虚無の拠点2
6
大樹の家を出た後。
蓮は大樹に言った。
「お母さんも、神に狙われてる」
「…マジか」
大樹の顔が曇った。
「緑の靄が見えた。癒しの神派だ」
「母さんも…」
大樹は拳を握った。
「助けられるのか?」
「ああ。でも、今日はもう限界だ」
蓮は正直に答えた。
「明日、また来る」
「…頼む」
大樹は真剣な目で蓮を見た。
「母さんを、助けてくれ」
「約束する」
三人は、次に美月の家へ向かった。
美月の家は、マンションの三階。
蓮はインターホンを押した。
しばらくして、美月の声が聞こえた。
「はい」
「美月、俺だ。蓮」
「蓮くん?こんな時間に…」
「話がある。出てこれる?」
「…ちょっと待って」
数分後、美月が玄関から出てきた。
その背後の緑の靄は、まだ半分残っている。
「どうしたの?」
「これから、大事な話をする」
蓮は周囲を見回した。
「ここじゃまずい。ついてきてくれ」
「どこへ?」
「安全な場所」
美月は少し不安そうだったが、頷いた。
「分かった」
四人は、人気のない公園へ向かった。
7
夜の公園。
誰もいない。
街灯だけが、四人を照らしている。
「美月、お前にも説明する」
蓮は、美月に神々のこと、戦争のこと、自分の力のことを話した。
美月は黙って聞いていた。
「…信じられない」
美月は小さく呟いた。
「でも、信じないわけにはいかない」
美月は自分の胸に手を当てた。
「確かに、私の中に誰かがいる」
「その声は、日に日に大きくなってる」
「蓮くんが、一度助けてくれたよね」
「ああ」
「あの時、楽になった。でも、まだ完全じゃない」
美月は蓮を見た。
「もう一度、お願い」
「分かった」
蓮は美月に近づいた。
しかし、その瞬間──
蓮の体がよろめいた。
「蓮!」
大樹と柚木が支えた。
「大丈夫か?」
「ああ…ちょっと、使いすぎた」
蓮の顔は青白い。
今日だけで、父親、母親、葵、大樹。
四人から神を剥がした。
体が限界だった。
「蓮、無理するな」
クヤの声が警告した。
「これ以上やったら、本当に死ぬ」
「でも…」
「明日にしろ。美月は、まだ持ちこたえられる」
蓮は悔しそうに唇を噛んだ。
「美月、ごめん。今日はもう無理だ」
「大丈夫」
美月は優しく微笑んだ。
「蓮くん、無理しないで」
「明日、必ず」
「うん、待ってる」
蓮は大樹と美月を見た。
「二人に、見せたい場所がある」
「場所?」
「ああ。俺たちの拠点だ」
蓮は力を振り絞った。
「クヤ、転移できるか?」
「…ギリギリだ。四人は重いぞ」
「頼む」
蓮は三人に手を繋ぐよう指示した。
「離すなよ」
「おう」
蓮は力を解放した。
黒い光が、四人を包む。
空間が歪む。
視界が暗くなる。
そして──
8
虚無ノ境。
四人は、灰色の大地に立っていた。
「ここ…どこ?」
美月が驚いた声を上げた。
「虚無ノ境。俺たちの拠点だ」
蓮は三つの建物を指差した。
「あそこが、居住区と訓練場と倉庫」
「すげえ…」
大樹が呆然としている。
「これ、全部お前が作ったのか?」
「ああ」
「マジかよ…」
大樹は建物に近づいた。
「本当に、建物がある」
「触っても大丈夫だぞ」
大樹は壁に手を触れた。
「固い…本物だ」
美月も建物を見上げている。
「すごい…蓮くん、こんなことができるの?」
「クヤの力を使えば」
蓮は居住区を指差した。
「中を見てくれ」
四人は居住区に入った。
中には、簡素だがベッドと机と椅子がある。
「ここで、みんなで生活する」
「生活?」
「ああ。現実世界は、もう神々の戦場だ」
「安全に訓練できる場所が必要だ」
蓮は三人を見た。
「ここを拠点に、神々と戦う」
「お前たち二人にも、手伝ってほしい」
大樹と美月は顔を見合わせた。
「俺は、もう決めてる」
大樹が言った。
「蓮と一緒に戦う」
「私も」
美月も頷いた。
「蓮くんが助けてくれた。だから、私も力になりたい」
蓮は胸が熱くなった。
「ありがとう」
「で、これからどうするんだ?」
大樹が聞いた。
「まず、雅先輩を仲間にする」
「生徒会長の?」
「ああ。先輩も、神に苦しめられてた」
「俺が半分、神を剥がした。だから、仲間になってくれるはずだ」
「なるほど」
「そして、もっと仲間を集める」
蓮は拳を握った。
「神に操られていない人間、あるいは、俺が神を剥がした人間」
「その人たちで、【蓮派】を作る」
「蓮派?」
「ああ。七つの勢力に対抗する、第八の勢力だ」
