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完全百合世界

作者: MANAM
掲載日:2026/05/29

『悪友の破壊力』


俺はしがない男子高校生。

ある日目が覚めると俺は体に違和感がある事に気付いた。股間が軽く胸が重い。眠い目を擦りながら片手で胸を触る。フヨフヨとした柔らかい感触。


俺は慌てる事なくズボンとパンツを脱ぎ捨て股に昨日まであったモノがない事を確認。脇に置いてある手鏡を手に取り、足を上げてアソコを写し出す。


「なるほど」


やはり俺は慌てる事なくパンツとズボンを履き直し、洗面所へと向かう。

そして鏡で自分の顔を見て確信した。


「なんだ。やっぱ俺女になったのか」


ボサボサの長い髪の頭を掻きながら歯磨きを始め、しばらくして歯ブラシを咥えたまま鏡に身を乗り出し驚愕した。


「んんんも⁉︎ おへ! おんあにあっへふ⁉︎(俺、女になってる⁉︎)」


まあなってしまったもんは仕方ない。せっかくの長い髪なので俺好みのポニテにして朝食を取るためキッチンへと向かう。


驚いた事に女になったのは俺だけではなかったようで、テレビから流れる朝のニュースの男性アナウンサーもかなりの美女へと変貌していた。


気になったので他のチャンネルも見てみると、もはや男というものが存在していなかった。

俺はある意味安心した。


「なんだ…全員女になったなら慌てる事はないな」


だが残念なのはなぜ俺まで女になってしまったのかと言う事だ。俺一人男として残っていればハーレムになったものを…(モテるとは言っていない)


母も俺が女になった事に言及せず、元から娘だったように接して来る。

それだけではない。どうやら世界的な異変にも関わらず誰一人疑問に思っていない様子で、気づいているのは俺だけのようだ。


登校し教室の自分の席で観察してみると、元から女子の生徒はそのままで、やはり男だけが女になっているようだ。


元男はどれが誰だかわからないほど変貌しているが一人わかりやすいやつを発見する。


「お? あいつはクラス一の、気は優しくて力持ちの巨漢君か。女になってぽっちゃり系になって…めちゃくちゃ可愛いな」


元巨漢君は女子に可愛がられていて、ドーナツをもらい嬉しそうにモグモグしている。


「別にあいつ自身嫌われてた訳じゃないが、昨日までじゃ考えられん光景だ…」


俺もあの輪の中に入り込めるか…なんて考えているとハツラツな声で誰かが話しかけてきた。誰だ? このポニテ美女は!


「よう、今日もシケた面してんな」


なるほど。この憎まれ口でわかった。こいつは中学の時からの悪友だ。ちくしょう。よりによってなんでこいつが俺好みの美女になってんだ!


「どーした? うちの顔になんか付いてっか?」


しかも一人称はうちかよ! ダメだ! 俺の好みにドンピシャすぎる! 惚れちまうだろうが!


「なんだよー! お前もポニテかよー! うちと被ってんじゃん! 髪解くわ!」


「待て! 解くな。ポニテでいい。いや! ポニテがいい!」


俺はポニテを解くなどと不届きなことを言う悪友の腕を掴み、ポニテ解きを未遂に終わらせる。


「まあいいけどよー…なんか今日のお前ちょっとおかしいぞ?」


おかしいのはお前も含めた男全員だ! なんて無粋なことは言うまい。

俺はしばらく悪友の怪訝な視線をものともせずこいつのポニテを賞翫し、満足したので少し質問してみた。


「お前、元から女子だったか?」


「あ? 何言ってんだ。当たり前だろ!」


なるほど。やはり俺以外に異常に感じてるやつはいなさそうだ。だが、まだ疑問はある。


「変な事を聞くが…女ばっかりでどうやって子ども産むんだ…?」


俺の生物学的疑問に悪友は顔を赤くして口ごもり、目を逸らしながら小声で教えてくれる。やめてくれ。その仕草、俺の心臓が破裂する。


「ば…決まってんだろ…アソコとアソコを合わせてだな…攻め役が受け役に向かってこう…な?」


うむ、全くわからん。いや、わかるはわかるが、それでなぜ子を産むことが出来るのかが全くもってわからん。


しかしなるほど。女同士でも子どもを産むことが出来る、だから女しかいない。異常ではあるが生まれる性別の矛盾はなさそうだ。


ちなみに男同士で子どもを産むことが出来る場合、普通に女子も生まれて男だけの世界にはならないんだぜ。謎だよな。


「ところでお前付き合ってる奴いるのか?」


真面目に真剣に単刀直入に聞いてみると悪友は俺の肩に手を置き悲しそうにポニテを振りやがる。


「…言うな…うちらモテない同盟じゃないか…悲しくなるだろ…」


なるほど! やはりそうか! ならば!


「悪友よ! 俺と付き合ってくれ!」


机を叩き勢いよく立つ上がり俺は悪友に告白した。悪友は口をあんぐりと開け俺の発した言葉が理解出来ていない様子だ。


クラス中の視線は当然こちらへと集中する。

ぽっちゃりちゃんもドーナツを落として目をまん丸にしている。やめろ。それも俺の心臓を貫くんだ。


悪友はようやく理解したのか顔を真っ赤に…などせず、呆れたようにそして俺を諭すように肩を叩きポニテを揺らす。


「お前な…いくらモテないからって、うちを恋愛対象にすんな…」


「いや! 俺はお前に一目惚れした! 何度でも言おう! 悪友よ! 俺と付き合ってくれ!」


俺の本気度を察したのかさすがの悪友も動揺を隠せない様子だ。クラスも段々とざわざわし始める。

だが俺は気にせず力説する。


「なぜお前がモテないのかがわからん! こんなに可愛くて快活で性格も良いお前が!

