表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第二話『不格好な鳥』

 街のとある劇場のスペースで密やかに卒業生展が行われた。一般客は、ほとんどが、偶然通りかかった通行人で、モノ珍しそうに、もしくは、つまらなそうに絵を見ている。

 私は、主に入り口に立って案内をする役目で、借り物の白いスーツは似合っていない。

「ちょっと替わる?」

 留学生で、私の隣でカウントをしているリュウジが言った。彼は、自前なのか、借り物なのか判断がつかないタキシードを着こなして、いかにも紳士のように言った。

 小顔で、やけに整った顔が近付くと私は息が詰った。

「いいよ。あと二時間で交代だし」

「そう?気が変わったら何時でも言ってよ」

「わかった」

 普段は、調子良くヘラヘラ笑ってる様な奴だが、本当の所はよく分からなかった。

 子供を連れた女性の客が絵に対して説明を求めてきたので、少しだけ持ち場を離れた。

「芸大生の方?」

「いえ、大江高校の美術サークルの者です」

「高校生?どうりでお若いと思ったわ。私も昔、芸大に通ってたの。結局、結婚して辞めたんだけど」

「はぁ」

 綺麗な手をしているなぁと思った。家事をしている人間の手とは思えない。

「貴方の描いた絵はどれ?」

「わ、私の絵ですか?」

 突然、自分の絵はどれかなんて聞かれると思わなかったので少し驚いた。

 その女性の子供が私の絵を、じっと観ていた。自分の絵の下手さが解るのではないかと怖かったが、女性を案内する。

「これです」

 題は『都鳥』。大型の渡り鳥で、真っ黒い背と、対照的な白い腹をしていて、長い嘴を持っている。

 スケッチを基に、独自にアクリル絵の具で描き加えたものだった。普通、野鳥を描くときは柔らかい水彩絵の具を使う人間が多いが、私の場合は、線の細い都鳥よりも、力強い都鳥を描きたかったためアクリルで仕上げた。

 拙い絵だったが、私が卒業展に向けて描いたどの絵よりもインパクトがあった。

「へぇ〜、貴方の絵が一番上手いわね」

 お世辞だと分かっていても、やはり嬉しく思う。「お姉ちゃんが描いたの?」

 気が付くと、女性の陰に居た女の子が、こちらを向いていた。

「そうよ、私が描いた都鳥」

 子供の瞳は純粋で怖い。その輝いた眼に見つめられると、訳もなくごめんなさいと謝りたくなる。

「じゃあ、もう少し見てからまた戻ってくるわ」

 戻ってくるという意味を掴み損ねた私は、去っていく女の子の後ろ姿を、ただ目で追っていた。

「随分と気に入られたみたいだな」

 入り口から、現れたのは同じサークルのトキタとアツコだった。

「交代まで、まだ時間あるけど?」

 二人が付き合っている事は誰がみても明らかで、サークル内では有名な話だった。

「いいから、いいから。リュウジ君と休んできなよ」

「え?本当にいいの?」

 珍しくやる気があるアツコを不審に思ったが、二人の邪魔をする理由は何もない。

「俺ら、スーツ着て外で歩くの嫌だし」

 そう言ったトキタは、ホストの様だった。

「行こうか」

 意外にもリュウジは乗り気で、それもまた私を戸惑わせた。

「どこかで軽く食べる?」

「うん、俺さ、上手いホットパイの店知ってるよ」

 別に断る理由もなかったので劇場を出た。この格好では、少しだけ寒いなと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