戦火
6虚無ノ境では連がせっせと拠点づくりに励んでいた。その間、美月や大樹らは元の世界に戻り、他勢力の観察、調査を行っていた。
「ふう、今日はこんなところかな」
「なかなか見事な倉庫に畑だ。頑張ったな」
「まあな。これからもっと住人を増やすことになるだろうし」
「なあ、クヤ。俺らの味方になってくれる神様はいないのか? 味方ではなくとも、少なくとも攻撃はしてこない神とか」
「いないことはない。しかしあいつは……」
「どうしたんだ。いるならそいつと一緒に、ひとまず組んで勢力拡大を目指したほうがよくないか。で、その神は誰なんだ?」
「自由の神、リベルタだ」
「自由の神? それって柚木が宿してる……」
「ああ、だがあいつは」
「なんだよ、そいつになんかあるのかよ」
「まあ、あいつは俺が神々の領域から追放されたとき、唯一俺の味方についたやつなんだ」
「それならより好都合じゃないか。お前に対して良好なら、俺らにとっても持ってこいじゃないか」
「いや、そうなんだが」
「よし、考える前に行動しないと何も始まらないからな。とりあえずそいつと会ってみないか」
「よし、そうと決まったら身支度、身支度……」
「その必要はない」
「リ、リベルタ」
「お久しぶりです、最厄様。此度はまた面倒なことに巻き込まれているようですね」
彼女はその透き通った目でクヤのほうを見ていた――つまりは俺の胴体なのだが。
「本当に、私、あなたがいなくなってからずいぶん寂しい思いをしてたんですよ。戦神も創造神もみな自分のことしか考えず、あえて自分らを縛るような行為をして……もっと自由に生きればいいのに」
リベルタは懐かしそうに言葉を続けた。
「なんでここにお前がいる」
クヤが訝しげに尋ねた。
「あらあら、最厄様。忘れたのですか? あなたが私を幼いころ、ここで育てていたのですよ。あなた様が戻ったということは、ここに来るということくらい、私には簡単にわかります」
リベルタは微笑みながら答えた。
「育てた?」
俺は思わず声を上げた。
「ああ、言い忘れてたな。この神、リベルタは俺が創った神の一柱なのだ」
クヤが説明を加えた。
「ええ、そうだったんですか」
俺は驚きを隠せなかった。
「初めまして。俺は柊連と言います。よろしくお願いします」
俺は改めて挨拶をした。
「ああ、よろしく」
リベルタは素っ気なく返した。
(え、冷たくね)
俺は内心でツッコミを入れた。
「では最厄様、あなたは私の領土にどうぞ。ちゃんと上質な部屋とご食事を用意しております」
リベルタが提案した。
「いや、リベルタ。俺は今この連の体に宿っているのだから、俺だけ出るのは無理なんだよ」
クヤが困ったように言った。
「なんだ、じゃあふたりきりになれないのか」
リベルタは小声でぼそぼそと呟いた。
「あからさまにテンション落ちてんじゃん」
俺は思わず指摘した。
「なあ、クヤ。こいつ本当に俺らの味方なのか」
俺は不安そうに尋ねた。
「ああ、まあ少なくとも敵意はないはずだが」
クヤが保証するように答えた。
「多分、興味もないでしょうね」
俺は溜息混じりに言った。
「じゃあリベルタ、連も一緒に連れて行ってくれないか」
クヤが頼んだ。
「えー」
リベルタはあからさまに嫌そうな顔をした。
(あからさまに嫌な顔をするなよ)
俺は内心で呆れた。
「はあ、じゃあ仕方ないな。最厄様の頼みなら聞くしかないか」
リベルタは渋々といった様子で了承した。
「あ、あとその最厄様と呼ぶのはやめてくれないか。俺には今ちゃんとクヤという名がある」
クヤが申し出た。
「クヤ? なんですか、そのどの生物にも当てはまらないへんてこりんな名は」
リベルタが首を傾げた。
俺は内心傷ついた。
「おい、これは俺が初めて授かった名だ。あまり侮辱はするな」
クヤが語気を強めた。
そうだ、ありがとうクヤ。
「あ、それと俺も連れていくなら、あと四人仲間を一緒に連れて行ってくれますか。正確には今は三人なんですけど、後でもう一人合流する予定なので」
俺が付け加えた。
「はあ、なんて強欲な奴。お前、私の能力の一つに複数の可能性から自由に結果を選べるという能力があるんだが、これはお前の十分後の将来を私が好きに選べるということだぞ。十分後、お前を殺すことだって私には可能なんだからな」
リベルタが威圧的に言い放った。
「おいおい、こいつが死んだら中にいる俺も消滅する。それにお前のその能力、相手の総合数値が高ければ高いほどお前のエネルギー消費量も多くなり、限定的なことが起こる未来にすればするほどお前の自由意志は崩れていくんだ。やめておけ。今、こいつの総合値は俺のせいでとんでもないことになってるからな」
クヤが制止した。
「総合値?」
俺が聞き返した。
「ああ、すまない。説明するのを忘れていた。総合値とは、神やその器にあるいわば強さの指標だ。これは知性、力、個性、魅力、統率力、意志の強弱で決まる」
クヤが説明を始めた。