そんなお前に俺が一目惚れするのは必然! 俺はもうお前以外考えられん!」


クラスの女子達(全員女子か…)が『ひゃああ!』と言う声をあげる。

悪友もさすがに顔を赤くして口をパクパクさせている。


「おま…今までそんな事一度も…そんな事急に…」


そりゃそうだ。今日たった今お前に一目惚れしたんだから。モジモジすんな! やめろその仕草。心臓が止まる!


「うちは…その…お前の事…そう言う対象として見てなかったって言うか…一緒に遊んで楽しい友達って感じで…」


「俺の告白を聞いてもやはりその感情か…? もしそうなら俺は無理にとは言わない。お前との関係を壊してまで恋愛関係になろうとは思わない。大丈夫、嫌ならはっきり言ってくれ。そしたら今まで通りの悪友同士に戻るだけさ」


「いや…う…うち…! うちも! お前とおそろで恥ずかしいから解こうとしたけど…お前のポニテに惚れた! うちと! 付き合って下さい!」


悪友は真っ赤な顔で俺に両手を差し出し、俺もその手を取った。胸キュンどころか一瞬心臓止まったね。


クラス中から『きゃああ!』『マジ⁉︎ 公開告白成功!』『モテない同盟がポニテカップルに!』

などなどの声が飛び交う。


悪友がはにかみながら上目遣いでこちらを見る。反則だ。


「よ…よろしく…ともみ…」


あ、それが俺の名前なの? 名前まで女子になってたのか。じゃあ悪友の名前は…いや、そもそもこいつの事中学から悪友としか呼んだ事なかったわ! 一応確認しとくか。


「悪友よ…お前の名前なんだっけ?」


「バカ! うちの名前は(ゆう)だよ!…まあ半分は合ってるのか…」


そんなこんなで俺と悪友の結はめでたく百合カップルになってしまったわけだ。まあ、元の世界でもこいつはなんでモテないのかが不思議なくらい良い奴だったし、俺が女だったら間違いなく惚れてたね。


俺と結はこの日の授業の間離れた席でお互い事あるごとに目を合わせ、奴は小さく手を振って応えてくれた。その度俺の心臓は口から出そうになった。命がいくつあっても足りんぞこりゃ…


放課後は二人で街を回り、その後カラオケへ。俺は流行りの曲、結はアニソン。それは変わらんのかと少し吹き出しそうになりながら時間も忘れ熱唱した。


家に帰ると夕食の準備が整うところで母から苦言を呈された。帰宅が遅くなり申し訳ない。


そしてテーブルの席には綺麗な黒髪ロングの眼鏡スレンダービューティーが腰をかけこちらを睨みつけてきた。誰だ? 不審者か⁉︎


「ともみ。遅くなるならせめて連絡くらい入れなさい。母さんが心配していたんだぞ」


「良いのよパパ。この子もちゃんと反省してるみたいだし。…もちろん、次はないけどね?」


恐ろしい笑顔でおたまとフライパンを握り締める母に戦慄する。そして、この眼鏡ビューティーが俺の親父だと⁉︎


元の親父は確かに同じ眼鏡をかけてはいるが短髪小太りの、なぜ母が惚れたのか疑問に思うほどのザ・中年だった。


それがこの姿…俺はその事実に更に恐慌して飯もおかわり三杯しか喉に通らなかった…ご馳走様。




『私服戦争』


完全百合世界になって数日。俺もこの体とスカートのスースーにも慣れ自分の持っている私服を確認する。


「…私服に…スカートがないだと…⁉︎」


制服はセーラーに変わり、私服も上は女子っぽいものが入っているくせに下はパンツばかり。以前より我が家のコーディネートは全て母の担当だ。…だとすれば恐らくこれは母の陰謀(趣味)であろう。


「由々しき事態だ…これは…戦争だ!」


世界の謎? 元へ戻す方法? 知らん! わからんもんにいくら頭使ってもわからん。ならばこの世界で女子として精一杯生きる。その方が人生豊かになるってもんだ。

今の俺には世界問題など些細なこと。自分の私服の方が遥かに大問題なのだ。


俺は母に抗議と交渉をするため部屋を飛び出す。

だが母は一筋縄ではいかない強者だ。正攻法では攻略できまい。そこで俺は一計を案じる。


ガチャリとリビングの扉を開け、ソファーでテレビを見ながら湯呑みでお茶を飲みリラックスする母に声をかけた。


「ママー! あたし新しい服が欲しいんだけど〜ちょーっと予算厳しくってぇ…」


モジモジしながら上目遣いで言い放つ。どうだ! 可愛い娘のおねだり戦法!

だが母はジト目で睨みつけ、俺をその場に釘付けにしやがった。なんたる威圧感!


「あんたね…普段ママなんて呼ばないくせにおねだりする時だけ言うのはどう言う了見かしら?…と言うか今更ママなんて呼ばれても違和感しかないわ」


おのれ…なんたる強固な心の装甲か…!

仕方がない。ならば正面からぶつかってやろうではないか。


「では言わせてもらおう母よ。なぜ俺の服のラインナップにスカートが用意されていないのか!」


「ママの趣味」


そう一言短く言うと、母はせんべいを上品に齧りボリボリ言わせながらテレビへと視線を戻す。


「そんな事はわかっている! しかし! 娘の趣味も考慮に入れるべきではないのか! 一着もスカートがないのは酷すぎるやしませんか⁉︎」


「…でもねえ…スカートスタイルはパパで満足しちゃってるのよねえ…だからママもパンツスタイルだし…」


あのクソ親父! スカートを独り占めしてやがるのか! 我が家の独占禁止法に違反しています!


「だからともみも我慢してね⭐︎」


⭐︎じゃねえんだわ。ウインクされても許せないもんは許せ……クソ! 母にこんなお茶目な一面があったとは! 不覚にもときめいてしまったじゃないか!


