3話
明転(路地)
カリン、モップを持って登場
カリン 「ファジー先輩、現場の片づけ終わったよ」
ファジー 「丁度、こっちも終わったところだ……それにしても、カリン、お前は要領がいいな。数回の任務でここまで出来るとは思っていなかった」
カリン 「せっかく助けてもらった命ですもの。貢献しないと勿体ないですわ」
ファジー 「律儀なものだな」
カリン 「でしょ」
カリンは自信たっぷりの企みがありそうな笑顔。
ファジー 「終わったら、夜風にでも当たりに行かないか?」
カリン 「え!」
ファジー 「どうした?」
カリン 「だって、ファジー先輩が誘ってくれるなんて。いつも終わったら、一人でどっか行ってしまうじゃないですか。これは、私も随分信頼されてきましたねえ」
ファジー 「信頼しているよ」
カリンが驚いている間に、ファジーステージ上、カリンも後を追いかける
BGS 強い風の音
照明変化 足元から街の光が来ている
ファジー 紙をポケットから取り出して眺める。カリン、懐中時計にうっとり
ファジー 「盗んできたのか」
カリン 「いい懐中時計ね。一体どれだけの搾取の上にできたのかしら」
ファジー 「感心しないな」
カリン 「別にいいじゃない。持ち主は無くなっているし、おいておいても死体とともに溶かすだけだもの」
ファジー 「警察に見つかったら、どうするつもりだ」
カリン 「それくらい上手くやるわよ。ところで先輩は何読んでるの?」
ファジー 「今日、死んだ奴の名簿」
カリン 「ちょっと、失敬。なになに?酒癖が悪く、家族に暴力を振るい、妻を殺している。子供は家出をしていて行方不明。会社でも素行の悪さは変わらず……とんでもないクズですわね」
カリンは紙をファジーに返す。
カリン 「あー、いいことした後の夜風気持ちいい!」
ファジー 「全くだ」
カリン 「そうだ、先輩ってどうしてこの組織にいるのかしら?」
ファジー 「僕は幼い頃から、この組織にいるからなあ」
カリン 「そんなに?」
ファジー 「初めは乞食をさせられて、得たカネとパンと交換してもらい、食い繋いでいた。でも十歳ぐらいになると、それだけでは足りなくて、この仕事に紹介してもらった」
カリン 「他の部署とか、考えなかったのですか?」
ファジー 「僕は丁寧さなら誰にも負けることは無いという自負があるからね。この仕事以上に、丁寧さが要求される仕事は、この世界じゃそうそうないよ。なにより、悪人がドロドロ溶けていく様子を見るのは気持ちいい」
カリン 「だから、夜風にあたって名簿を見ていたのね。社会のゴミが処理される様子を嚙み締めていたわけだ。猟奇的ですね」
ファジー 「どうとでも言え」
アサ IN
アサ 「依頼人が殺されてしまった…これからどうしよう。手ぶらで帰る?いやいや、それこそ何をされるか。ならいっそ」
アサが二人を見つける
アサ 「その懐中時計は依頼人が持っていたもの!何故それを持っている」
カリンは見つかった瞬間、アサに近づき銃を奪って組み伏せる。言葉を途中で、遮るぐらいの勢いで。
カリン 「やっぱり、先輩の話には従っとくべきですね」
アサ 「やめろ。離せ」
カリン 「うるせえ。撃たれてえのか。で、どうします?コイツ。先輩の前で、ぶっ殺しましょうか」
ファジー 「あいにくだが、スプラッタ趣味は無いんだ。生きたまま溶解液に付けてみたらどうだ」
カリン 「もう、先輩ってば怖い。……ごめんね、怖がらせちゃった?冗談だよ、私たちは治安自治組織。むやみな殺傷はしないの。だから、お前、私の下に就け」
アサ 「誰がそんな裏切り行為をするか」
カリン 「おっと、これは提案じゃない。お前の生殺与奪の権利は誰が握っているかくらいは考えたらどうだ」
ファジー 「どういうつもりだ。カリン」
カリン 「そういえば、まだ言ってませんか。私にはどうしても殺さなければならない相手がいるのです。そのためには、人が要る。ファジー先輩も手伝ってくれますよね」
ファジー 「やっぱり、カリンに清掃は向いていない」
カリン全力笑顔
暗転