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暁の空で  作者: 秋月
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第一章

「暁の空で」


一章



視界が濃い霧に閉ざされる。全身が凍ったように冷たい。意識が遠ざかっていく。ここがどこであるのか、いつのことであるのかは分からない。

しかし薄れゆく意識の中、俺は何かを見た。そいつは笑っていた。姿形はよく見えない。けれどそれだけははっきりしていた。俺はそいつに対して激しい憎悪を抱きながらゆっくりと目を閉じていった。




「よう、淳一。…その様子だとまたあの夢を見たんだな」

誰かが声の雨を降らせてくる。その野太い声に起こされ俺は仕方なくゆっくりと目を開けた。頭がガンガンして痛い。それに天井から降り注ぐ光が容赦なく俺の目に突き刺さってきた。

「何だ……おやっさんかよ…。人がせっかく気持ちよく寝てたのに…」

俺がうめき声にも似た声を出しながら静かに立ち上がると俺の目の前に居た武将のようなどこか厳しそうな表情をした中年の男性が俺の頭を軽く叩き大声で笑った。

「がっはっは、悪い夢にうなされながらの睡眠は心地よいとは思えないがな!」

「へいへい、どうせ俺は悪い夢しか見られませんよー」

俺の目の前に立つこの男は清水龍吾。俺の父親的な存在でここの基地に存在する「龍吾隊」の隊長を務めている男だ。

父親的な存在、という理由は単純。俺には両親と呼べる人は既にこの世を去っておりもういないからだ。そんな天涯孤独と成り果てた俺を拾ってくれたのが龍吾だ。その性格は厳しそうな顔の割には優しくここにいる隊員達や俺に対して明るく声をかけてくれる頼もしい存在だ。俺もそんな龍吾の一面に魅せられ彼を父親的な存在としている。ちなみにこの基地では龍吾隊の隊員を除きほとんどの人達が親しみを込めて彼のことを「おやっさん」と呼んでいる。

そんな龍吾に起こされた俺は軽い柔軟をした後、両の手をパキポキと鳴らし龍吾に声をかけた。

「さあて、新人達の入団式に行くとしますかね!」

「おいおい、喧嘩に行くんじゃないんだからもう少し丁寧な振る舞いは出来ないのか……」

自由気ままな俺の様子に吾は呆れたように溜息をつき、先に行った俺の後をマイペースに追ってきた。

今回俺達が行くのはこの基地「ベリディアス」に集まる新人兵士の入団式だ。兵士、と呼ぶのには若い年齢の人々しか集まっていないのだが今の人類にはそうも言っていられる余裕は既に存在していなかった。

今から12年前、人類は突如出現した「神」という存在によって未曾有の危機に陥れられた。

大昔に人間達は次々に起こる自然災害は全て神によって引き起こされていると考え常に敬憚してきた。そうでもしなければ自分達に被害が降りかかる、要は自分達を守るために目に見えない上に存在するかどうかも怪しい神という者をどんどんと押し上げていった。

そうしていく内にこの国、日本は神を崇め信仰する宗教が相次いで出現しやがては、全ての頂点に君臨する者達と称され崇められたが、つい一昔前まではその信仰心も薄れ、神という存在はあまり多くの人々に響かなくなってきた。

そんな矢先の出来事であった。あの日を人類が迎えざるを得なくなったのは。そう、神による一方的な超大量虐殺が起こった「崩壊の日」である。その日に人類は、幻想と言う名の現実を見せつけられた。あまりにも唐突に訪れたその脅威は、人類に絶望と悲しみの置き土産を残し去っていった。

俺はあの日を絶対に忘れる事が出来ない。今でもそうだ。思い出そうとすれば鮮明に全ての光景が浮かんでくる。その日から俺を取り巻いていた日常は全てが一変した。そして決めたのだ、神を殺し続けると。