柚木が笑った。
「いい名前だ」
「じゃあ、訓練しようぜ」
大樹が言った。
「俺、何もできないから」
「ああ、訓練場を使おう」
四人は訓練場へ向かった。
9
訓練場。
広い空間に、四人が立っている。
「まず、大樹と美月」
蓮は二人を見た。
「お前たちは、神を剥がされた。だから、神の力は使えない」
「だよな」
「でも、戦える」
「どうやって?」
「神の力を剥がされた人間は、神の力に対する抵抗力を持つ」
蓮は説明した。
「神の攻撃を、少しだけ無効化できる」
「マジで?」
「ああ。試してみよう」
蓮は黒い人影を二体作った。
「こいつらを相手に、戦ってみろ」
「おう」
大樹は構えた。
黒い人影が、大樹に襲い掛かった。
大樹は拳で迎え撃った。
「おりゃあ!」
拳が、黒い人影に当たった。
黒い人影がよろめいた。
「おお、効いてる」
「いいぞ」
蓮が励ました。
美月も、もう一体の黒い人影と戦っている。
美月は避けることに専念していた。
素早く、軽やかに。
「美月、いい動きだ」
「ありがとう」
美月は黒い人影の攻撃を避け続けた。
そして、隙を見て、黒い人影の足を払った。
黒い人影が倒れた。
「やった!」
「すごいな、美月」
大樹が驚いた。
「運動神経、良かったっけ?」
「そんなに…でも、体が軽く感じる」
美月は自分の手を見た。
「神を剥がされたから、かな」
「そうかもしれない」
蓮は頷いた。
「神の支配から解放されると、本来の力が戻る」
「なるほどな」
大樹は拳を握った。
「じゃあ、もっと鍛えれば、強くなれるってことか」
「ああ」
「よし、やる気出てきた」
大樹は黒い人影に再び向かっていった。
蓮は柚木を見た。
「柚木は、もう風の力を使いこなしてる」
「まあな」
「でも、もっとできるはずだ」
「例えば?」
「風を、武器にする」
蓮は説明した。
「風刃は使えるだろ?」
「ああ」
「それを、もっと大きく、鋭くする」
「どうやって?」
「集中だ。風を感じて、意志で形を変える」
柚木は目を閉じた。
そして、手を前に出した。
風が集まり始める。
そして──
巨大な風の刃が形成された。
「おお…」
柚木は驚いた。
「できた」
「振ってみろ」
柚木は風の刃を振るった。
訓練場の床に、深い切り傷がついた。
「すげえ…」
「それが、お前の力だ」
蓮は微笑んだ。
「みんな、それぞれの戦い方がある」
「俺たちは、神の力に頼らなくても戦える」
大樹、美月、柚木は頷いた。
「よし、じゃあ、もっと訓練するぞ」
「おう!」
四人は、訓練を続けた。
10
訓練を終えた後。
四人は居住区で休んでいた。
「疲れたけど、眠くならないな」
大樹が言った。
「この場所、時間がおかしいから」
蓮が説明した。
「でも、体は休まる」
「不思議な場所だな」
「ああ」
美月が窓の外を見ていた。
「ねえ、蓮くん」
「ん?」
「この先、どうなるの?」
美月の声は、不安そうだった。
「神々と戦って、勝てるの?」
蓮は少し考えてから、答えた。
「分からない」
「正直に言うと、俺にも分からない」
「でも、やるしかない」
蓮は窓の外の灰色の空を見た。
「神々は、人間を道具としか思ってない」
「俺たちを、自分たちの戦争に巻き込んで、平気で傷つける」
「それが許せない」
蓮は拳を握った。
「だから、戦う」
「勝てるかどうかじゃない。戦わなきゃいけないんだ」
大樹が立ち上がった。
「かっこいいこと言うじゃねーか」
「まあな」
蓮は照れくさそうに笑った。
「でも、一人じゃ無理だ」
「みんなの力が必要だ」
「任せろ」
大樹は拳を蓮に向けた。
「俺たち、幼馴染だろ」
「ああ」
蓮も拳を合わせた。
「美月も、一緒に頑張ろう」
「うん」
美月も笑顔を見せた。
「柚木も」
「おう」
柚木も拳を合わせた。
四人の拳が、ぶつかった。
「これから、蓮派の戦いが始まる」
「おー!」
四人は笑い合った。
しかし、その笑顔の奥に、それぞれの決意があった。
神々との戦い。
それは、想像を絶する困難が待っている。
しかし、彼らは恐れない。
仲間がいる。
希望がある。
だから、戦える。
「よし、明日から本格的に動くぞ」
蓮が言った。
「まず、雅先輩を仲間にする」
「そして、もっと仲間を集める」
「神々に、俺たちの力を見せてやる」
「おー!」
三人が応えた。
虚無ノ境に、四人の声が響いた。
灰色の空の下。
蓮派の、戦いが始まろうとしていた。




