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水の月  作者: ふじさき
9/9

後編 Ⅳ 《side:レイン》


12/30 辻褄が合わない箇所がありいろいろと訂正しております



 



 レインは窓辺から、玄関前で繰り広げられる騒動を冷めた目で見下ろしていた。

 双子の片割れであるピアニーが更生施設へ行くこととなったのだが、当のピアニーが往生際が悪く行き渋っているのだ。父親や兄が口を酸っぱく言っても「嫌だ」の一点張りで、現在はレインに見えているように「行け、嫌だ」と言い合い玄関先で停滞している。

 父親は手首を掴んでいるが、娘可愛さからか強引な行動が取れないようだ。ただ側に兄ヘイルが控えているのでそのうちサクッと対処してくれるだろう。

 母親の姿は無い。娘の処遇に自室で寝込んでいる。


(両親は昔からピアニーに甘かったから……王命であり貴族として相応しくない行動を取ったにしても施設へ行かせたくはなかっただろうな)


 無意識に漏れる溜息。

 レインは昨夜王宮から伯爵家に戻っていたが、ピアニーに気づかれ突撃を避けるためここしばらくは自室ではなく客室で過ごしている。

 そして朝から癇癪を起こした妹と接触しないよう、こうして部屋の中で待機していた。


(どうして妹はああ(・・)なったのかな……)


 そう思いながら昔の日々を回想する。

 アルミーナム伯爵家のただ一人の娘として生まれた妹のピアニーは、幼少期に家族から可愛がられていたからか無頓着にレインを見下す傾向にあった。

 しかし幼少期に両親より放っておかれたことで早くから達観していたレインは、自分に実害がなければ放っておくつもりだった……のだが、第二王子であるファインの婚約者候補となったときに付けられた侍従のクラウドに「それはいけません」と強めに窘められた。


「七歳でこう(・・)なら、放っておくと学園に入学する十五歳のときにはもっとつけ上がります。それはあなたが殿下と婚約するとなった際、あなた自身にも伯爵家としても宜しくないかと」


 そう言われてしまうと、妹と関わる必要が出てくる。

 礼儀作法の教育過程で丁寧な喋り口調を学んでいる最中だが、その口調に難癖をつけられても困るので家の中では今まで通り少し砕けた喋りでいくことにした。

 さて、レインを窘めたクラウドはファインの乳兄弟で伯爵令息である。どうも自分の信頼のおける者をとレインの側に付けてくれたようだ。

 そんなクラウドのところは四兄弟とのことで、一番上は後継ぎ、二番目は王の騎士となり、三番目がクラウド、四番目は商人(婿入り)とのことで、レインとしてはこのとき男兄弟なのになぜ妹の心理をよく理解しているのだろうと不思議に思ったものだ。

 女性の心理はファインの学生時代を上級生(二歳上)として見てきたので、とのちに教えてもらったが。


「おや、諦めの悪いご令嬢ですね」


 見下ろしているレインの背後から抑揚の少ない声がかけられ、そっと青年が立った。ファインが付けてくれてピアニーが金銭で懐柔しようとした侍従のクラウドだ。

「諦めの悪い」との言葉の中に滲む響きに、レインは窓から視線を逸らさず苦笑する。


「一緒に学んでいても貴族の慣例を覚えようとしなかった妹です……除籍され伯爵家から追い出されたくなかったなら、家庭教師から逃げ回らなければよかったのに」

「そうですね。お母上はともかく当主であるお父上は令嬢が学ぶ環境をきちんと整えたというのに」

「ええ。母はたった一人の娘ということで甘やかしてはいました」


 しかし母親もピアニーも貴族女性としてお茶会に呼ばれれば参加していたはずで、通常そういった場で慣例を習うこともある。

 それなのに身につかない? そんな疑問が顔に出ていたのか、クラウドは茶会の場での夫人の役割を改めて説明してくれる。ただそのあとに「ですが」と続いた。


「伯爵夫人に連れられて少なくない数のお茶会に参加したようですが、まぁご令嬢がああいう性格なので親を含めて誘いの数が年々減っていったようです」

「え? でも母は一応貴族間の上下はしっかりと教えていたかと……」


 そう言いかけたレインはクラウドが首を横に振ったことで愕然とする。


「教えていたのでしょうが、そもそも夫人宛に侯爵家より上からのお茶会の話は多くありませんでした」

「そうなの?」


 レインが聞き返したのは、ファインはこの婚約のため主だった貴族家へ根回ししたと言っていたから。

 そこで例え箝口令が敷かれていたとしても、候補者がどういった家で育ちどういった家族関係なのかと探りを入れるため、女性陣が一度は呼ばれていると思っていた。


「ええ、一度は呼ばれましたよ。でもそれだけでお(しま)いとなったようです」

「ふうん……それじゃもしかして、爵位が上の方からの誘いはここ数年曽祖母様のところからしか届いていないとか?」

「はい」

「……理由はやっぱりピアニー?」

「今後の付き合いを避けたくなるほど目に余る振る舞いだったようですよ、あのご令嬢」


 レインは青年との会話でどんなやらかしをしたのかと不安に思いつつ、内心苦笑する。

 貴族の妻は茶会の席で社交をして情報を得るのだが、クラウドの話だと母親は多くの情報が飛び交う上位貴族が集まる場に呼ばれず、友人だった(?)子爵家夫人との月一のお茶会と爵位が伯爵以下のご夫人たちとの付き合い(やす)い茶会ばかりだったということだ。