だが! 俺は諦めん! バイトすれば服の一着くらい買えるだろう。だが、せめて一着くらいは母にスカートを買わせて(敗北させて)やる! これは俺の意地だ!


とことん交渉してやろうと腰を据えようとした時、リビングに呼び鈴が鳴り響く。

母が応答するとやって来たのはどうやら結のようだった。


俺は玄関で奴を出迎える。


「や! 近くまで来たからさ。ちょっと顔見てこうかなーって…」


結は白いシャツにカーディガンを羽織り、スカートでサンダル姿。頬を染めはにかみながら言う結に俺の心臓はブチ抜かれ、その後ろでなぜか母もブチ抜かれていた。


「あ! ともみママ! お久しぶりです!」


ぺこりと頭を下げ、ポニテを前へと揺らす結に、俺と母は顔を真っ赤にし、頬を両手で押さえて悶絶する。


だがこれは千載一遇のチャンスではないか!

結の奇襲により心の装甲が剥がれ落ちた今、母はもはや敵ではない!


「母よ。俺は結のようにスカート姿で一緒に並んで歩きたい。どうだろう。一着くらい買ってはもらえないだろうか」


「そうね。確かに一着くらいあっても良いわね。ああ…あなた達が並んでる姿想像したら…ああっ! その時は写真撮らせてね⭐︎」


いや、⭐︎はいいんだわ。まあいいか。俺は結の横に立つ。


「ああそうだ母よ。俺は結と付き合っているんだ。一応改めて紹介しておこう」


「そうなんです。あの、宜しくお願いします!」


俺と結の言葉に母はあまりに感激したのか笑顔のまま卒倒した。

大慌てで正気に戻すと母は興奮した様子で真っ赤な顔のまま嬉しそうに俺に小遣いを渡してきた。


「なあともみ…お母さん大丈夫か?」心配する結。


「お義母さん⁉︎」勝手に爆沈する母。


「結…お前は我が家の服の神(福の神)だ」上手いこと言う俺。(ダジャレ)


こうして結の援護射撃により俺は勝利(スカート)をおさめることに成功したのだった。




『休日の一時』


今日は結とデートだ。とは言っても行き先は決めず適当に街をぶらつく予定である。

俺は先日購入したスカートに合わせて気合いを入れてコーディネートする。


そしてリビングへと寄るとビューティー親父が俺の姿を見て一言。


「なんだともみ。コスプレか?」


親父よ…娘の気合いの服装を見てそれはあんまりにもあんまりじゃないか?

てか親父のそのフリフリスカートの方がよっぽどコスプレだわ! なんだそれ! 部屋で着る服じゃねーだろ!


「パパ、ともみは今日デートなのよ〜」


「なんだと! うちの娘に手を出すとはどこの娘だ! 今すぐに連れてこい!」


その見た目で頑固親父みたいなこと言われると脳がバグる…てか親父にも娘を取られる悔しさなんて、俺が息子の時には見せなかったそんな一面があったのか。


「やーだパパ。結ちゃんの事覚えてないの? ともみが中学生の時よくうちに来てたあの子よ」


「おお、あのちょっと言葉使いは悪いが礼儀正しいあの子か。なるほど、ともみ。結ちゃんの事大事にするんだぞ」


結の名前が出た途端あっさりと交際が認められるとは…親父に一目置かれる奴の信用がハンパないな。さすが俺が惚れたポニテだぜ。


さて、俺と結は駅前で落ち合う予定で五分前行動を是としている俺は、きっちりとその通りに行動したのだが、奴は俺が来る前にすでに到着してやがった。おのれ…奴は十分前行動派だったか…!


「結すまん! 待たせたか…」


「いや、うちも今来た所だよ」


嘘だと言うのはすぐわかる。こいつは人に気を使わせないようにする時必ず頬を掻くんだ。だがポニテ美女の今その仕草は俺の心臓を貫くので自重して頂きたい。


俺は心を落ち着かせるため目を逸らすと、結も目を逸らした。

そして頬を染め俺の方をチラチラと確認するように見てくる。なんだその視線は。


「なんだよ結。言いたい事あんならはっきり言えよ」


「ぇっ! えぇ〜っと…なんでもない!」


だから、頬を掻くな。バレバレだっての。


「なんでもない事ないだろ。嘘つく時の癖出てんぞ?」


「う…」


結は観念したようにはにかみながら横目で俺を見てモジモジ揺れて呟く。


「その…ともみ可愛いなって…」


俺の顔は一瞬にして火を噴いた。母には趣味でパンツスタイルを強制され、親父にはコスプレと揶揄された俺の姿を、短くも素直にこれ以上ない火力で称えてくれる。こんなの惚れ直さないわけがない。


「ま…マジか…あ…ありがとう…褒められたの初めてで…なんか照れるな…てかなんでお前まで照れてんだよ…」


「え…だって…うちのために気合い入れてくれたんでしょ…」


俺達はお互い顔を合わせず真っ赤でモジモジする。側から見るとトイレを我慢する怪しい二人組に見えているに違いない。


「ま…まあ、とりあえず行こうぜ…なんか人の目も気になってきた…」


俺は結の手を取って小走りにその場から移動する。結はたたらを踏みこけそうになったがなんとか持ち直し俺についてきてくれた。


そして平静を取り戻した俺達は服屋でウインドウショッピングを楽しみ、雑貨屋で白とオレンジの百合のキーホルダーを買い、俺はオレンジ、結は白のキーホルダーをカバンにつけた。


昼時になりスコアバーガーで昼食を摂り、もう一回りする事にした。

そんな俺達の背後から数人の誰かが声をかけてきた。


「やあそこの可愛いお二方。あたし達とお茶しなーい?」


可愛いと言う言葉に反応しその場にいる全員がそちらに振り向く。自分の事ではないとわかると再び歩み出す通行人。やはりみんな自分が可愛いと思っているんだな。自己肯定感が高くて素晴らしい。