「おい、淳一。何をボーッとしてやがんだ。そろそろ会場に着くぞ」

そんなおやっさんの声に俺は瞬時に意識を現実へと引き戻していった。

目を見張るとそこにはざっと100人程度の男女が緊迫した空気の中で、綺麗に並べられた金属製の椅子に背筋を伸ばし座っていた。その顔はどれもこれも緊張しているの一言で表現出来た。今、中央にいる新兵のほとんどが淳一と同じくらいの年の男女だ。

「……今回はどれくらい生き残れるかな…」

「淳一、そんな事を軽々しく口にするな」

俺は見飽きたように新兵達を眺めぼそりと呟いた。

しかし、そんな俺の横から珍しく怒りを混ぜたおやっさんの声が聞こえてきた。

おやっさんは普段から怒りまくってる訳では無い。そうでなければ隊長など決して務められないだろう。感情の起伏こそ少ないものの、稀におやっさんはこうして俺を(たしな)めている。その言葉からは、今までおやっさんが何をその瞳に写し生きてきたかを感じさせるものがあった。

「冗談だよ。でも………死んでほしくは無いな」

おやっさんの表情は変わらず厳しい。けれどやがて小さく頷き俺の背を軽く叩き、その手で目の前の新兵達を指差した。

「新兵諸君……起立!」

すると突然、向こう側から荒っぽい男の声が広場全体に響き渡り、元々緊迫していた空気をびりびりと振動させた。その声に瞬時に新兵達は起立し見事な敬礼をしてみせた。

そして合図が出され再び機械的な動きをして椅子に着席していく。そうして見えた先には、ステージの上に偉そうに立っている一人の中年男性の姿が見えた。

「将軍のおでましか…」

小声で呟くその声は、うっかり広場全体に広がりそうになってしまった。それほどこの場の空気は、恐ろしいぐらい静まり返っていたのだ。将軍と言うらしい男は一通り新兵達を見渡しいきなり頭を下げた。これにはさすがの新兵達も驚きを隠せなかったらしい。あちこちから少しだけどよめきが起こった。しかしそれも数秒の間の出来事であった。

「先ず君達の勇気に私は深く感謝しよう。人類のために、或いは家族を守るために、大切な友人や恋人を守るために…ここに来て神と戦う意思を示してくれたことを誇りに思う」

そして暫しの静寂が訪れる。その間に新兵達の中からは、すすり泣きをする音が次々に聞こえてきた。けれどその音も将軍の声に打ち消された。

「我々人類は諸君等も知っている通り絶滅の危機に追いやられた。崩壊の日……その時に負った傷はあまりにも深すぎた。しかし我々は知っている。結束し、一つになって力を結集させれば、必ずやあの愚鈍な神共を叩き潰せる事を……そのために集まってくれた諸君等を私達は歓迎しよう。困難な入隊条件をクリアし今ここに集っている諸君等に、立ち向かえぬものなど無い!!」

その再び強大な威圧感が波となって周囲にいる他の兵士達にも襲い掛かった。しかし何故だかその威圧感は恐らく新兵達も感じているのだろう、心の奥底に眠っている勇気を目覚めさせてくれた。不思議なものだ。あの声を聞くだけで自然とやってやろうという気になれてしまう。だからあの男が将軍の地位に長年就けているのだろう。俺は自分の中で勝手にそう解釈した。



その後は今後の行動予定や訓練内容、施設の紹介等を説明し無事に入団式は終了した。終わった後の新兵達の表情はとても勇ましいものに変化していたのを俺は見逃さなかった。そして最後尾の新兵が広場の扉から出ていくと一気にこの場は静まり返った。物音一つしない恐ろしいまでの静寂。その不思議な空気を背中に感じつつ俺は広場をおやっさんと共に出て行った。その際は部屋に辿り着くまで俺もおやっさんも終始無言であった。それもそうだろう、本当の意味での戦いが始まるのはこれからなのだから――――――






to be continue……

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