 そして年一か二回かで、曽祖母の実家の侯爵家主催のお茶会に呼ばれていたと。……たぶんレインの母親だからという義理で、なのだろうが。

 幼いときは兄も自分もこのお茶会へ共について行っていたが、兄弟は十歳以降お茶会に参加していない。

 ただし新年の挨拶や時々の訪問は続けていた。


「そういう訳で、ご令嬢も伯爵より下の爵位の方々としか交流をしないのでまぁ普通に図に乗りますね」

「ピアニーは僕やデ……いやジンク子爵令嬢を(あなど)って、まではいないけど、そんな感じでいたなぁ」

「あの令嬢とジンク子爵令嬢は幼馴染みの括りにありますが、選民意識を持ち子爵令嬢を無意識に見下していた。だからあのような愚策を平然と依頼したんです」


 レインも報告を聞いて呆れてしまった。


「あー……僕の予想通りの展開になろうとしていて虚しさより笑ってしまったんですけど」


 決して笑い話で済ませられないのだが、レインは「ピアニーらしい」と思ってしまった。

 そんなレインにクラウドは軽く首を横に振り。


「相手が子爵令嬢でも後継者ですから、本当は丁寧に接するべきなのですよ。自分が子爵家や男爵家に嫁ぐ可能性を考えれば」


 普通の令嬢なら相手が下位であっても家のためであれば当然の婚約及び婚姻だが、レインにはピアニーが文句を言って相手ごと話自体を拒絶する姿しか思い浮かべられない。


「ふふっ。でもピアニーはクラウドのいう愚策で僕を押し退けて、ファイン殿下の婚約者になれると信じていたんですよね?」

「王家の影が報告によれば、そのようですね」


 ピアニーは目に余る行動が多くなっていたことで、ファイン殿下からの圧力もあり、父親は伯爵家当主としてピアニー()の除籍を決めざるを得なかった。

 そのための決定的な証拠を掴む必要があり、だからこそ及第点でしかない礼儀作法であってもピアニーとジンク子爵家のデイジーのお茶会が許されたのだ。

 そのお茶会でわざと失言の誘発を仕向けた形だ。


(……この件に関して罰を受けるのはピアニーだけではない)


 そう。きっとアルミーナム伯爵の当主交代は早いだろう。ーーー娘一人の教育を怠り、与えた猶予も活かせなかったという理由で。

 同時に母親も伯爵夫人という立場を失う。母親はピアニーの除籍について、まだ実行に至っていないと当たり前のように反対したらしい。

 しかし実行していたら(・・・・・・・)ピアニーの命は無かったかもしれない。国として重要な人物と認められている貴族(レイン)を自分勝手な理由で貶めようとしたのだ。


「お前は勘違いしている。レインは我が息子だが、王家との婚約が調った以上準王族の立場となったんだ。伯爵令嬢が準王族へしようとしていたことの処罰として貴族籍から抜くのはあり得ることではないか」


 今まで子供だからと目を瞑ってもらっていただけで、今回の一件で見限られたのだ。父親の言葉に母親は顔を青ざめたそうだが、なぜ母親もピアニーも王家を見くびっていたのだろう……というか、見くびり過ぎである。


「なっ、離しなさいっ……離してっ」


 悲鳴のように響き渡る声にハッとなったレインが視線を向ければ、眼下ではとうとう兄が力に訴えた行動に出ていた。

 ヘイルの指示で体の大きな従僕二人がピアニーの身柄を押さえ馬車へ無理矢理に押し込んでいる。力づくで運ばれるピアニーの顔は涙と鼻水で凄いことになっていて、けれど誰にも助けられないまま馬車へと押し込まれた。最後に扉の外からしっかり鍵をかけられてしまい、もう自力の脱出は不可能である。

 しかしレインはそれを可哀想とは思わなかった。


「……更生できるかな?」

「入所した者が出所するときには百八十度性格が変わっていると聞きます」


 その説明にレインは優しくなったピアニーを想像……しようとして、無理だと首を横に振った。


「ぜんぜん想像つかない」

「私もそうです。ですが最長でも三年、それで矯正できなければ終生を修道院で過ごすこととなります」


 クラウドの言う通りだ。女性としての幸せを求めるピアニーに残された道は自分を変えるしかない。

 ふと、レインは先程思った疑問をクラウドに尋ねた。


「……ずっと疑問だったんだけど、ピアニーはなんであんな風になったんだろう?」

「私には分かりかねます」


 クラウドは簡潔に述べた。レインもそうだったが他人でも同じらしい。

 クラウドは「ただ」と続ける。


「レイン様が異性で良かったですよ。これが同じ性別の双子で生まれていれば当たりはもっと苛烈だったでしょうから」


 至極真面目に言う侍従にレインは今より苛烈ってと(おのの)きつつ、門から出ていく走り出した馬車をじっと見送った。







ここまで読んでいただきありがとうございました。

完結としましたが、その後の話としてレインとファイン殿下の話(BL)を書く予定です。




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