いや、それよりも問題は古臭いナンパ文句で俺達に声をかけてきたこいつらだ。

どっかの高校の制服を着崩した、金髪やら茶髪のいかにも不良なお嬢さん方。


俺達に声ををかけるとはお目が高い…と言いたい所だが俺はお前らの事など眼中にない。結も同様のようで、俺達は『間に合ってまーす』と声を揃えて言うと、とっとと歩き出した。


だがナンパする奴と言うのはしつこいものだ。そのまま後ろにつきまとい声をかけ続けてくる。


「んな事言わないでさあ! お茶した後あたしらとイイコトしよーよ」


お前ら三人、こっち二人。人数合わねえだろ。てかお前らと同類だと思われたくないからでかい声でキモい事言ってくんじゃねえ。


そう思いながらも口には出さない戦略的(小心者)な俺。

だが結は立ち止まり不良共の方へ振り向きはっきりと断りを入れる。しまった! こいつの性格の事をすっかり忘れてたぜ!


「あの! 迷惑なんでついてこないでもらえます? うちら今デート中なんで邪魔すんなし!」


俺は結の手を引いて止めようとするが無駄だった。


不良共は激昂し声を荒らげ結の胸ぐらを掴みやがった。


「ああ⁉︎ 調子に乗ってんなよ! あたしらが来いって言ってんだから素直についてくりゃいいんだよ!」


不良のお決まりのセリフで脅しにかかる三人組。やばい。俺は腕はからきしだ…結を守って逃げ切れるか…?


その時、不良共の背後に大きな見覚えのある影が現れる。俺と結は『あ!』と安心したように声を揃えた。


その影は不良のリーダー格の肩を叩き、三人組の視線をそちらに向けさせる。


「あ? なんだ? あたしらは今忙しぃいいいい?!」


喋り終わる間も与えず大きな影はリーダー格の腕を掴み、見事な一本背負いを炸裂させた。


『ぽっちゃりちゃん!』


そう! 大きな影は気は優しくて力持ち、クラス一のドーナツ好きのあのぽっちゃりちゃんだった。


「あたしのクラスメイトに手を出したら承知しないよ!」


残った二人に睨みを利かせると不良共は投げ飛ばされ倒れているリーダー格の腕をそれぞれ持って、引きずるようにして大慌てで逃亡して行った。


奴らの姿が完全に見えなくなったのを確認して、ぽっちゃりちゃんは俺達の方へと歩み寄る。


「二人とも大丈夫だった?」


にっこりと笑うその顔で俺の心臓が撃ち抜かれる。ダメだ! 俺には結という者がいるんだ!

取り敢えず落ち着いてお礼を言うんだ!


「ありがとう、ぽっちゃりちゃん。おかげで助かった」


「すごい一本背負いだったよ。さすが現役文芸部!」


結も感心したように言う。まったく本当にさすがだぜ。文芸部ってのは武芸にも秀でた文武両道部って事だもんな。うんうんと納得して頷く俺。


「って! 文芸部かよ!」


なんで納得してんだ俺は! 文芸部が背負い投げの練習なんかするわけねーだろ!


「あはは! あたしは柔道も習ってるんだよ! 身を守るため、今みたいにみんなを守るためにも役に立つしね!」


なるほど。本当に文武両道とはさすが気は優しくて力持ち! 頼りになるクラスメイトだ。


「そうだ、良かったら一緒に遊ばないか? せっかくここで会ったんだしな。結もいいか?」


「もちろん! 助けてもらったお礼もしないと!」


俺と結はぽっちゃりちゃんの両脇に挟むように立ち、彼女の手をそれぞれ取る。


「いいの? デート中だったんでしょ?」


「構わん! 今日はぽっちゃりちゃんと三人でデートだ!」


「そーゆーこと!」


俺達は二人で手を引き歩き出す。ぽっちゃりちゃんも笑顔で着いてきてくれた。


そして俺達はドーナツ屋に入り三人で堪能した。ぽっちゃりちゃんは眩い至福の表情でモグモグする。その笑顔は反則です!


本日のデートはクラスメイトとも一段仲良くなれて大満足のうちに終わった。



『熱々持久走』


本日は体育があるのだが、本来着替えは当然ながら男女分かれてするものである。だが今やこの世界は女ばかり。当然分かれる必要もなく同じ教室で全員着替え出す。


俺は最初こそ小さく感嘆の声を漏らしたが、「自分も女だしなあ」と思うとスンと興味を失い下心も消え去った。


そしてふと結の方を見てみると、上を脱いだばかりのところで白いシャツから白い腕が覗き俺の心臓は握られたようにキュっとなる。ふむ、俺の下心よ、消え去ってはいなかったか。


思わず結の着替えに見惚れていると奴は俺の視線に気付き、体操服を胸の前で持ち顔を真っ赤にして、「み・る・な!」と声を出さず唇を動かした。


俺は慌てて視線を外し自分の着替えを始める。心なしか顔が熱いぜ。


そして短パンを履き、スカートを下ろし、上を脱いでいる時に邪な視線を感じ結の方を見ると、奴も俺の着替えを凝視してやがった。


「み・る・な!」と声に出さず言い返し、結の奴は真っ赤な顔で俯いた。

まったく…本当にまったく…顔だけじゃなく体も熱いぜ…他の女子に目もくれず俺を凝視するなんて…鼓動が止まんねえ…!


着替え終わりグラウンドに向かおうとした時、結が横に来てすれ違いざまに耳元で囁く。


「ともみ…キレイだったよ」


そう言うと小走りに教室を出て行く結。

俺はしばらく顔真っ赤で呆然とし息が荒くなる。クソ! 結! 言い逃げなんて反則だ! 思わず漏らしちまいそうになったじゃねえか!


