察することなど到底、できそうもない
「お前を愛することなどない」
私の前で宣言しているのは、私の義弟。彼は一人娘の私が結婚して家を出た後、後継となるべく幼い頃に我が家に引き取られたのだが、そんな彼が私と二人だけで話がしたいと言うので、さすがに拒否したらこれだ。
「だから二人きりだからなんだというのだ、なんの問題もないだろう」
義弟の言葉に驚いて目を瞬かせた。
「……あなたが私に愛がなくても、私にとってあなたは、大切なちっちゃな弟です。あなたが十五歳になった今でも」
私が義弟を真っ直ぐに見つめて言うと、義弟は真っ赤になって怒鳴りだした。
「ふ、ふたつしか違わないのに、子供扱いするな!」
「そんな風に大声で喚くところなど、どう見ても子供ではないですか。私は、かの有名な令息から婚約破棄されたばかりの身。好奇の視線が集まっているのです。そんな中では世間が悪意を持って噂するかもしれないから、そういった輩のつけいる隙を見せない方が良いと申しているのです」
そう諭してもまだ口を尖らせたままの義弟にため息が出る。
「侍女たちに聞かれて困るような話なら聞きたくありません。我儘言わずにご退室願います」
私は扉を指差した。義弟は奥歯を噛むと、私を充血した目で睨み、ドカドカと出て行った。
「一体、なんなのかしら」
私が侍女らを振り返ると、皆、頭を抱えていた。
え?どうしたの?
すると一人が進み出て言った。
「坊っちゃまは、お嬢様の将来が心配なのですよ」
「私の?なぜ?」
彼女は咳払いした。
「お嬢様は婚約破棄をされておしまいになって、今は婚約者がご不在。ご家族も、心を痛めておいでなのです」
私は首を傾げた。
「私は、浮気性のあの方と政略結婚をしなくて良くなってほっとしている部分もあるし、お父様が次は良い縁を結んでくださるはずだし、あの子が心配することじゃないわ」
「……坊っちゃまは、その、言葉選びが未熟で意地っ張りで照れ屋でいらっしゃって、自分のお気持ちにも素直になれないのです」
「ただ心配してるって言うだけなのに?」
「つまりその、それだけではないことをお伝えしたいのですよ」
「え?一体なにを?」
侍女が困って口ごもっている。私も訳が分からず、視線を落とした。するとふと、床に花弁が落ちているのに気付いた。
「あら、こんなところに花びらが」
「……坊っちゃまですよ」
「そういえばあの子、花束を持っていたわね。私にだったのかしら。いくらあの子が家族愛がないといっても、苦境の義姉へのいたわりの心は持っているのね」
「そうではなくてですね……」
侍女が再び口ごもった。彼女の目が、「頼むから察してくれ」と訴えている。しかし、どれだけ考えても義弟の行動の説明はつかなかった。
「察しが悪いのかもしれないけど、私にはあの子がさっぱり理解できないわ。でも、考えてもわからないなら、もう忘れてお茶にしましょう」
私は困惑を抑えてあえて明るい声を出した。すると侍女たちはお茶の準備をしながらも、絶望の表情で顔を見合わせたりため息をついたりしている。
謎だ。
頑張れ義弟くん!素直にならなきゃ永遠に逃しちゃうぞ!
お読みいただき、ありがとうございました。




