表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/95

第93話 夜に弾ける花火と思い


「うおっ! 勢いすっげぇな!!!」


「花火の音だなぁ」


「ちょっと上原! こっち向けないでよ!」


「え?」


「向けんなって言ってんでしょうが!!!」


「危ない! 危ないからこっち来るなー!!!」


 夜の砂浜で、花火をして騒ぐ。

 真っ黒の空や海に様々な色が弾けていて、傍から見るだけでも綺麗だった。


「やめろ! やめろってぇええええ!」


「おりゃああああああっ!」


 上原を追いかける赤羽さん。


「あははっ、相変わらずあの二人は仲いいね」


「喧嘩するほど仲がいいの体現者だな、あれは」


 山田と秋斗が遠目から二人を楽しそうに見ている。

 

「これが蛇玉……面白い」


「わかる。花火なのに地味でよくわからない動きをしてるのがまた……ふふっ」


「ふふふふっ……」


 砂浜の上でにょろにょろ動いている蛇玉を見て微笑んでいる猫谷さんと真田さん。

 どうやらいわゆる手持ち花火より、ニッチな蛇玉がお気に召したらしい。


 あの二人、ちょっと不思議なところがあるから共鳴しているのかもしれない。


「みんな、各々の楽しみ方してるね~」


「だな」


 波留と二人、みんなを見ながら手持ち花火を楽しむ。

 どちらかと言うと俺たちは、花火より花火を楽しむみんなを見ていた。


「でもなんか、青春って感じ」


 波留の言う通り、夜の海で花火をするというのは映画やドラマでよく見る青春のワンシーンみたいだ。

 だからこそ、こんなにも高揚している。


 思えば田舎にいたときは海が近くになかったから、花火をするなら基本川だった。

 それはそれで楽しかったが、フィクションに使われるのは海の方が多いように思う。


 俺の感覚だが、そっちの方が都会感があってカッコいい。 

 もちろん川も楽しいけど。


「ほんと、楽しいね」


 そう呟く波留の表情は、言葉以上にそれを物語っていて。

 横顔を見るたびに、どうしても胸の引っ掛かりに気が付いてしまう。


(波留は……)


 ほぼ確信に近いソレが、俺の中に確かにあった。










 その後、時間を忘れて楽しんでいたら花火の数も少なくなっていき。


「上原、人数分の飲み物買ってきて」


「え、俺一人で?」


「そ、一人で」


「いやいや、それはさすがに……」


「よろしく」


「さすが……」


「よろしく」


 赤羽さんの眼圧に負け、トボトボと歩いていく上原。

 それでもちゃんと買いに行くのが上原だ。

 ほんと、幸せになってほしい。


 赤波さんが、秋斗と波留に気づかれないように俺たちに目配せしてくる。

 その意味が何なのか、わからない俺たちじゃない。


「アタシお手洗い行ってくる」


「私も」


「わ、私も」


「じゃあ俺たちも行こうか、桐生」


「あ、あぁ」


 全員でさりげなくその場から立ち去る。

 しかも二人に「一緒に行く」と言う間を与えない速度で。


 一瞬にして全員が不自然に消え、砂浜で二人きりになる秋斗と波留。

 俺たちはというと、物陰からひっそりと二人のことを見ていた。

 ちなみに、上原は本当に飲み物を買いに行った。


「なんか、みんないなくなったな」


「あははは……そうだね」


 短く言葉を交わし、花火を続ける二人。

 みんながいなくなったことに特に言及しないあたり、きっと波留も察しがついているんだろう。


「あのさ、いいのか? たぶん二人にバレてると思うけど」


「むしろその方がいいんじゃない? あからさまの方が二人とも意識するでしょ」


「な、なるほど」


 確かに赤羽さんの言う通りだ。

 察しがいい秋斗と波留なら、あからさまの方がこちら側の意図としては合ってる。

 

 だから今日一日、大胆に二人きりにさせようとし続けていたのか。


 秋斗と波留が手に持つ花火が、夜空をぱちぱちと彩っている。


「今日のみんな、その……あれ、だよね」


「……あぁ、そうだな」


 短く、ぽつぽつと言葉を交わす二人。

 さっきの喧騒は海風に攫われ、落ち着いた雰囲気が波の音と共に流れている。


「私は全然嫌じゃないんだよ? ……ただ」


 波留の顔から笑顔が薄まる。



「そんなの、どうしようもないのにね」



 波留の発言に、秋斗が驚いたように目を見開く。

 言葉は何も発さなかった。ただただ、衝撃を受けたようだった。


 秋斗が顔を歪める。

 花火の勢いが弱まっていく。


「……どうしようもなくはねぇけど」


「え?」


 花火が急に消えてしまう。

 二人のモノが同時に。


「……それ、アキくんが言っちゃうんだ」


「……どういう意味だ?」


「…………ううん、別に」


 二人は新しく花火を取り出そうとせず、目も合わせず。

 ただ目の前に広がる真っ黒な海を眺めていた。


 いや、海なんて見ていないのかもしれない。

 そう思わせるほどに、空気は重くよどんでいた。


「な、なんかマズくない?」


「あんな二人、初めて見た」


 赤羽さんと山田が焦ったように二人を見つめる。

 秋斗と波留の間に会話はなく、こちら側の焦りがより募っていく。


「とりあえず、私たちが戻って……」


「待って」


 真田さんが赤羽さんを引き留める。


「今戻ったらあの二人、元に戻るタイミング失っちゃう」


「でも、アタシたちのせいであんなことに……」


 赤羽さんの言うことも、真田さんの言うこともわかる。


 本来だったら、俺たちから見ている二人だったらこんな空気にはならない。


 けど、俺は知っている。秋斗の本心を。

 波留の秋斗を見る物寂し気な表情を。

 

 あのとき、水場で秋斗に言おうとしたこと。

 波留と、花火を楽しむみんなを見ながら思ったこと。


「桐生くん?」


 猫谷さんが声をかけてくれる。

 

「ごめん、ちょっと行ってくる」


 そうとだけ言うと、立ち上がって物陰から出て行った。


「桐生⁉」


 驚く皆を背に、二人の下へ歩いていく。

 その歩みに迷いはなかった。


「旭?」


「あ、旭くん。みんなは……」


「――あのさ」


 俺の方に振り返る二人の前に立ち、一息つく。

 

 きっと秋斗と波留だけで解決するのは難しい。

 でも、第三者の俺なら……。




「やっぱり二人とも、勘違いしてないか?」





「「…………え?」」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