絶対にやり返す! そう心に誓い俺もグラウンドへと向かった。


「はーい、今日はグラウンド20周ね〜!」


本日の体育のメニューは持久走のようだ。当然全員からブーイングの嵐。

我が校の体育教師は恐ろしいことで有名である。本来ならブーイングなど飛ばそうものなら体育教師の威圧感たっぷりの言葉が返ってくる所だ。


だがもれなく女教師となったショートカット美女教師(元いかついおっさん)が透き通るような声と笑顔で俺達に相対する。


しかし声に怖さはないのだが笑顔の目が笑っておらず、その威圧感で皆気圧され黙り込んでしまう。どうやら怖さは相変わらずのようだ。そして渋々走り出す面々。


こう言う持久走の時、一緒に走ろうとか言う奴もいるが、それに騙されてはいけない。そう言う奴は大抵自分が先に走りゴールするものだ。


そんなものについて行こうとせず、心乱さず自分のペースで走る。これが裏切られ続けた俺が出した結論である。


しかし俺の目の前に走っているのが結だと言うならば話は別だ。心もペースも乱しスピードを上げ奴の横へとつけると、耳元でさっきのお返しをしてやろうと口を開く。


だが結はそれに気付くと更にスピードを上げ俺を置いてポニテを揺らして逃走しやがる。当然追いかける俺。

追いつき、逃亡、追いつき、逃亡の繰り返しだ。


俺達のその様子を見てクラスの奴らも驚きの声を上げていた。


「何あれ! あの二人すごいよ!」


「はあはあ…ちょっと休憩…てか、あれで最後までもつの?」


「何か結ちゃんがともみちゃんから逃げてる…? もしかしてケンカでもした⁉︎」


いや、違うんだ。結が逃げてるのは間違いないのだが、ケンカして逃げてるのではなく俺に耳元で囁かれるのが恥ずかしいから逃げてやがるんだよ!…多分…


俺達は追いかけっこをし、あっという間に20周を走り終わってしまった。

いやあ、夢中になると何でも早く終わるもんだな。


俺達は教師から距離を取りその背後に並んで座り休憩する。


「はあはあ…おい結…逃げ足早すぎんだろ…」


「ふふふ…足と持久力には自信があるんだ。うちが先にゴールしたからともみの負けね」


くそ…息を切らして汗だくでその笑顔で言われたら負けを認めるしかねえ!

耳元で囁いて恥ずかしがらせるのは諦める他ない…


「くそ…認めよう俺の負けだ…囁くのは諦める…」


結は俺の言葉に「ふふん」と勝ち誇り得意気に鼻を鳴らし、どこかホッとした様子だった。

なので俺は結のほっぺにキスをしてやった。


「へぅ⁉︎」


結は間抜けな声を上げ顔を真っ赤にして、顎が外れるんじゃないかと思うくらい大きく口を開けゆっくり俺の方へと振り向き見つめてくる。


「へへ。俺、囁いてないぜ?」


「ぐうう! 反則ぅ!」


結は真っ赤な顔の頬をぷくっと膨らませ俺の太ももをつねってくる。ふふふ、うまくいったぜ。

しっかし走ったせいかあっちいなあ…


俺も結もお互いの体温が上がってるのがわかるくらい熱くなる。

そして、持久走を走っているクラスの奴らも、俺達のやりとりを見て顔が真っ赤っかで熱々に走っていた。


「こらー! そんなのんびり走ってると日が暮れても終んないよー!」


みんな熱々の中、背後の出来事に全く気付いていない体育教師だけが平常運転。

その様子に俺と結は顔を見合わせ、おかしくて吹き出してしまった。




『追っかけ文芸部』


授業の合間の休み時間。俺は元から女子のグループが話しているのを自分の席から眺めていた。

その輪の中には当たり前のようにぽっちゃりちゃんが入っていて、仲良さそうにおしゃべりをしている。


そんな俺を見た結が俺の席まで来て悲しそうな表情で俺に話しかけてくる。


「ともみ…お前…ぽっちゃりちゃんかあの女子の中の誰かが好きだったのか…? だったらうち身を引くよ…?」


「バカ! そんなわけないだろう! 俺にはお前しか目に…」


面と向かって言いかけて恥ずかしくなって顔から火を吹かせながら言葉を切る俺。結もその途切れた言葉の先がわかったようでみるみる真っ赤になっていく。


俺は首を振って正気に戻り、顔が熱いまま女子グループを見ていた理由を結に教えてやる。


「見てみな。ぽっちゃりちゃんとあの小柄なメガネマッシュボブちゃん。あの二人特に仲が良さそうなんだ。もしかしたらお互い意識してんじゃないかなってさ」


「え! そうなの⁉︎ でもそっか。メガネちゃんも文芸部なんだよ。だからぽっちゃりちゃん柔道すごいのに文芸部に入ったんじゃない?」


「マジか! それは知らなかった。なるほどなあ」


「でも、外野が口挟むのはNGね。うまくいくものもブチ壊しになるかもだし」


うむ、それは確かにそうだ。俺達に出来ることはなまぬる〜く見守ることだけさ。

でも背の高いぽっちゃりちゃんに小柄なメガネちゃんか。背だけ見ると凸凹コンビだが話している様子を見ると本当に楽しそうに二人で笑ってるのでやっぱり波長が合うんだろうな。


