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旦那さん視点笑

 恐れ多くも恋人にさせて頂いた『エメリウス』様が攫われて数年、やっと見つけた彼は生気に満ちた顔も、柔らかな優しい笑みも、何もかもなくなって、高貴な『愛玩人形(ドール)』にさせられた後だった。


 私に幾度も愛していると囁いた唇も、私だけを見ていてくれた瞳も、そのすべては金と権力に押しつぶされ、粉々にされ、名前も尊厳もなにもかも失って、それでもそのうつくしい姿に何一つ変わりなく、だからこそすさまじい怒りに替わったのだろう。


 最初は、それでも優しく接していたのだ。名前が無く番号でしか呼ばれなかった彼に愛称の『エミィ』と呼びかけ、手をつないで外に出かけ、夜には優しく抱いて共に寝た。

 『旦那様』と呼ぶその唇に私の名を紡がせ、夜伽のことしか覚えていなかった彼に根気強くさまざまなことを教え、それでもその均衡が崩れたのは、ある意味当然だったかもしれない。


『セフェリオス様、『わたし』は、『人形』にございます。なんなりとお命じいただければ遂行いたしますが、『人形』に感情はございません』


 なぜその時、怒りに任せて手を上げてしまったのだろうと、懇々と眠り続ける横顔に、自責の念はつきない。


『だまれ!!』

『せ…ふぇ、さ…』

『お前など…お前など『エメリウス』様などではないわ!!この……『     』が!!』


 なぜそのとき、そう言ってしまったのか。

 心の片隅に追いやっていた言葉を、どうして口にのぼらせてしまったのか。

 どうしてそのとき、何の感情も見えなかったその瞳が、ほんのわずかに、確かに傷ついていたのを、凍っていく心を、どうして見過ごしてしまったのか。

 

 どうしてあの時、拳ではなく、手のひらで撫でてやれなかったのか。

 記憶がなくなろうと、性格が変わろうと、あなたはあなただと、どうしていえなかったのか。


 『まがいもの』などではなく、確かにお前はあの人の一部だと、どうして、私は受け入れてやらなかったのだろう。


 おまえごとあいしていると抱きしめていたら、その一途で無垢な色だけは、変わらなかったかもしれない。


 ゆっくりとあげられる瞼から除く、うつくしい瞳は伏せられておらず、いきいきとした輝きをもって私を、私だけを見て、驚いたように瞬いて、白い腕がしなやかに当たり前に伸ばされて、濡れた頬に触れる。


「……なにを、泣いているのだ?セフィ」

「……エメリウス、様」

「うむ、私はエメリウス=フォン=ダ=ロマリアで間違いないが?」

「エメリウス様」


 苦しいと笑って抱き返してくれる、いとしい人を腕に抱いて、私は、私が殺してしまったちいさなちいさな哀れな心を思わずにいられなかった。



 

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