「例えばリベルタなら、魅力90、統率力70、知性80、力60、意志・弱、スキルは《絶対解放》や《無制限転移》などなど。これらを合算すると数値は575だ。最大数値は690だが、それはほぼ不可能に近い。修行を積めばもしかしたら手が届くかもしれないが。ちなみに神の器の平均値は220だ。これだけでどれだけ神と器に差があるかわかっただろう。あと補足だが、神は眷属を無限に作れるわけじゃない。統率力でそれは左右される。統率力×100が限界値だ。それ以上創ると神は消滅する」
クヤの説明に、俺は改めて神という存在の規模を理解した。
「というか本当は、総合値は気安く出してはいけないのだ。それを知ることによって、相手はそいつの弱点を知れてしまうからな」
クヤが真剣な表情で続けた。
「まあ、リベルタは自由を司る神だから思いのまま生きてる。だから総合値も表に出す。しかしそれは本来とても危険なことだ。絶対に他人に知られてはならない。いいな」
クヤの警告に、俺は頷いた。
「わかった。気をつける」
「さて、では行きましょうか。最厄……クヤ様」
リベルタが言い直した。
「ああ、頼む」
クヤが答えた。
「ちょっと待ってください。美月たちを呼んでから行きます」
俺がそう言うと、リベルタは面倒くさそうに溜息をついた。
数分後、美月、大樹、柚木の三人が戻ってきた。
「連、どうしたの? 急に呼び出して」
美月が尋ねた。
「実は、リベルタの領地に招待されたんだ。みんなも一緒に来てくれないか」
俺が説明すると、三人は驚いた表情を見せた。
「リベルタって、柚木の中にいる神様だよね?」
大樹が確認した。
「ああ。クヤの創った神の一柱らしい」
「そうなんだ……」
柚木が複雑そうな顔をした。
「じゃあ、全員揃ったところで参りましょう」
リベルタが手を掲げると、俺たちの周囲に光の渦が現れた。
「《無制限転移》」
リベルタが宣言すると、次の瞬間、景色が一変した。
そこは緑豊かな草原が広がる、穏やかな世界だった。遠くには白い城が見え、空には二つの太陽が輝いていた。
「ここが私の領地、自由郷です」
リベルタが誇らしげに言った。
「すごい……」
美月が感嘆の声を上げた。
「では、城までご案内します。そこで詳しいお話をしましょう」
リベルタが先導し、俺たちは城へと向かった。
城の謁見の間に通されると、リベルタは玉座に腰を下ろした。
「さて、クヤ様。私の領土にきてくれたということは何か頼みがあるのでしょう?」
リベルタが問いかけた。
「ああ。実は俺たちは、他の神々と戦うことになるかもしれない。その時、お前の力を借りたいんだ」
クヤが率直に言った。
「戦争ですか。面倒ですね」
リベルタは興味なさげに答えた。
「でも、放っておけば、お前の領地も危険にさらされるかもしれない」
「それは困りますね。でも、私は戦うのは好きではありません」
「戦わなくてもいい。ただ、俺たちに協力してほしいんだ」
「協力……ですか」
リベルタは少し考え込んだ。
「わかりました。クヤ様のためなら、できる範囲で協力しましょう」
「助かる」
クヤが安堵した。
その時、俺は思い出した。
「そうだ、雅のことを忘れてた!」
俺が叫ぶと、全員が驚いた顔で俺を見た。
「雅? 誰だそれは」
リベルタが尋ねた。
「俺の幼馴染で、統治の器になってしまったんだ。美月たちの調査で、戦神の領地に囚われてるって」
俺が焦って説明した。
「統治の神の器がなぜ戦神の領地に」
リベは漠然とした不信感を覚えた。
「そうだった。雅ちゃん、助けに行かないと」
美月も思い出したように言った。
「戦神の領地……それは厄介ですね」
リベルタが眉をひそめた。
「でも、行かないと。雅を助けたいんだ」
俺は決意を込めて言った。
「よし、じゃあ早速行こう」
大樹が立ち上がった。
「待て。戦神の領地は厳重に守られている。準備なしで行くのは自殺行為だ」
クヤが制止した。
「じゃあ、どうすればいいんだ」
俺が焦りながら尋ねた。
「まずは情報を集めることだ。リベルタ、戦神の領地について何か知ってるか?」
「ええ、多少は。あそこは戦いを司る神、カドラの領地です。常に戦闘訓練が行われていて、眷属たちも好戦的です」
リベルタが説明した。
「そうか……厄介だな」
クヤが唸った。
「でも、行かないわけにはいかない。雅を放っておけない」
俺は譲らなかった。
「わかってる。だから、ちゃんと準備をしてから行くんだ」
クヤが言った。
「リベルタ、お前の《無制限転移》で、戦神の領地まで行けるか?」
「可能ですが、戦神の領地には結界が張られています。直接内部には転移できません」
「じゃあ、領地の外まで送ってくれ。そこから潜入する」
「わかりました」
リベルタが頷いた。
「よし、じゃあ早速行こう」
俺が立ち上がると、美月が俺の腕を掴んだ。
「連、無茶はしないでね」
「わかってる。でも、雅を助けるためなら何だってする」
俺は決意を新たにした。
「では、参りましょう。準備はいいですか?」
リベルタが問いかけた。
「ああ、頼む」
俺が答えると、リベルタは再び《無制限転移》を発動させた。
光に包まれる中、俺は雅の顔を思い浮かべた。
待ってろ、雅。必ず助けに行くからな――。