そして放課後。俺と結は寄り道してコンビニで限定販売『うまうまスティック百合根味』を買い食べ歩きしていた。


その時聞き覚えのある嫌な声が背後から聞こえて来た。


「やあそこの可愛い彼女、あたし達とお茶しな〜い?」


またナンパかよ…俺と結と通行人は声のする方に振り向いた。うむ。相変わらずの自己肯定感、さすがです。


しかし今回のターゲットは俺達ではなくあるあのメガネちゃんだった。


「おい…あれやばいんじゃないか⁉︎」


「ホントだ! 助けないと…! うちらが加勢で三対三! 誰もあぶれない!」


「何でナンパ受ける前提なんだよ!」


俺はツッコミながらメガネちゃんの元へ駆け出した。

その間メガネちゃんはナンパ女子達に向かいメガネをクイっと上げ応対していた。


「お断りします。あたし忙しいんで」


「そんな事言わないでさあ! お茶した後イイコトしようよ〜」


「イイコトとは?」


「…それは…わかるでしょ? アソコとアソコを…」


ナンパ女子がそこまで言うとメガネちゃんはその顔を思い切り平手打ちし、ナンパ女子は意外な反撃に一瞬呆気に取られるもすぐに激昂してメガネちゃんに迫る。


「下手にでてりゃ調子に乗りやがって! いいからうちらと一緒に来いよ!」


ナンパ女子はメガネちゃんの腕を掴み引っ張る。

マズイ! メガネちゃん逃げろ! 俺は慌てるあまり声に出せず心の中で叫ぶ。


しかし次に目に飛び込んできた光景に俺も結も足が止まるくらい驚愕する。

メガネちゃんはナンパ女子を足払いし引き倒すとその後ろから絞技を決めた。


リーダー格の女子が逃げようともがくがメガネちゃんは逃さず、それを助けようとする残りの二人をメガネを光らせその迫力だけで足止めする。


「参りましたか?」


メガネちゃんの言葉に涙目で彼女の腕を叩き降参の意思を伝えるナンパ女子。メガネちゃんは腕を外してやり、スカートを手で払いながら立ち上がる。


「これに懲りたら迷惑なナンパはしないように。いいですね?」


「は…はいぃ! ごめんなさいいぃ!」


ナンパ女子達はヘロヘロのリーダー格の腕を二人で持ち、引き摺りながら逃げ去っていった。


驚きでまだ動けない俺と結に気付いたメガネちゃんがこちらへと駆け寄って来た。


「あ! ともみちゃん、結ちゃん! 放課後デート? いいね! あ! 限定販売のうまうまスティック! どう? それ美味しい?」


先程までの戦闘モードとはうってかわっていつものクラスメイトのメガネちゃんに戻っていた。

しかしあの技のキレ…完全に素人じゃないぞ…結も感嘆の声を漏らす。


「メガネちゃんすごいよ! あのナンパ女子を一人で追い返すなんて!」


「あはは、今の見てたの? なんか恥ずかしいなあ。あたし子どもの頃から柔道しててね。投げる力がないから絞技を極めちゃったんだよね!」


なるほど。と言う事はぽっちゃりちゃんと同じ道場に通っていると言うことか…?


「そう言えばこの前ぽっちゃりちゃんもナンパ女子撃退したって言ってたなぁ。あの子、あたしの後に同じ道場に入って来て仲良くなってね。それで高校に入ってあたしが追いかける形であの子と同じ文芸部に入っちゃったんだ!」


メガネちゃんは頬を染め嬉しそうに体を揺らしてぽっちゃりちゃんとの馴れ初めを話してくれた。ダメだその仕草…俺の心臓に直撃する…


てか! メガネちゃんの方がぽっちゃりちゃんを追っかけたのかよ! てっきりメガネちゃんの方が元からのが文学女子かと思ってたぜ!

俺と結はメガネちゃんの意外な真実を知り、そして三人で笑う。


その後俺達は近くの公園でうまうまスティックパーティを開き親交を深める事ができた。しかし喉乾くなこれ。ジュースも買えばよかったぜ。




『ママのヒミツ』


学校から帰るといつもリビングで煎餅を齧っている母の姿が見えなかった。

静かすぎる家の中。何か不足の事態が起きたのかと身構え、二階の寝室から物音がしたので俺は箒を手に静かに階段を登る。


そして寝室の前まで来ると、音を立てずドアを少し開き中の様子を伺う。

そこで目にしたのは、親父のフリフリスカートを身につけ姿見の前でポーズを取る母の姿だった。


「うふふ。あたしも中々スカート似合うのよね。パパと出会った頃の事思い出すわぁ」


お上品にお嬢様のような仕草をするその母は、いつもの煎餅を愛する母とは思えないほどの乙女な雰囲気を漂わせていた。


俺はそっとドアを閉じ箒を握りしめながら静かに階段を下りながら思う。


「母よ…あなたもか…!」


親父のスカートスタイルに満足していると言いつつ、やはりスカートを履いてみたくなる。母はやはり俺の母であったと納得する。


そして玄関でわざと大声で帰宅の挨拶をしてやった。


「ただいま〜!」


寝室の方からバタバタと大慌てする音が鳴り響く。俺はそこでの母の様子を想像しながら笑いを堪える。


そして、先程のお嬢様仕草はどこへやら。息を切らし髪も少しボサボサにしたパンツスタイルの母が二階から下りて来た。


「と…ともみ、おかえりなさい。今二階のお掃除しててね、そしたらコウテイペンギンがお尻フリフリ歩いててね! 大慌てだったのよ! あ! コウテイペンギンはスマホで動画を見ててね!」


