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妹に婚約者を奪われたので譲りますが、後始末はお断りです~今さら家族ぶられても、こちらから願い下げです~ 【連載版】  作者: アトハ
3章 ようやく見えるもの

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第18話 口を挟むつもりはありませんので

「エヴァンズ家の春の慈善会、今年は少し揉めているようですわね」


 その言い方だけで、善意からの話題ではないと分かった。

 何も表情に出さぬよう気をつけながら、私は続きを促した。


「何かございましたの?」

「ええ。衣料や薬品の納め先で、届くはずの数と帳面の数が合わないことがあるそうですの。問い合わせても返事が遅くて、慈善会へ回す品の取りまとめも滞っているとか」

「そうでしたの」

「そういえば、エヴァンズ家は公爵夫人のご実家でしたわね。何かご存知ですの?」


 こちらの反応をうかがうような視線が、遠慮なく向けられる。


 試されているのだと分かった。

 ならば、見くびられたまま受け流すつもりはない。


「いいえ。わたくしも、いま初めて伺いましたわ」


 私は向けられた視線を正面から受け止めたまま、言葉を継いだ。


「気にはなります。けれど……だからといって、わたくしが軽々しく口を挟んでよいことではございませんわ」

「まあ、けれどご実家のお話でしょう?」

「だからこそ、ですわ」


 相手が口を開くより先に、私は淡々と続ける。


「すでに離れた家の内へ、立場もなく口を差し入れるなど、無責任に過ぎますもの」

「無責任?」

「ええ。責を負う気もないまま、縁だけを理由に口を出すことを、わたくしはそう思っておりますの」


 扇の向こうの目が、わずかに揺れた。

 それでも私は、声色ひとつ変えなかった。


「それとも、ミランダ伯爵家では、そのような振る舞いを慎みないとはお考えになりませんの?」


 穏やかな口調のまま告げる。

 けれど、それが単純な問いではないことは、その場の誰にも伝わったはずだった。


「まあ……立ち入ったことを伺ってしまいましたわね」


 そう言いながらも、その婦人はわずかに目を泳がせた。

 先ほどまでの面白がるような色は、もう残っていなかった。


「いいえ」


 その短い返答だけで十分だったらしい。

 ミランダ婦人はそれ以上言葉を継げず、扇を口元へ寄せたまま曖昧に会釈した。


 その場に残ったのは、先ほどまでとは少し違う沈黙だった。

 やがて別の話題が始まり、婦人たちの輪はゆるやかに散っていく。



 ──人の波が少し引いたところで、私はアシュレイ様のもとへ戻った。


「少しお疲れではありませんか」

「大丈夫ですわ。それより、ひとつ気になる話を聞きました」

「聞こう」


 私は、先ほど耳にしたエヴァンズ家の噂について、聞いた範囲だけを簡潔に伝えた。

 アシュレイ様は途中で遮らず、最後まで静かに聞いていた。


「……なるほど」

「まだ噂の範囲です。ですから、今すぐどうこうという話ではありませんけれど」

「私が聞いた話とも合う。なにより、君が引っかかったならそれで十分だ」

「そう仰ると思っておりました」


 私は、そう返しながら小さく口元をゆるめた。


「帰ったら、確認を回そう」

「はい」


 私は小さく頷いた。

 その後、辞去の挨拶を済ませ、私たちは広間をあとにした。


「思っていた方と違ったわ」

「ええ。ずいぶん落ち着いていらした」

「公爵も、あそこまで伴侶を表に出されるのね」

「……大事になさっているのが分かったわ」


 こぼれ落ちるような声が、通り過ぎる私たちの背へ届いた。


 私は足を止めず、そのまま歩く。

 けれど、足取りは入ったときよりずっと軽かった。



 屋敷の外へ出ると、夜気はまだ少し冷たい。

 馬車へ向かう途中で、アシュレイ様が低く言った。


「今夜は来てよかった」

「わたくしもです」


 しばらく歩いたあと、アシュレイ様がふいに続ける。


「……伯母上の言葉は、当たっていたのかもしれない」

「どのお言葉でしょう」

「私が人を頼るのが下手だという話だ」


 思いがけない言葉に、私はそっと目を上げた。


「ご自分でお認めになるのですね」

「認めたくはないが」


 アシュレイ様は前を向いたまま言った。


「君が気になると言った時点で、私の中ではもう捨て置けない話になっていた」


 その言葉が、不思議と胸に残った。


「……それは、少し光栄ですわ」

「少しか」

「では、かなり?」


 隣で、かすかに笑った気配がした。


 馬車の扉が開かれる。

 乗り込む前に、屋敷の灯りを振り返った。


 あの夜、私は大勢の前で笑い者にされ、切り捨てられた。

 けれど今夜、同じように人の視線が集まる場所で、私はアシュレイ様の隣に堂々と立っていた。


 もう、あの夜の私のままではなかった。


「帰りましたら、少しだけ状況を整理しますわ」

「ああ」

「今夜のうちに、忘れないようにしておきたいのです」

「そうすると思っていた」


 馬車が静かに動き出す。

 窓の外には、王都の灯りが途切れずに続いていた。

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