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無為

作者: ナユタ

これこそ暇と呼ぶのだろう。

天気は晴れ。特に何もすることはない。誰も来ない。



病院の個室に一人の高校生が寝ていた。寝ていると言ってもベッドに横になっているだけ。

ベッドは窓辺に置かれていて、ここ4階からはいつもの街が見渡せる。


本当ならば学校、昼休みが終わる時間。

しかし彼は登校中に自転車に乗っていて転び、右足を骨折。数日前から病院に缶詰状態だった。

時計を眺めたまま意味もなく静止。これから午後の授業なんだろうな、と意味もなく思いに更ける。



欠伸。続けて、欠伸。

涙が出そうだったので、出せるか挑戦。

出た。落ちる前に拭う。暇になった。欠伸が出る。


どれだけ脳は酸素を欲しがっているんだ。こんなに暇なのにフル稼働している筈はない。


たまに両親が見舞いに来るが、平日ともあって早朝に母親が来た。学校もいつも通りやっている。

つまり話相手はなし。誰かが来ることは望めない。

唯一の趣味……という程でもないが楽しみなゲーム機も、母親が持ってくるのを忘れて今はない。


運動も足がこれでは何もできない。その前に苦手だ。むしろ才能が開花したこともない。

勉強。定期テストは終わったばかりだ。なんて無難な、成績に差し支えない時期の事故なのか。

じゃあ、寝る。だが、母親が来た後から昼飯の間も寝ていた。寝飽きた。




彼は突然むくっと上半身を上げる。右足は包帯を巻かれ固定されている。

何となく窓の外の世界を眺めた。忙しなく往来する、国道を走る車両の数々。

信号が赤になった。何となく赤の時間を計測。十八秒。青はそれより長かった。

赤に変わり、目を閉じる。十八秒目前で開くと、ジャストタイムだった。

人間は暇過ぎると奇行に走ることがあるという、どうでもいい事実が判明した。



やはりこの計測結果は間違いではなく、彼はまたしても突然、部屋を見回し始めた。

思えば個室である。両親も意外と気を使ってくれていたようだ。


そういえば転んだ時、一緒に自転車登校していた友人が尽くしてくれた。

遅刻しただろうに。対応も手際良く素早くやってくれた。


看護師のおばさんは、無愛想な自分に何度も話しかけようとしてくれていた。その度にテキトーな返事。

本当は無愛想と言うより人見知りなだけだ。それも悟られていた気がしないでもない。



彼は何の変哲もない真っ白な天井を見上げた。

怪我をすればすぐに病院。程度は大きいかもしれないが、なんとも先進国っぽい。

高校も一応進学校に行けた。多分大学も行くことになる。

進学校だから親からもバイトをしなくていいと言われ、親のスネの許容範囲をかじって生活している。


何ともない顔で。


涙も、欠伸の涙しか出てくることはない。相変わらず暇に変わりはないから。



暇だ。

これを暇と呼ばない者はいない筈。

でもそれとは対照的に、脳はまだ先程の奇行の様なことを思い出そうと息を荒げている。

その度に涙ぐむ。


今回は涙を出そうとした訳ではないのにベッドへと落ちた。

そしてふと静寂の中で気がついた。


暇過ぎるって、幸せ過ぎる。

別段、輝かしい人生ではなかったが、輝かしい人生ではないだろうが。



「なんだ、俺。なかなか恵まれてんじゃん」

テーマは「幸せ」。自己投影かも。

自分は不幸だなんて思っても、世の中にはそれ以上に不幸な場合の人もいるもので、あまり口にしてはいけないかもしれませんね。

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