フリフリスカートに引っ張られよくわからない言い訳をすると、「コホン」と咳払いをし平静を取り戻す母。そして何事もなかったかのようにリビングへと向かう。


俺は吹き出しそうになりながらも、母の秘密を知りなぜか嬉しさに包まれた。




『ナンパトリオ(敗北)無双』


ー ターゲット主婦の場合 ー


ある日の事。ナンパ女子達は今日も今日とて懲りずに獲物を探しているようだった。


ナンパリーダー「くそ…うちらのナンパ成功率ゼロじゃん…」


ナンパ左側「いや…毎回やられてるからマイナスよ…」


ナンパ右側「同年代狙うからダメなんじゃ…?」


リーダー「なるほど! それだ! 今日はちょっと年上狙ってみるか!…お! あの買い物途中の奴良さそうじゃん?」


ナンパ左側「え…年上すぎん? あれ絶対人妻じゃん」


ナンパ右側「うひゃ! 人妻⁉︎ 背徳感!」


リーダー「そう言うこった! おーい! そこの美人主婦さ〜ん! あたし達とお茶しな〜い?」


街行く主婦『あら! いいわね! 若い子とお茶出来るなんて! 若さもらっちゃお♪』


一斉に振り向き見事に声を揃える主婦。ナンパ女子達は主婦達に追い詰められ顔が真っ青だ。

獲物を探していたナンパ女子達が主婦達の獲物へと変貌する瞬間を目撃してしまった俺であった。


ー ターゲットサラリーマンの場合 ー


また別の日。ナンパ女子達は今日も今日とて…いい加減懲りろよ…


リーダー「この前の手ごたえから年上狙いは正解だ。だが主婦を狙った事が失敗の原因だ」


ナンパ左側「じゃあ次はどんな奴を狙うのさ」


リーダー「決まってんだろ! リーマンだよ、リーマン!」


ナンパ右側「上司とのイケナイ恋! 背徳感!」


リーダー「そう言うこった! おーい! そこの黒髪ロングのメガネビューティー! あたし達とお茶しな〜い?」


外回り中のともみパパ「ん? 私とお茶をしたいのかね? ふむ、ともみと同年代のようだ。ちょうど休憩しようと思っていたし、あそこのカフェで少しお話ししようか」


ナンパ女子達『キター!』


ともみパパ「…見てくれ。これが娘が3歳の時の七五三の写真。可愛いだろう?」


リーダー「は…はあ…」


ともみパパ「これが小学校に入学した時だ」


ナンパ左側「あら、七五三の時の着物と違ってパンツスタイルで可愛い」


ともみパパ「そうだろう! そうだろう!」


ナンパ右側「あれ〜?…イケナイ恋は〜?」


なぜか親父と左側は俺の子どもの頃の写真で盛り上がり、残りの二人はゲンナリしながら空になった飲み物のカップを啜る。


親父に声をかけたのが運の尽きだ。強く生きてくれ。


やっと解放された時にはリーダーと右側はヘロヘロ。左側は俺の写真を摂取した事でツヤツヤで帰っていった。いや、恥ずかしいわ! 何してくれてんだクソ親父!


俺は店の前で親父が出てくるのを待ち伏せし、苦言を呈した。


「親父…何見ず知らずの奴に俺の写真見せて自慢してんだよ…あいつらが可哀想になるわ」


「ともみ…見てたのか…いや…お前のその口の悪さの事を同年代のあの子達に相談しようと思ってたんだが…ついついな…」


まったく…親父がこんなに親バカだとは思いもしなかったぜ。


しょうがない…親父の意外な一面を見せてもらったお礼でもしてやるか…

俺は親父と腕を組みピッタリとくっついた。


「パパのバカ。恥ずかしいからもう他の人にあたしの写真見せて自慢しないでよ! あと口悪いのは絶対パパ譲りだから!…もう…この喋り方するの今日だけだからね!」


「ともみ…お前はやっぱりいい子だなあ…」


親父は嬉しそうに俺の頭を撫でる。しめた! 今ならおねだりすれば何でも買って貰えるんじゃないか⁉︎


「ねえパパ! あたしあのスカート欲しい!」


「おお、いいじゃないか。ともみに似合いそうだな。じゃあママと相談しようか」


…親父のその一言で俺の夢は露と消える運命だと悟るのだった…スカート…



ー ターゲット三人娘の場合 ー


今日も今日とて(以下略)


