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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第94話 遂に解けるわだかまり


「えぇ⁉ 先輩に未練たらたらなんじゃないの⁉」


 波留が驚いたように声を上げる。

 

「いやいや、未練とか全然ねぇし……というか、なんで今までそう思ってたんだよ。そっちの方が驚きなんだけど」


「だ、だってアキくん、先輩にフラれてからずっと落ち込んでたし、あれ以降誰とも付き合おうとしてなかったし」


「そ、それは……先輩に申し訳ないことしたって思ってたし、フラれた理由とか諸々で悩んで、そんで……」


 首の後ろに手を回し、たどたどしく言う秋斗。


 やっぱり、俺の思った通りだった。


 波留の秋斗を見るとき、たまに出てくる物寂しいあの横顔。

 あれには秋斗が好きだけど、秋斗には他に想い人がいて。だから自分じゃダメなんだと、手に入らないものをそれでも欲しいと思ってしまう気持ちが現れていると思っていた。


 そして、それは正解だった。

 波留は秋斗が付き合っていた先輩を未だに好きなんだと思っていて、だから自分に振り向いてもらえないと思っていた。


 その勘違いに秋斗は気が付かず、さらに勘違いを重ねてこじらせていたのだ。


「そう、なんだ。……どんなことに悩んでたの?」


 波留が控えめに訊ねる。


「っ! そ、それは……色々だよ」


 斜め下へと視線ごと吐き捨てる。


「そんなことより、あのときの友達発言は違うって……ど、どういうことだよ」


 これがもう一つの勘違い。

 波留が中学時代、秋斗のことを友達に『ただの幼馴染で、家族みたいなもの』と言ったこと。


 この発言で、秋斗は波留に好意を示すことができなかった。

 ただ、ここまで来れば波留の発言の裏に隠された気持ちにも予想がつく。


「それは……だって、私がアキくんは幼馴染じゃなくて……なんて言ったら、周りに変に気遣わせちゃうと思ったし、それに……先輩に未練たらたらだと思ってたから」


 波留が右手で左腕を抱きしめる。




「でもほんとは……ただの幼馴染なんかじゃない、よ」




「っ!!!」


 数年越しに明かされた真実。

 それはほぼ、言い切ったに近かった。


 秋斗が珍しく顔を真っ赤にし、取り乱す。


「それよりアキくん、そんな前の言葉ずっと気にして……」


「し、仕方ないだろ。だって……ショックだったんだから」


「っ!!!」


 秋斗もまた、今まで自分のために、そして波留のために隠してきた本音に触れる。

 

「よしっ!」


「もう言ったようなものだね」


「まさかの展開だったけど、大成功だ」


 まだ物陰で二人のことを見ている赤羽さんたちがガッツポーズする。

 さらには俺に向かって賞賛のサムズアップも送ってくれて、俺も快く返した。


 さて、俺はそろそろこの二人にとって邪魔になるだろう。

 そう思っていたのだが、秋斗が目をうろうろさせた後、俺を見る。


「ま、まさか旭に気づかされるとはな。びっくりだよ」


「あ、旭くんって変なところで鋭いよね! ほんとに!」


「あははは……」


 変なところで鋭いという発言は、一旦忘れておこう。

 純粋に褒められている気がしないから。


 ……それはともかく、この二人。

 さっきから全然目を合わせようとしないな。


 察しのいい二人なら、ここまで言ってしまえばわかっているだろうに。 

 まさか……自分のことになると、とことんダメなタイプか?

 人にはあれだけ的確に言えるのに……いや、そんなはずはない。


 だって秋斗と波留だ。

 都会の有名人で、人気者だ。


 恋愛激戦区の都会で、高い恋愛偏差値を有している二人だ。

 きっと俺の杞憂に違いない。


「じゃあ、俺はこれで……」


「え? ど、どこ行くんだよ」


「どこ行くって、そりゃ……」


 ちらりと赤羽さんたちの方を見る。

 すると秋斗と波留もみんなの方を見て、完全に目が合ってしまった。


「っ! あ、アタシお手洗い行ってこようかな」


「わ、私も」


「さ、賛成」


「あははは……俺もちょっと行ってこようかな」


「お、俺も」


「さっきも行ってなかったか⁉」


「っていうかずっとそこいたよね⁉」


 何故かこの二人、二人きりになるのを嫌がっている気がする。

 誤解は解けたし、こじらせている原因もなくなった。


 だからあとはもう、思いを伝えるだけなのに。


「い、行こ!!!」


「そうだね」


「最後はやっぱり力技だね」


「ちょっ……!」


 赤羽さんたちと一斉に駆け出す。

 あとは二人きりになれば、自然にゴールするに違いない。


 そう思って走り出した俺たちは、砂浜に二人を残して……。



「おーい! 飲み物買ってきたぞ~!!!」



「「「「「…………あ」」」」」


 腕いっぱいに飲み物を抱えた上原が出現。


 秋斗と波留から逃げようと走り出した俺たちと、砂浜に残っている二人。

 上原は両陣営を交互に見て、首を傾げた。


「何してんの?」


「何してんのじゃないわっ!!!」


 赤羽さんからドロップキックを食らう上原。


「どぅわっ!!! 何すんだよ急に!」


「それはこっちのセリフだっつーの!!!」


「なんでそんな怒ってんの⁉」


 雰囲気がいつもの喧騒に満たされる。


「あははは……陽太、やっちゃったね」


「時限爆弾が爆発した気分」


「た、確かにな……」


 俺たちが蒔いた種だ。

 

 ……でも。

 上原、戻るタイミングはもう少し考えてくれ。



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