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Approach

Approach=音楽の切り口のこと

 その日は午後からの講義で朝はゆっくり眠れる筈だった。しかししつこい電話の呼び出し音が俺の眠りを妨害してくる。時計を見ると朝の九時十七分。人に電話するのに非常識な時間ではないが、昨夜課題をして遅くまで頑張った身としては、朝五時に起こされたのと似た感覚だった。

 一向に止む気配のない電話に出ると『ハア、やっと出た!』という女性の声。誰だろうか? 

『もしもし、トウメイですが。小野さんのお宅の電話で間違えないでしょうか?』

 クールで落ち着いた女性の声で我に返る。

「はい、小野ですが、どちら様でしょうか?」

 そう聞き返している間に、『トウメイ』が『東明』と頭の中で変換される。でも何故女の人の声? と考え少しずつ思考が周りだす。昨晩色んな意味で強烈な印象を残した女性の姿を思い出す。

「あぁ、透さんのお姉さんですね。でも何故俺の電話番号を?」

 そして何故俺に電話かけてきた?

『根小山家の電話の前のボードに貴方の家電(いえでん)と携帯の番号貼ってあったの』

 なるほど、確かに料理を取りに上がった時そんな状態だったのを思い出す。

「それで、どういうご要件でしょうか?」

 そしてやはり何故俺にかけてきたのか? という事がとても気になるので聞いてみる。

『透の彼女のいるお店の場所知ってるわよね? だから連れて行ってくれない?』

「え? ちょっと待って下さい。透さんは知ってるんですか? もし勝手な行動ならば怒りますよ!」

 俺は慌ててそう返す。俺に言うという事は絶対透さんは知らない。それに透さんの名前出すと凛さんも考えを改めるだろう。

『だから、貴方に紹介して貰いたいと言ってるの』

 は?

「何で俺が?」

 そんな事、透さんか根小山夫妻からしてもらうべきものである。

『あんた、透の弟分なんでしょ! だったら姉の私の為に動きなさいよ!』

 透さんの弟分……それになると自動的にこんな姉が出来るシステムだったのだろうか? 厄介なオプションである。

「嫌ですよ、透さんも言ってたじゃないですか(澤山さんを傷付けたら承知しないと)」

『だから行くんじゃない! 『知りもしないても口出すな』って言ったから相手ちゃんと見た上で動くのよ!』

 そっちの言葉だけしか聞いてませんでした?? 相手が誰であれ、絶対文句だけしか言う気ないように感じる。

 凛さんは俺が断っても、絶対何としも澤山さんの所に辿りつくだろう。しかも澤山さんのお店は隣だから、行き着くまではそんなに時間も掛からない筈。となると凛さんを商店街から離すしかない。待ち合わせ場所を駅前に設定して、透さんに連絡とって止めて貰おう。無関係の俺が入るとややこしくなるので、姉弟の問題は二人で解決していただく。それに限る。

 電話を切り俺は透さんの携帯に電話するが全然繋がらない。プッと繋がったと思ったら切れてしまう。

『ゴメン、今キーボくん』

 かけ直そうとしたら、そんな短いメールが透さんから届く。何てタイミング悪い……。

『実はお姉さんから連絡をもらいました。

 澤山さんに会いに行かかれると張り切っています。どうしましょうか?

 今から何故か待ち合わせて行く事になってしまったのですが……』

 メールは見てもらえそうなので、状況を説明することにする。

『小野くん! お願い!! 何とかして阻止して!! 今、俺うごけない』

 直ぐにそんなメールが帰ってくる。それはそうだろう。透さんは文字通り身動き取れない。俺は大きく溜め息をつく。やはりここは俺が頑張るしかない。

『分かりました! 出切る限り時間稼いで頑張ります!!』

 そして深呼吸してから出掛ける準備をする。頑張る気はあるのだが、気が乗らないのでその動きはのろい。それにしても俺は何、いつもより身だしなみに気を使っているのか? いやこれも時間稼ぎの一つなのかもしれない。というより凜さんに会う時間を少しでも先にしたいという気持ちの表れだったのだと思う。向こうが指定してきた時間が直近過ぎるのもあったのだが、俺は珍しく十分程約束の時間より遅れて待ち合わせ場所へと到着した。遅刻を怒ると思ったが、凛さんは現れた俺を見て華やかに微笑む。こんな状況であっても、美しい女性が俺を見て嬉しそうな表情をするというのは嬉しい事ではあるようだ。一瞬ドキリとする。

「小野くん来てくれて嬉しいわ!

 今日は、ゴメンね、こんな事で呼び出して。でも貴方以外頼れなくて!」

 儚げな容姿で上目遣いにそう言われると、俺もつい安心させるような笑顔をつくり返していた。

「いえいえ。

 あっ、すいません、遅くなってしまって」

 凛さんはニコリと笑い俺の手を取り、商店街の方へと引っ張る。

「じゃあ、行きましょうか!」

 俺は慌ててその手に力をいれ引き戻す。

「待って下さい。まだお店開いていませんよ! 開店前の忙しい時間にお邪魔するのって失礼です!」

 来る途中に必死で考えた時間稼ぎの言葉を言ってみる。凛さんはその言葉にウ〜ンと悩んでいるようだ。

「時間まで喫茶店行きませんか?

 それに、俺朝飯も食べずにここ来たのでお腹も空いているんですよ」

 俺の言葉に、ハッとした表情をする。

「若い子が朝食抜いたらダメじゃない! 私が奢るから何か食べましょう!」

 良かった。取り敢えず凛さんを商店街引き離す事は成功した。


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