リーダー「さーて…今日こそはナンパ成功させないとな!」


左側「この前のリーマンさんで成功したじゃん」


リーダー「楽しんでたのお前だけな? あたしとこいつがゲンナリしてたの気付かなかったのかよ」


右側「人の家のホームビデオ(及び写真)ほどつまらない物はない」


リーダー「そう言うこった! 今日こそマトモな奴を捕まえんぞ!」


「やあ、そこの可愛い三人娘、あたしらとデートしない?」


リーダー「クソ…ナンパライバルかよ! みんな後ろ見てんじゃねーか! あたしらも負けてらんねーぞ!」


左側「確かに! あたし達のポテンシャル見せつけてやるわ!」


右側「ナンパバトル! 高揚感!」


「いやいや、ライバルじゃなくてあたしらあんた達に声かけたんだけど?」


ナンパ三人娘『ふぇ⁉︎』


「いいねー! その反応! ナンパされんの初めて? こっちも三人だしちょうどいいじゃん」


リーダー「え…でもなあ…」


左側「うん…ナンパして成功してお茶 (からのイイコト)をしたいのに、ナンパされてお茶ってのは…ねえ…?」


右側「背徳感皆無!」


リーダー「そう言うこった! 悪いけど姉ちゃんらほか当たってくれや!」


左側「じゃ!」


右側「そゆ事で!」


奴らは爽やかに颯爽と立ち去り、新たなナンパ娘達は呆然と立ち尽くしていた。

ここまで来るともはや一周回って愛おしさすら感じるな。

まあ、迷惑にならん程度に頑張ってくれ。応援はせんがいい人に巡り会えることを祈ってるぜ。




『夕日の二人』


今日は結とのデート。一張羅のスカートを履き気合いを入れて待ち合わせ場所に。

結はやはり十分前行動のようで俺よりも先に辿り着いていた。


「すまん、また待たせちまった!」


「…うん…」


奴は心ここにあらずといった感じで生返事を返してきた。


最近結がよそよそしい。仲が悪くなったのかと言えばそう言うわけでもない。放課後も変わらずデートするし、今だってデート中だ。

だが、話しかけても短い返事しか返ってこないのだ。


俺はもやもやを抱えたまま結と一緒に服屋を巡る。奴も言葉数は少ないものの楽しくない訳ではないようで、服を吟味し試着もノリノリであった。


一時的な機嫌の悪さだったのかと少し安心し、俺も試着して結に感想を聞く。

「…いいんじゃない…?」


やはり結の様子がおかしい。少し前までなら、「おお! めっちゃ似合うじゃん! さすがうちの惚れたポニテだぜ!」くらいの事は言ってくれていたはずだ。


俺に何か至らぬ点があるのか…思い悩みながら結に理由も聞けずはや夕暮れ時だ。


このままもやもやを抱えたまま帰るのは精神的にキツい。なので俺は結を観覧車に誘い思い切って聞いてみる事にした。


二人で乗り込み対面に座り話を切り出す。


「結…もしや俺に対して不満があるんじゃないか…? もしそうならはっきり言ってくれ。お前に嫌われないよう出来る限り改善するからさ」


「えっ! いやいや! 別にともみに不満なんてないよ! ただ自分の喋り方を模索してただけ!」


結は大慌てで首と両手を勢いよく振って俺の不安を払拭してくれた。しかし喋り方を模索だと…?


「一体それはどう言う事だ?」


「えっと…今まではさ、ともみと同じように口悪く喋ってたでしょ…それをさ…ともみがうちと一緒にいて恥ずかしくないように、ちゃんとしようかなって…でもいざとなるとやっぱり恥ずかしくて…だから口数が少なくなっちゃったんだ…不安にさせてごめんね」


結ははにかみながら上目遣いでこちらを見てくる。可愛い…


「でも、ともみが今聞いてくれたおかげで吹っ切れたよ! うち、口悪から卒業します!」


なんだと! なんて事だ! 軽口を叩き合っていた結がキレイな言葉で喋るだと⁉︎ いかん! そんな事をされてはより完璧なポニテ美女となり、俺の心臓が保たんじゃないかぁ!

ここは何とか思いとどまらせなければ!


だが、結は俺の隣に座りピッタリとくっついて腕を組んできたもんで、心臓の鼓動が限界突破!


「たまに元の口悪が出ちゃうかもだけど、うち頑張ってちゃんと喋るから笑わずに聞いてね?」


はい! 俺の心臓は破裂しました! ただ喋り方を変えただけ…だが俺にとっては特大の変化だ。結のピッタリ腕組み攻撃も合わさり俺は撃沈です。


「ともみ⁉︎ ともみ大丈夫⁉︎」


真っ赤な顔で放心している俺を結がゆさゆさと揺らす。ポワポワと幸せ空間に浸りながら俺は…嬉しさのあまりちょっと漏らした…


そして結は意を決したように、正気を取り戻さない俺の両頬を両手で掴み自分の顔の方へと向けると、俺の唇に自分の唇を重ねてきた!


「んん⁉︎」


突然の事に俺は一気に現実へと引き戻される。いや、結と唇を合わせている今この現実も幸せ空間である。もはやポワポワが治らない!


「へへ…持久走の時のお返しだよ!」


結は白い歯を見せ真っ赤な顔で幸せそうに笑みを向けてくれる。俺も真っ赤な顔でそれに笑顔で応えた。


観覧車は頂点に達し夕日に照らされた街の景色が見渡せる。俺達は自分の家の方向を指差しながら笑い合った。


そして、頂点から降り始めると同時に二人で見つめ合い、もう一度キスを交わした。




『完全百合世界』


それから、結とはデートもした。ケンカもした。でも仲直りの度に二人の仲は深まった。

高校を卒業して同じ大学に通い社会人になって別々の会社に就職しても、お互い他の人に目もくれず付き合い続けた。


そして26歳の時結と結ばれそれから一年。現在は27歳。

今はぽっちゃりちゃんとメガネちゃんの結婚式。ライスシャワーでご飯三杯分は浴びせ(たつもりで)「お幸せに!」と拍手を贈ったその帰り道。結がまるで二人のお母さんのように大泣きしている。


「ぽっちゃりちゃああん! メガネちゃああん! おめでどおおお!」


鼻水まで流す結の顔をゴシゴシと拭く。


「全く…感動しすぎ! もう結婚式終わったよ? あーあー…ドレスまで鼻水が…」


「うう…ともみ…頭撫でて…」


「はいはい。よしよし。ふふ、ホント結って感動屋さんだよね」


あたし(俺)は社会人になりすっかり元の口調から変わり果ててしまった。もうあの頃みたいに男子高校生のノリで話すのは恥ずかしすぎて無理!


「感動するなって方が無理だよ…ズビ…でも…ありがと…ちょっと落ち着いた…」


あたしは結の頭を撫でながら彼女の手を取り自分のお腹にその手を当てた。

結は不思議そうな顔そしてあたしを見つめてくる。


「じゃあ、感動ついでにもうひと感動。今お腹の中に結とあたしの赤ちゃんが宿っています!」


あたしの言葉に結は最初キョトンとした顔をした。そしてすぐに顔が真っ赤になり口をパクパクさせてあたしの顔とお腹を交互に見始めた。


「え…あ…ええ⁉︎ じゃ…じゃあうち…もうちょっとで…パパ⁉︎」


「そ! 攻め役(結)と受け(あたし)の結果…ね⭐︎」


ウインクするあたしに結は抱きつき、またしてもブワっと涙と鼻水を流してあたしの顔とドレスまでぐしょぐしょにした。


「⭐︎じゃないからああ! ともみいぃ! ありがとおおお! うち! ともみと赤ちゃん幸せにするうぅ! 頑張るよおお!」


「うん! 二人で頑張ろう! そして三人で幸せになろうね!」


あたしも結につられて泣いてしまう。側から見ればトイレに間に合わなかった二人に見えてるに違いない。


世界の謎も、元の世界への戻し方もわからない。いや、そもそもこの世界の方が本物で、元の世界が偽物なのかも知れない。


そう思えるほどに、結とお腹の赤ちゃんがあたしを幸せに包み込んでくれた。

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