俺という人間
柊蓮は、特別な人間ではない。
成績は中の中。運動も人並み。友達はそこそこいるが、モテるわけでもない。将来の夢を聞かれても「まだ決めてない」と答える、どこにでもいる高校二年生だった。
月曜日の朝、目覚ましが鳴る。
「れーん、起きなさーい!」
母親の声が階段下から響く。蓮はゆっくりと体を起こした。窓から差し込む朝日が眩しい。今日もいつもと同じ、普通の一日が始まる。
洗面所で顔を洗い、鏡を見る。寝癖がひどい。適当に水で撫でつけて、制服に着替える。
「おはよう」
階段を降りると、食卓には既に朝食が並んでいた。父親は新聞を読み、中学生の妹・葵がスマホを弄りながらトーストを齧っている。
「スマホ見ながら食べない」
母親が注意するが、葵は「はいはい」と適当に返事をする。いつもの光景。
蓮はご飯を食べながら、テレビのニュースをぼんやり眺めた。
『…最近、都内で原因不明の小競り合いが増加しており、警察は警戒を…』
「物騒ねぇ」と母親が呟く。
父親は新聞から顔を上げず「ストレス社会だからな」と言った。
蓮は特に何も考えず、味噌汁を啜った。
「行ってきます」
玄関を出ると、少し肌寒い風が吹いていた。十一月の終わり。もうすぐ冬だ。
2
通学路の途中、いつもの場所で親友の木下大樹が待っていた。
「おっす、蓮」
「おう」
大樹は蓮の幼馴染で、サッカー部のエース。明るくて誰とでも仲良くなれる、典型的な人気者タイプだ。
「昨日のJリーグ見た?」
「見た見た。あのシュート、やばかったな」
「だろ?俺もあれくらい打てるようになりてぇわ」
他愛もない会話をしながら、二人は学校へ向かう。
商店街を抜ける。八百屋のおじさんが店先で野菜を並べている。「おはよう」と声をかけると、おじさんは笑顔で手を振った。
「今日も平和だな」
大樹がそう言った瞬間、前方で怒鳴り声が聞こえた。
「てめぇ、ふざけんな!」
「は?お前が悪いんだろうが!」
コンビニの前で、二人のサラリーマンが掴み合いをしている。周囲の人々が止めに入り、すぐに収まったが、二人とも顔を真っ赤にして睨み合っていた。
「…なんだったんだ?」
「知らね。最近こういうの多いよな」
大樹は肩を竦めた。
蓮は何となく嫌な感じがしたが、すぐに忘れた。
学校に着くと、いつもの教室、いつもの席。窓際の後ろから二番目。主人公っぽい席だと、大樹にからかわれたことがある。
「おはよー」
クラスメイトの桜井美月が笑顔で声をかけてきた。美月は図書委員で、読書好きの大人しい女の子だ。蓮とは中学からの知り合いで、たまに本の話をする。
「おはよう」
「週末、例の小説読んだ?」
「ああ、読んだ。面白かったよ」
「でしょ?続き貸すね」
美月は嬉しそうに笑った。
ホームルームが始まる。担任の黒木先生が出席を取る。黒木先生は三十代半ばの冴えない男性教師で、いつもどこか疲れた顔をしている。
「えー、今日は特に連絡事項はないが…最近、校内でのトラブルが増えている。些細なことで喧嘩をしないように」
クラス中が「はーい」と適当に返事をした。
一時間目、数学。二時間目、英語。三時間目、現代文。
普通の授業が続く。蓮はノートを取りながら、時々窓の外を眺めた。
校庭では体育の授業でサッカーをしている生徒たちが見える。青い空、白い雲。平和な光景。
しかし、何となく体がだるい。
風邪の引き始めだろうか。蓮は首を回して、授業に集中しようとした




