10話
照明変化
ファジー 「見ろよ。この雑誌。大洋TVの社長が娘に虐待。家出した娘本人に話を聞くことが出来たって」
セイ 「うわー。なんてひどい。あれ、8月31日、街の中央公園に集合…ナニコレ」
マスター 「ちょっと待って、街の広告が…」
カリン 「私は父から暴力に監禁、数々の虐待を受けてきた。権力、カネに物を言わせた恐怖の圧政に不満を持っていた者どもよ。今こそ立ち上がり、未だ甘い汁をすする旧体制派を打ち倒そうではないか」
カリン・ユキ・イヨ IN
セイ 「中央公園のステージに居るのその娘さんじゃない?」
ファジー 「デモ行進らしい、皆で参加するぞ」
タイヨウ以外全員 「辞めろ。辞めろ」
カリンが合図を送り、静かになる。
カリン 「皆様、ありがとうございます。お陰でどれだけの人間が父のやり方に不満を持っているか。知らしめることが出来たでしょう。私はこれから父と直談判しに行きます。皆様もこの調子でお願いします」
照明変化
カリン 「イヨ、街の広告をジャックして、デモ行進の事を流してくれたの、ありがとうね。」
イヨ 「一瞬しか無理だがな」
カリン 「それでも、充分に圧力を掛けられるだけの人数が集まった。新聞社を止めてから技術を身に着けたの?」
ユキ 「でも、想定よりずっと少ないわ。前日に、タイヨウから妻の事についての告白があって、怒りの矛先が別の人に向いてしまった」
カリン 「二人のお陰で、何とかなったよ」
ユキ 「ねえ、カリン。大丈夫なの?」
カリン 「いまさら引き返せない」
ユキ 「でも、あなたの母さんの事」
カリン 「大丈夫よ。知ってたもの」
ユキ 「そう」
カリン 「むしろ、母の死についての告白があったお陰で最後の覚悟が決まったわ」
ユキ 「え?」
カリン 「どうして、わざわざあの形をとったと思う?」
ユキ 「正しいことを世間に伝えるために」
カリン 「違うわね。父は母の死すらも、エンタメとして消化してしまった」
ユキ 「そんなことは!」
カリン 「ある。復讐するためなら、もっとやりようがあったはずよ。凄腕の殺し屋とやらがいるならなおさら」
ユキは何も言い返せず黙る。
カリン 「情報発信者として、同情しているならやめなさい」
ユキ 「別に同情しているわけじゃない」
カリン 「ならよかったわ」
イヨ 「ヒガサ。そういえば、これだけ動いたのに現れなかったな。デマだったのか」
カリン 「いないに越したことはないわ」
イトカワIN
カリン 「あれは」
イトカワ 「ようこそ」
イヨ 「社長!こんなところで何を?」
イトカワ 「よせ、もう社長じゃないんだ」
ユキ 「大洋社の副社長さんがデモ隊に何のようで」
イトカワ 「そんなに警戒しないでくれ。僕は君たちの仲間だよ。僕も社長に恨みがある。ただ、監視のために家族を人質に取られ、傍で働かされていたんだ」
イヨ 「社長がそんな目にあっていたなんて。助けられず、申し訳ない」
イトカワ 「何を言っているんだ。今から助けてくれるんだろ」
イヨ 「ええ」
イトカワ 「それでは、私はデモ隊の処に行ってくるよ」
カリン 「そんなところに出て行って、副社長が出て行って大丈夫か」
イトカワ 「もっと盛り上げてやるだけさ」
イヨ 「どうか、お気をつけて」
イトカワOUT
カリン 「もうすぐ社長室ね」
イヨ 「やっとか、このビル、高すぎるだろ」
カリン 「25階建てで、途中で停止させられる可能性も考えて、エレベーターを使わずに来たのですから、仕方ないわ」
ユキ 「疲れたねえ。でも最終章はこれからよ」
カリン 「ユキ。違うわ。タイヨウを倒してから、私たちの物語が始まるのよ」
照明暗転