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Attack

Attack=音の立ち上がりを表す言葉.

 ズンズン先に元気に歩く凛さん。結構高く細いハイヒールを履いているのにその足取りは力強く惑いがない。こんなにハイヒールで格好良く歩ける人って珍しい。一方スニーカーの筈の俺の歩きは重く元気もない。向かいたくない気持ちが強過ぎて歩く程に憂鬱になる。そんな俺を凛さんは『ん?』と振り返る。

「私が先に歩いても意味ないじゃない。ダイちゃんが案内してくれないと!」

「……ダイちゃん?」

 ツッコムところはそこじゃなく、もっと困る事言われていたのだが、ソコがやけに引っかかった。すると凛さんは顔を傾けて見上げてくる。

「え、大輔くんよね?

 ごめんなさい、ダイちゃんなんて馴れ馴れしい呼び方嫌だった?」

 小鹿のような瞳が俺を真っすぐ見つめてくる。綺麗な人に上目遣いで言われると何て言うか……。喋ったり笑ったりすると快活な凛さんだけどだけどただ黙ってこうしていると儚げで守ってあげたくなる空気を出してくるから不思議だ。

「そんな事ないですよ! 嬉しいです! ただ突然だったから戸惑っただけです!」

 ついそう答えしまう俺。すると凛さんの表情はパア~と花が開いたように明るく華やかになる。

「良かった♪ じゃあ、これからは、ダイちゃんで宜しくね」

 そう言って俺の右手を両手で握ってくる。細くて小さい手にドキリとする俺の心臓。

「はい、お姉さん……宜しくお願いします!」

 何を宜しくしているのか謎である。そんな俺の返事を嬉しそうに笑う。

「ところで、そのBlue Mallowってお店どの辺? 駅来る時も道すがら見てみたけどそれらしき店見つからなくて」

 俺は別の意味でドキリとする。凛さんは黒猫出て右側を見る事なく真っすぐ駅方面にきてくれていたようだ。ここで、隣だったと知ってこの人怒りださないだろうか?

「……もう少し先です」

 俺は控えめにそう表現する。すると凜さんは頷き俺の手を握ったまま歩き出す。俺は手を繋いで歩いている状況に戸惑い、うっかり凜さんを止める事を忘れてしまい一緒に歩き出してしまった。

 そうしているうちに篠宮酒店が見えてくる。店の前にいた店長さんと目が合い、俺はそこに救いの道を見出す。少し離れていたが必死の想いを込めてお辞儀して挨拶する。俺がいつも黒猫のお使いで篠宮酒店訪れても陽気に迎えてくれて、そして色々な事を話してくれる方である。この方はかなりの話好き! 篠宮さんに接触したら確実に二十分くらい時間が潰せる! 俺はそう考えて近づくが店長さんは何故かコチラを見てニヤリと笑う。その笑みに俺は疑問を感じつつも声かけようとした瞬間、何故か商店街の何処かにお店を放り出し走り去ってしまった。何故? そしてお店は大丈夫なのか? まあ奥さんと息子さんがいるからいいのだろうが、俺は頼みの綱のおじさんに去られてしまって呆然とするしかない。そうしているうちに中央広場も通り過ぎる。そうなると、黒猫も間近である。そしてその先が……。これは本格的に困った状況である。

「あ、あの、お姉さん」

 おずおずと声かけるけど、凜さんの歩みは止まらない。

「ん~なんか良い天気で気持ちいいわね♪ なんかパワー(みなぎ)るというか」

 そうニッコリコチラを見て微笑まれる。いえ、頼むからこれ以上パワー漲らせないで欲しい。

 そうしている間に黒猫のあるビルの前。このままウッカリした振りをしてBlue Mallowの前も通り過ぎようか? という考えも頭によぎる。そして神神飯店で早めのお昼を誘い、ダイサクを巻き込むか? ……と禄でもない事を考える。

「あら? もうすぐ商店街終わってしまうけど、Blue Mallowってどこ?」

 よりによって、Blue Mallowの前で凜さんは立ち止まり周りを見渡す。なんでそこで立ち止まるのか……。そしてその動かされた視線は一つの看板を見て止まる。一瞬その目にキラッとした光が見えたのは気のせいだと思いたい。直前まで楽しそうだった顔から明るい笑みが消える。そして俺の方をキッと見つめてくる。今日は心地良い秋晴れの日なのに、背中にすごく嫌な感じに汗が流れる。

「……どういうこと? 隣って!」

 こうなったらとことん惚けて開き直るしかない。

「あれ? 俺何度か言いましたよね? 澤山さんの事お隣さんと!

 だからそこはもう分かっていたのかと思っていました、だからさっきも先に歩いていたのではないですか?」

 嘘であるが俺がそう言いきると、凜さんは目を見開いてからパチクリと瞬きして俺を再び見つめ首を傾げる。

「そうだっけ?」

「はい! 言いました少なくとも四回は絶対に!」

 必死になって言う俺に、何故か凜さんはフッと笑う。その表情が何故か可愛らしく可憐。というか凜さんは、元々そういう顔立ちだから、口さえ開かなければ楚々とした品のある女性なのだ。

「分かったわよ。

 そうだったのね。ごめんなさい私……。

 透の彼女をどうとっちめようかで頭がイッパイイッパイになっていて、シッカリ聞けていなかったみたい」

 清楚に見える顔で謝られて少し罪悪感を覚え心に小さな痛みを感じたが、続けられた言葉でその痛みも吹っ飛ぶ。

「ダメです! 黒猫のご近所さんで、杜さんたちにとっても商店街の大事な仲間なんですよ! お行儀よく失礼のないようにしてください!!

 いいですか!! 喧嘩ダメー! 暴言ダメー! 仲ヨ~ク!!」

 つい、そう強く訴えてしまう。人って必死になると何故かカタコトになるようだ。凜さんはそんな俺を見てポカンとするが直ぐに笑いだす。そしてその細い腕を伸ばし俺の頭を宥めるように撫でる。

「分かったわよ。今日の所は、『お行儀は良く』を心掛けはするから。なるべくだけどね♪ だから安心して!

 それに向こうが買わなければ喧嘩にはならないから」

 微妙に色々と引っかかる言い回しである。全然安心出来る文脈になっていない、というか安心できる要素が全く見つからない。どう返すべきか悩んでいる間に、凜さんは華麗にクルリと身体をターンさせて、Blue Mallowの扉を元気に開け中に入ってしまった。そうなると、もう追いかけるしかない。

『透さん、どうか早く来て~!!』

 俺は心の中でここにはいない人へ祈りに似た言葉を叫びながら、Blue Mallowの店内へと慌てて足を踏み入れた。


篠宮楓さま、楽しく素敵なアドバイスありがとうございました~。

私には、こんな燗さんの行動思いつきませんでした。

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