて、その動きを封じる為に少し強く抱きしめる。そこで、目がハッキリ覚めた。
俺は今何を、抱きしめているのか? 鼻腔を擽る薔薇を思わせる香水の香りで何となく予想はつく。予想ついたからといって、衝撃が減った訳ではない。抱きしめているのは、ほぼ凛さんで間違いないだろう。問題は彼女が多分下着姿である事。そして俺は何故裸? パンツだけは穿いているらしい事がどの程度の救いになっているか分からない。しかも今は朝である。記憶がまったくないが、多分自分の身体の感じからやってないとは思う。
ここで彼女を起こすのは非常に不味い気がする。助かる事に凛さんはスヤスヤと無邪気な様子で眠り続けている。そっと彼女の身体を離しその身体を布団でくるむ。そしてベッドから出ようと思うが、俺の方が、壁際に居るために出るには凛さんを乗り越えて行かないとダメな事に気が付く。しかしせめて俺だけでも服を着ないと不味い。俺は壁にちゃんとかけられた凛さんのワンピースとソファーの上に綺麗に畳まれた俺の服に視線を向ける。やはり衣類がこのように整えて置かれている所を見ると、間違いは起こっていない。そう確信する。
そして、そっと両手を凛さんの顔の横につき乗り越えようとした時、部屋のドアが開く。
「二人とも、そろそろ起きたら……あら、ゴメンなさい、ごゆっくり♪」
澄さんの声が聞こえドアが閉まる音。
『誤解です!』と叫ぶ暇もなくそのまま固まってると下から俺を呼ぶ声がする。
「ダイちゃん? どうしたの?」
まるで覆いかぶさって襲おうとしているかのような状況なのに、呑気にそんな事聞いてくる凛さんが恨めしい。俺が恨みかしく見下ろしていると、凛さんは身体を起こし俺にキスしてくる。頬であったが俺は慌てて離れ再び今までいた方のベッドの奥に逃げる。
「お姉さん、言いましたよね! そんな事迂闊にしたらダメ!って!!
それに俺どうしてパンツ一丁で寝ているんですか!!」
思わずそう大声で叫んでしまったのは仕方がないと思う。凛さんは身体を起こし手櫛で髪を整えてからニコリと笑う。起きて直ぐに毛繕いって猫のようだ。せめてその悩ましすぎる下着姿の身体隠して欲しい。ワンピースに合わせたのだろうか? 下着も赤くランジェリーとパンティーのみ身に着けた姿は扇情的過ぎる姿で細やかなレースが白い裸の上でハッキリとその模様を見せているのを思わずジッと見てしまった。滑らかな風合いの生地がいつも以上に凛さんのボディーラインを見せている。気にした事なかったけど、結構胸あるようだ。
「私が脱がしたから! 服着たままだと眠りにくいかなと思って」
別にベルト外して貰うだけでいいと思うのだが……。
「何で、同じベッドに寝ているんですか!! しかもお姉さんも何故そんな格好なんですか!」
凛さんは首を傾げ、ジッと俺を見つめてくる。なんかその視線が恥ずかしくて掛け布団を引き寄せ下半身を隠す。
「だって、あのまま寝たらワンピース皺になるでしょ!
あとダイちゃんが部屋に入ったらすぐにベッドいっちゃったから。まさか私にソファーで寝ろって言うの?」
そもそもなんで俺と凜さんが同じ部屋に寝ている?
「だったら別の部屋で寝ればいいでしょう!」
「だって今日お客様多いから他の客室全部塞がっているから、この部屋しかないの!
