神々の思惑
ここは神々の領域──天上界【神々の議会場】
人間界とは異なる次元。神々が集う場所。
巨大な円形の空間に、七つの勢力の代表が集まっていた。中央には金色に輝く玉座があり、そこに座るのは創造神【アルティス】である。
その周囲を囲むように、六柱の神々が配置されていた。
紅の炎を身にまとう戦の神【火怒羅】。
知恵の光を纏う知恵の神【ソフィロス】。
闇色の瘴気を漂わせる混沌の神【カオスミラ】。
黄金の欲望を煌めかせる強欲の神【アヴァリス】。
淡い光に包まれた調和の神【ハーモニア】。
そして、何ものにも縛られぬ風を纏う自由の神【リベルタ】。
七大勢力の頂点に立つ神々が、一堂に会している。
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「皆、集まってくれたことに感謝する」
アルティスの声が静かに響いた。
「この議会を開いた理由はほかでもない。柊連のこれからの措置をどうするか、決めるためだ」
すると、紅の炎を身にまとった戦の神カドラが立ち上がった。
「どうするかだと? 爺さん、そんなの──あいつを殺す以外に何があるというのだ。お前が好きな秩序を守るためには、それが一番だろう」
「これだから野蛮民族は……」
苦笑しながら口を開いたのは、知恵の神ソフィロスだった。
「あやつは最厄。われらを創り、破壊もできる存在なのだぞ。そんな安易に殺しては、かえってわれらに何が起こるかわからぬではないか」
「現に先代の神々たちは、あやつを追放しただけで殺してはいないだろう」
「ちっ、臆病者めが」
戦神は不服そうに座り直した。
「そうだ。確かにあやつは危険だが、あやつの力は未知数。まだ決断をするには早かろう」
創造神は静かに言った。
「なら私があいつを管理しよう。なに、別にあいつの力を使いこの世を支配するなんて考えちゃいねえぞ」
そう口にしたのは、混沌の神カオスミラ。
「混沌の神カオスミラ……ダメだ。お前は信用ならん。お前は混沌をつかさどる神。そんな奴の手にあやつは渡せん」
カオスミラは表情を変えなかったが、その眼の奥には確かに憎しみと怒りが宿っていた。
「というか爺さん。いつからお前がわれらの長になったつもりだ? われらは数万年前のあの戦いで決裂し、己らの勢力に分かれたはずだが」
「別にわしはお前らの長になったつもりはない。ただここで七大勢力の代表と、最厄の扱いについて会議がしたいだけだ」
「いいか爺さん、俺はお前らの手下が先日われらの勢力内に入り、何やら怪しい工作をしていたことを知ってるんだぞ。俺がお前を攻撃する理由は、いくらでもあるんだからな」
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カオスミラの言葉に、アルティスの眼光が鋭さを増した。
「カオスミラ……貴様、今何と言った」
「聞こえなかったか? お前の手下が、俺の領域を侵したと言ったんだ」
空気が凍りついた。
創造神の周囲から、金色の光が迸る。対する混沌の神の身体からは、闇色の瘴気が立ち上った。
「貴様……宣戦布告と受け取ってよいのだな」
「ああ、好きに受け取れ。どうせお前とはいつか決着をつけねばならなかったのだからな」
二柱の神の力が激突しようとした、その瞬間──
「お待ちください」
柔らかく、しかし確固たる意志を含んだ声が響いた。
調和の神ハーモニアが立ち上がり、二柱の間に割って入った。淡い光を纏うその姿は、争いの場に静寂をもたらす。
「アルティス様、カオスミラ様。ここで争えば、この議会の意味がなくなってしまいます。どうか、お収めくださいませ」
ハーモニアの穏やかな声に、場の空気が少しずつ和らいでいく。
「……ふん」
カオスミラが先に力を引いた。アルティスもまた、ゆっくりと光を収めた。
「ハーモニアの言う通りだ。ここで争っても何も生まれん」
「……話にならん。俺は帰らせてもらう」
カオスミラはそう言い捨てると、議会場を後にした。
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議会は事実上、決裂した。
七大勢力はそれぞれの思惑のもと、動き始める。
**創造神アルティスと知恵の神ソフィロス**は同盟を結んだ。表向きは秩序と知恵による統治を掲げているが、その実、互いに相手を利用することしか考えていない。
「ソフィロス、貴公の知恵を貸してもらいたい」
「もちろんです、アルティス様。われらの秩序を守るため、知恵を尽くしましょう」
口では協調を謳いながら、アルティスは最厄を己の管理下に置くことを、ソフィロスは最厄の力の解析を、それぞれ密かに目論んでいた。
調和の神ハーモニアもまた、この同盟に加わった。
「争いを避け、均衡を保つため……微力ながらお力添えさせていただきます」
だが彼女もまた、表面上の調和を演じながら、自らの立場を優位に保つことだけを考えていた。
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一方、**戦の神カドラと強欲の神アヴァリス**もまた、手を組んだ。
「カドラよ、お前の力と俺の欲望が合わされば、この世界の頂に立てる」
「ふん、俺はただ強い奴と戦いたいだけだ。お前の欲にはつきあわんぞ、アヴァリス」
「ははは、それでいい。お前が戦い、俺がその果実を手に入れる。完璧な関係だ」
だが、カドラは最厄との戦いだけを求め、アヴァリスは最厄の力を独占することだけを考えていた。利害の一致など、表面だけのものだ。
二柱の笑い声が、不穏な響きを持って天上界に木霊した。
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そして、**自由の神リベルタ**はどの勢力にも属さなかった。
「私はどこにも縛られない。それが自由ってもんだろ?」
飄々とした態度で、リベルタは一人、己の領域へと帰っていった。
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混沌の神カオスミラは、誰とも手を組まなかった。
混沌をつかさどる存在である彼を、信用する神などいない。だがそれは、彼にとって何の問題でもなかった。
「最初から一人だ。何も変わらん」
暗闇に包まれた玉座に座り、カオスミラは冷徹に呟いた。
孤独は選択であり、武器である。誰にも縛られず、誰にも頼らず、己の意志だけで動く。
「俺一人で、最厄を手に入れてみせる」
混沌の神は独自の計画を胸に秘め、静かに、しかし確実に動き始めた。
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こうして、七大勢力は表面上三つの陣営に分かれた。
**秩序の同盟(アルティス、ソフィロス、ハーモニア)**
**野望の同盟(カドラ、アヴァリス)**
**中立**
**孤立**
だが、その誰もが互いを信用などしていない。それぞれが己の野望のためだけに動き、他者を利用し、裏切る機会を窺っている。
そして、その誰もが狙うもの──
人間界に存在する、最厄【柊連】。
神々の思惑が交錯する中、柊連の運命は大きく揺れ動こうとしていた。




