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妹に婚約者を奪われたので譲りますが、後始末はお断りです~今さら家族ぶられても、こちらから願い下げです~【書籍化&コミカライズ】  作者: アトハ
5章 居場所

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第35話 私が選んだ人

 誘拐事件が解決し、グレンフォード家へ戻ったその夜。

 遅い夕食を終え、私は自室へ戻っていた。


 侍女に手当てをしてもらった手首には、薄い布が巻かれている。

 縄で擦れた痕はまだ赤いけれど、それ以外に大きな怪我はなかった。


 人質にされていた少女も、幸い怪我はなかったと聞いている。

 それだけは、本当によかった。


 手当てを終えた侍女が部屋を出ていく。

 残ったアシュレイ様は、私の向かいの椅子に腰を下ろした。


「護衛を増やす」


 まだ少し険しい顔をしたアシュレイ様が、そんなことを言い出した。


「今後、外出するときは先行の騎士に道を確認させる。馬車の前後にも護衛をつけて、念のため予備の馬車も一台走らせる」

「……それでは、街を歩くたびに大行列になってしまいますわ」


 街へ出るときくらいは、できるだけ普通に歩いていたい。

 どこへ行くにも騎士をぞろぞろ引き連れるのは、どうにも落ち着かなかった。


「君が攫われたと聞いたとき、生きた心地がしなかった」

「……」


 あまりにも真っ直ぐ言われて、何も返せなくなる。


「だから、二度と同じことにはしたくない」

「お気持ちは嬉しいですけれど……今まで通りで十分ですわ」


 どちらかというと守るべきは、関わりのある商会や孤児院だろう。

 また私を狙うために、誰かを巻き込まれては困る。


「それよりも、護身術とかを習ってみたいですわね。せめて逃げる時間くらいは、自分で作れるようになりたいですわ」

「分かった。教えられる者を手配しよう」

「反対なさらないんですのね」

「君がやりたいんだろう?」


 あまりにも当然のように返されて、少しだけ目を瞬いた。


「……外出するなとは、おっしゃらないんですのね」

「言ってほしいのか?」

「まさか」


 即答すると、アシュレイ様の口元がほんの少し緩んだ。


「なら言わない」

「でも……本当は、止めたいのではありません?」


 少しだけ間があった。


 今回のことで、どれだけアシュレイ様に心配をかけたか。

 自分の選択に後悔はないけれど、それでも怒られる覚悟ぐらいはしていた。

 ここまで好きにしていいと言われると不安になるのだ。


「もちろん、止めたいくらいには心配している」

「……」

「だが、君の自由を奪いたいわけじゃない」


 アシュレイ様がまっすぐに私を見る。


「どうするか決めるのは、あくまで君だ」

「……少し意地悪なことを言ってしまいましたわね」


 ──目の前の人は、フレデリックとは違うのに。

 なんでこんなことを言ってしまったのだろう。


 アシュレイ様の言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。


「アシュレイ様。……一つだけ、お願いしても?」

「何だ?」


 改めて口にするのは、少しだけ勇気がいった。


「今夜は、そばにいてくださいますか」


 アシュレイ様が黙った。


「あ……いえ、その」

「もちろんだ」

「……はい?」

「今夜は、ずっとそばにいる」


 あまりにも簡単に答えるから、今度はこちらが黙ってしまった。


「それだけでいいのか?」

「十分ですわ」

「そうか」


 アシュレイ様が立ち上がる。

 そして私の隣まで来ると、そのまま腰を下ろした。


「……近くありません?」

「そばにいてほしいと言ったのは君だろう」

「そこまで近くとは言っておりませんけれど」

「なら離れるか?」


 ほんの少し迷ってから、首を横に振った。


「……そのままで」

「ああ」


 肩が触れそうな距離。

 不思議と、それだけで落ち着いた。


「リディア。無事に帰ってきてくれて、よかった」


 それだけだった。

 けれど、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「……私も」

「ん?」

「帰ってこられて、よかったですわ」


 改めて思う。

 私の居場所は、ここなのだと。


「アシュレイ様」

「何だ?」

「私、公爵夫人になりたかったから、あなたの隣にいるのではありません」


 アシュレイ様がこちらを見る。


「最初にこの家へ来たときは、行く場所がなかっただけでしたけれど」

「……そうだな」

「でも、今は違います」


 私は少しだけ身体を寄せた。


「ちゃんと、ここへ帰りたいと思いました」


 少し迷ってから、付け足す。


「……あなたのところへ。ここが私の居場所なんだって」

 

 アシュレイ様が、わずかに目を見開く。

 それから、私の手をそっと握った。


「……嬉しいな」

「アシュレイ様でも、そんなことをおっしゃるんですのね」

「私を何だと思ってる」


 思わず笑ってしまった。


「でも、そんなことを言われたら、もう手放せなくなる」

「そんな予定はありませんわ」

「ならいい」


 今度はアシュレイ様が、少しだけ笑った。

 その手が、そっと私の頬に触れる。


「リディア」

「はい」

「キスしても?」


 頬が熱くなる。

 けれど、もう答えに迷うことはなかった。


「……はい」


 妻だからではない。

 望まれたからでもない。

 私が、この人に触れてほしいから。


 目を閉じる。

 触れた唇は、驚くほど優しかった。

 ほんの短い口づけ。


 離れたあと、私は自分から少しだけアシュレイ様へ寄り添った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

これにて本作は完結となります・・・!


面白かったという方は、是非とも「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして応援いただけると励みになります!(気が向いたら番外編など投稿できればと思いますので、ブックマークはそのままにしておいてもらえると嬉しいです!)



【*お知らせ*】

新作を始めました!


■タイトル

婚約破棄された落ちこぼれ令嬢ですが、ここが自分が作ったゲームの世界だと気づいたので自由気ままに生きていきます~王宮の注文に間に合わない?私より優秀な義妹に頼めばいいでしょう。どうぞお幸せに~

https://ncode.syosetu.com/n2966ms/


本作を楽しんで頂けた方には、こちらも楽しんで頂けると思います。

是非ともお読みいただけますと嬉しいです!!(※ページ下部のURLからも飛べます)

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