透の部屋にも行く訳いかないじゃない! 彼女と何処でラブラブしているか分からないだけに」
「だったら、俺を叩き起こしてソファーに寝かせたら良かったでしょ!」
そう大声で言い返すと、なぜか少し困った顔をされてしまう。アーチストのみなさんを変な所で寝かす訳にはいかないけど、俺なんかはそれこそ、黒猫の店のソファーでもいいくらいだ。可愛い姪っ子を男の俺と同室にいれる根小山夫妻も根小山夫妻である。
「だって、可愛く気持ちよさそうに眠るダイちゃんを起こせるわけないじゃない」
そして優しい顔で俺に近づいてきて頬を撫でてくる。
「俺、こないだ言いましたよね? 弟分とはいえ、俺も男なんです。間違いがあったらどうするんですか!!」
なんか柔らかく笑う凜さんにどういう感情をぶつけていいのか分からない。俺は訴えるようにそう言うが凜さんはブブッと笑う。
「いいじゃない! 間違いがあったら、間違えてなかったことにすれば良いだけ!」
そう明るく言われ、ポカンとするしかなかった。そのタイミングで部屋の扉がノックされて、『朝食もそろそろ、作るから良かったらコチラで珈琲でも飲んで落ち着かない?』という澄さんの声が聞こえ嚙み合わない話はそこで終わってしまう。
俺たちの言い合いは外に聞こえていたらしい。そりゃリビングと扉一枚で繋がっているから仕方がないのかもしれない。杜さんやRYOさん達は出てきた俺をニヤニヤしながら見てくる。他の二つの寝室はRYOさんと神津さんと宮部さんが使い、ミラーズの二人はこのリビングのソファーで眠ったらしい。それだけに何もなかった事は分かってくれているとは思うのだが……。
「若いっていいねぇ!」
RYOさんはそう言って笑うが、どういいのか分からない。俺はあえて朝の挨拶だけをして恥ずかしさから下を向く。しかし何故何かしたかのような照れを感じないとけないのか? 凜さんは全然気にしてない様子で、ポットから珈琲を入れたカップを二つもってきて一つ俺に渡し隣に座る。ウーンなんか皆の視線が生暖かくて気持ち悪い。
階段の方から音がして、透さんと澤山さんも下りてくる。俺達だけだとソッとしてもらえたのだろうが、いつもお世話になっているアーチストさんらも泊まっているだけに、スルーも出来なかったのだろう。RYOさんに笑顔で挨拶するが、澤山との事からかわれて頬を赤らめている。
俺達とは違って明らかにそうな二人はもっと恥ずかしかったと思うが俺としては話題がそちらへ行ってくれて助った。
凜さんとは異なり、二人で澄さんの手伝いをすぐにする。その様子は早くも新婚さんという感じを出しており微笑ましい。昨晩とは異なりカジュアルなワンピースにニットにエプロンという格好がますます、新妻感を出しているのかもしれない。そして澄さんともいい雰囲気で大人数の朝食を作っている。
さぞや楽しい夜を過ごしたのだろう、そして二人の薬指にはペアリングが輝いている。澤山さんは時折チラっとそれに目を向けフワリと幸せそうに笑っている様子は幸せそうで可愛らしい。一方透さんは、RYOさんらから冷やかされていることもあり表情があまり冴えない。そしてハァと何故か切なげに溜息をついている。
「透くんも男だったんだねぇ。クリスマスにこんなカワイイ彼女と熱い夜って」
そう言ってくるRYOさんに何故か透さんの表情は引きつる。いつもならもっと上手くセクハラ発言も流せそうなのだが。その様子をジーと見ていた凜さんはハッとした顔をする。
「まさか、透まだやってないなんて事ないわよね! そんなヘタレだったなんて!」
なんてこと言うんだ、凜さんは。透さんは口をポカンと空け、その言葉に澤山さんは真っ赤になる。
「そんな事ないです! 透さんはいつもスゴイですよ!! それはもう、本当に。ただ昨日は疲れていただけで……」
口を開こうとした透さんを遮って澤山さんが爆弾発言をしてきて透さんが顔を真っ赤にする。
「スゴイって、どう……」「何? 昨晩はたたなかったの?」
他の人が素直に思った疑問を投げかける声を遮り凜さんはさらにトンデモナイ事言い放つ。
「いえ、疲れていたので眠っちゃっただけです」
「璃青さん……もういいから……」
真面目にそれに答える璃青さんに透さんが肩をトントンと叩き止めた。珍しく慌てている透さんをみて璃青さんもハッとしたようだ。透さんだけでなく、澤山さんもかなりの天然なようだ。
「まあ、あと三日したら店も休みに入る。その頃には疲れも取れているだろうし時間もたっぷりある。思う存分二人で楽しんでくれ! まる一日でも」
ニヤリと人の悪すぎる笑みを浮かべた杜さんのストレートすぎる言葉に、二人とも真っ赤になって下を向いた。
杜さんの話聞いて、もう年末か~と思う。今年は親は旅行に行くとかでいないため実家にも帰らない。ツンツンと俺をつつく感覚に俺は隣を向く。
「ダイちゃんは年末年始どうするの?」
凛さんのせいで完全におもちゃにされてからかわれている弟を気にすることなく、俺にそんな事聞いてくる。
「両親も旅行でいないから、こっちでノンビリしてようかなと」
凛さんはニコニコと俺の話を聞いてくる。なぜそんなに嬉しそうなのか。その表情にドキドキする。
「同じね! 私と。だから今年は杜さん家で過ごそうかと思っているの♪ だから初詣一緒に行かない?」
その期待に満ちた黒い瞳に抗えず俺は頷いてしまう。それが人生最もインパクトある忘れられない正月となるとも知らずに。
コチラの物語引き続き、たかはし葵様にご相談のっていただきました。ありがとうございました!




