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fake【商店街夏祭り企画】

fake=元の曲が分からないくらい崩して演奏すること

花火大会の待ち合わせ場所には俺が最後に到着したようだ。俺の姿を見て法学こと御法山学(みのりやままなぶ)が思いっきり顔をしかめる。

「なに? お前ら何で浴衣なん? 気合いれてどうしたの?」

 俺とダイサクは顔を見合わせる。確かにダイサクも浴衣を着ている。

「バイト先で貰ったから!」

 俺の言葉に、また法学がむくれる。

「なんで、そんな美味しいバイト俺も誘ってくれなかったわけ?」

『俺は商店街の小さいお店でバイトなんで地味なのは嫌だ!』って言ったのは法学である。俺とダイサクは顔を見合わせて肩を竦める。

「その分気を遣う部分ばかりで、大変な面も多いよ、接客業は」

 俺の言葉にダイサクも頷く。まあ、賄いもつくし、俺の場合は酒の勉強も出来て美味しい部分は多い。しかし法学には、【神神飯店(シェンシェンはんてん)】も【黒猫】も合わないような気がしてそう言っておく。でないと紹介しろと五月蝿そうだ。

 花火 が打ち上がる事で意識はそちらに逸れ、話題も代わる。

「確かにきれいだけどさ、途切れて下向いたら急に現実に引き戻されるよな」

 法学は、今度はそう愚痴りだす。

「確かに色気ねぇよな」

 ダイサクは付き合いよくて、そう相槌を打つ。

「だからってこんだけ混んでると、なかなか好みの浴衣美人に声かけんのも難しいしな」

 そう言ってみるが、本当は面倒臭いだけ。昼間散々バイトで浴衣のお姉さんに愛想笑いをして売ってただけに、今くらいは気の置けない友人とこうして馬鹿話しておきたい。それにここでそうやって一緒に行動したら、連絡先交換という流れになり後々面倒である。

「んで、そういうのに限ってカレシ持ちだったりするしな」

 そう言う法学の言葉を頷きながら、ふと目を花火客に集団に向けると、ユキさんの姿を見つける。色白で整った顔立ちであることと、淡い色の浴衣であることから、薄暗い河川敷の中でも目立っていた。花火の音にビビり思わず抱きつく澤山さんを自然に抱き寄せるユキさん。なんだユキさん結構やるではないか。こんな風に扱われたらもう女性はメロメロになると思う。俺の視線にダイサクも気がついたようで俺の方を見て『やったな』とニヤリと笑う。

「それはそうと、お前ら祭りの当日は暇? 一緒にまわろうぜ」

 法学がそう声かけてくる。コイツ『男だらけの花火なんて…』と言いながらも結局は楽しんでいるようだ。

「バイトの手伝いはあるけど、合わせてくれれば構わないよ」

 そう答える横で、ダイサクは困った顔になる。

「俺は……ちょっと……」

 ダイサクは顔をしかめ言葉を濁す。

「そうか、神神飯店(シェンシェンはんてん)も屋台出すんだったよな。でも、出ずっぱりじゃないだろ?」

 そう言っても、『ウーン』という声をあげて悩んでいるようだ。

「それは、そうなんだけどさ……いや、えーっとその……家族が……」

 らしくなくダイサクの返事は何とも歯切れ悪い。

「へっ? 田舎から親でも出てくんの?」

 法学の言葉に何故かさらに悩んだ素振りを見せる。

「ま、まぁそんなとこ。盆休みだから……」

 ダイサクらしくない、ハッキリ言わないしない言葉に俺は首を傾げる。でも、彼が少し思いつめたような顔をしているのでツッコめなかった。そして何か想うように花火を見つめるダイサクの顔が妙に心に残った。

 そのまま、他愛ない話をしながら三人で花火を楽しんだ。

「ユキさんって、すごい紳士だよね。女性をスマートにエスコートしてる」

 帰り道、少し離れたところを見つめダイサクがそうポツリと呟く。視線の先でユキさんが、人込みに揉まれそうになっている澤山さんの肩を引き寄せ、『大丈夫ですか?』なんて事を柔らかい笑みを浮かべ安心させるように話しかけている。

「誰に対しても、ああいう感じ。誠実で優しくて」

 お人よしで、少し天然。

「ん? 知り合い?」

 法学の声に、俺はバイト先のマネージャーと簡単に説明する。その横でダイサクが『よし!』とよくわからない決意の言葉を口いにしている。

「ん? ダイサク?」

「俺も、ああいう大人でスマートに女性をエスコートするぞ!」

 そう言いきり鼻から息をフーと吐いて俺達の視線に気が付いたのか、ヘヘっと笑う。

「いや、ああいう感じで女性に接する男になりたいなと、思っただけ」

 ダイサクが何故そういう事を言ったのか俺と法学は分からず思わず二人で顔を見合わせてしまった。しかしその理由を数日後、すぐに分かる事となる。


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