4話
カリンとセイが板付け
明転
セイ 「いやあ、まさか。カリンが私たちの部署に来てくれるなんて嬉しいね」
カリン 「私も皆さんと同じ部署に成れて嬉しいですわ」
セイ 「ファジー君に推薦してもらったと聞いたが、どうしてわざわざ、危ないこの部署に?」
カリン 「それはもちろん、あの牢獄から救い出してくれた皆様に憧れているから。ツキ様の下で働きたい」
セイ 言おうか迷う。
セイ 「ねえ、カリン。ツキの事なんだけどさ。ウチね、彼にこの世界から、足を洗えってほしいんだ。ウチにはその地位も人脈もない。だけど、財閥のお嬢様なら、なんとかしてやれるんじゃない?」
カリン 「できます。でも、どうして?」
セイ 「ツキは優しいんだ。こんな組織にいるべき人間じゃない」
カリン 「じゃあ、代わりと言っちゃなんですが、セイとツキの事をもっと教えてくださいな」
セイ 「なぜ話す必要があるんだ?」
カリン 「だって、そういう背景知った方がやる気が出るじゃないですか。別に嫌なら離さなくてもいいですよ。その時は私のやる気が出ないだけなので。そうだ、この組織に入ったきっかけとか教えてくださいよ」
セイ 「嫌なわけじゃないさ。ただ、あまり過去については詮索しないのが、此処の基本だから。人に話すのなんて、初めてだよ。そうだな。ツキと会ったのは随分とパトカーがうるさい夜だった。」
SE パトカー
照明変化
カリンは舞台端へ、セイは舞台中央へ
ツキIN
セイ 「見ない顔だね。ここら辺は初めて?」
ツキ 「うん」
セイ 「どうしてここに?迷子?」
ツキは首を横に振る。
ツキ 「お父さんが……おかしくなっちゃった。それで、お母さんが首をしめられて……次は僕の……」
セイ 「ここら辺は治安が悪い。どこかで保護してもらうと良い」
ツキ 「君は?」
セイ 「ウチ?……ウチはここでずっと暮らしてきたから」
ツキ 「親は?」
セイ 「物心ついたときにはいなかった」
ツキ 「じゃあどうやって……」
セイ 「君は知らなくていい」
ツキ 「俺さ、自分の力で生きたいんだ、大人に頼らず。ここでの生き方を教えて欲しい」
セイ 「……はあ。碌なもんじゃないぞ。それでいいのか?」
ツキ 「いい」
セイ 「しょうがない。分かったよ」
照明変化
セイ 「いやー、こないだは大量だったね」
ツキ 「ああ、カネに食いもん。おまけにこんなものまで」 ツキは戦利品の銃を空に照らして、ほれぼれとした目で見る。
セイ 「怪我しないでよ」
ツキ 「大丈夫だよ」
セイ 「そうやって調子に乗ってると……っし。静かに」
マスター IN
セイ 「隠れて」
二人、物陰に隠れる
マスター 「ここらへんか。組織の奴らが若い輩にボコされたってのは。全く何やってんだか」
セイ 「アイツ、こないだの奴らの仲間か。報復に来たってわけだ」
ツキはガタガタと震える。
ツキ 「どうするの」
セイ 「ここに隠れていたら大丈夫なはず」
ツキの息切れが荒くなっていく、身体がふらつき音を立ててしまう。
マスター 「誰だ」
マスターが音のする方へ銃を向ける。
ツキ 「ごめ」
セイ 「逃げて」
セイは武器を構え、マスターに向かって突進する。
ツキが一突きするが、避けられて銃を突きつけられる。
マスター 「いい動きだ。俺の部下よりよっぽど動ける」
セイが睨みつける。
セイ 「は、あんなのが部下とか、苦労するね」
マスター 銃を握りなおす
ツキ 「セイを離せ!」
ツキは銃を向ける。手はガタガタと震えている。
セイ 「ツキ、なんで逃げなかった」
セイ 「セイを置いて逃げれるかよ」
マスター 「いい啖呵だ。だが、君は撃てない」
ツキ 「そんなことは無い」
マスター 「あるさ。狙いが定まっていない、持ち方も構え方も素人だ。そのままじゃ、仲間を撃ってしまうぞ」
ツキ 「ああ、だけど気を引くことは出来ただろ」
ツキは頭突きを食らわせ、武器を突きつける。
マスター 「降参だ。ところで、二人とも俺たちの仲間にならないか」
ツキ、マスターOUT
セイ、カリンは舞台中央へ
照明変化
セイ 「これが、私たちがこの組織に入った理由」
カリン 「ツキが親に殺されそうに?」
セイ 「そう。それもあって、カリンの事を殺せなかった。当時の自分と重ねちゃってね。いつもは冷徹なフリしてるけどさ。ホントのツキは暗殺家らしくないんだ」
イヨ 「おい、お前ら次の任務に行く準備は出来ているのか」
セイ 「今からする」
セイ OUT
カリン 「私はお父様を社長の座から引きずり下ろす。地位も名誉も財産も全て奪ってやる。ツキの為、だけじゃない。セイも一緒に救い出してあげるんだから」
カリン OUT
照明暗転