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第三話『野蛮なクリケットゲーム前編』

 リュウジの言ったホットパイが美味しい店の事は、私もテレビで見たが、こんなに近くにあるとは知らなかった。

「寒いだろ。ハイ、上着」

「えっ、ちょっと……」

 いきなり肩に上着を掛けられた。私は、こんなリュウジを見たことはない。

「リュウジってイギリス人?」

 前を行くリュウジに、向かっていく何ともマヌケな質問をしてしまった。

「イギリス人のクォーター、祖母は日本人だった。急にどうしたの?」

「いや……イギリス人だから紳士なのかなぁ、と思ってさ」

 リュウジはキョトンとした顔になって、急に前を向いて真面目な顔になった。

「……誰にでも優しい訳じゃないよ」

「……え?」

「君が可愛いからだって、分かんなかった?」

 不意打ちだった。私からふった話だったのに、直球で返された。「アンタ、いつもそんな事言ってんの?」

 精一杯、効いていないフリをする。

「ははは、俺ってそんなに魅力なかった?」

 なんだ、冗談か。そう思うと余計に恥ずかしくなってうつ向く。すぐに、冷静な表情を取り繕う。こういう技術だけは上手くなった、心を閉ざすんじゃないけど感情を抑制してコントロールする。

「リュウジって、意外と面白いね」

 半地下になった店の入り口が見えた。お洒落なバーみたいだけど、造りがファンシーだから良い意味で目立つ。

 クスリと笑った道化師のキャラクターが飾ってあったり、鮮やかな色の床だったり、なかなか男だけで入るには躊躇われそうな雰囲気だ。

 リュウジは、ハワイパイというのを頼んで、私はココアパイを頼んだ。

 こういう席で、コイツといること時点で何か間違っている気がする。

「俺のオフクロがさぁ」

「オフクロ?あぁ、お母さんね」

「結構、家庭的な人でさ、良くウチでパイを焼いてくれてさぁ。ほら、日本ってあんまりそういう習慣がないじゃん?」

「そうだね、確にパイは焼かない」

「だろ?だから日本に来て、この国ではオフクロのパイを食べないんだって気付いて愕然とした。俺が、覚えたての日本語で『パイが』って言うたび、みんなが変な顔をするんだ」

「それは、そうかもね」

「そんで、こういう店にも、男同士で行くには入りにくいんだ」

 リュウジが言いたかった事は解る気がする。イギリスの普通が通用しないこの国では、あたりまえにパイを食べる事もできない。

 パイが運ばれてきて、もう、最初の違和感はなかった。今、ここでリュウジとパイを食べるているのが、当然の事のように思えた。

「片瀬ってなんでそんなにCOOLなの?」

「え?」

「いや、冷たいとかじゃなくって、何か醒めてるなぁって思って」

 言われてみるまで、考えた事がなかった。何でだろう。

「人間嫌いだから……かな」

 これは嘘だった。

「そうなんだ。だから、そんなにCOOLなんだね。片瀬は、まだ男と付き合った事ないんだよね?」

 何故、リュウジがそんな話をしてきたのか、まるで分からない。今はできれば、そんな話はして欲しくなかった。

「もしかしてマズい事、聞いちゃった?」

 そう言ったリュウジの顔は、全然悪びれていなかった。

 私は、ただ黙って。お皿に描かれたピエロを見ていた。


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