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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第92話 やっぱり、好きだろ


 その後、ちょっとずつ秋斗と波留の会話も減っていき。


 気にしすぎかもしれないが、ギクシャクしているように感じた。

 しかし、傍から見ている分にはごく普通で。


「花火の数ってこれで足りるのか?」


「美琴ちゃんが家から持ってきたらしいよ」


「花火は任せて」


「あははは……花火は任せてってなんだよ」


 やっぱり、俺の気にしすぎな気もしてくる。

 

 ちなみに現在、バーベキューを腹いっぱいで終えた俺たちは締めの花火をしようと準備していた。

 

「打ち上げ花火って、ほんとに打ち上がるの?」


「打ち上がるぞ! どっかーんってな!!!」


「どっかーん……すごい」


「猫谷さん、陽太の表現は0か100しかないから信用しすぎない方がいいよ。AIと同じで疑いの目は忘れないで」


「上原リテラシー……わかった」


「おいッ!!! ……でもAIと同じなのはちょっと嬉しいかも。そんくらい頭いいってことだよな⁉」


「ね?」


「ふふっ」


「ねじゃないわ!!!」


 猫谷さんも楽しそうに会話に混じっている。

 最近はクラスメイトともよく話している猫谷さんだが、この八人でいるときも随分リラックスしているみたいだ。


(猫谷さんが成長してる……なんでだろう、俺まで嬉しい)


 猫谷さんに負けないように、俺も都会により一層慣れていかなければ。

 もしよく飲む場所を聞かれたら、新宿でも渋谷でもなく、三茶か中目黒って言おう。もしくはもっと踏み込んで学芸大前、祐天寺でもいい。(飲まない)


「じゃ、俺はバケツに水入れてくる」


「頼んだ~!」


 みんなが花火を持って砂浜に向かう中、俺は近くの水道に向かう。 

 さっきじゃんけんに負けて、バケツに水を汲む係に任命されてしまったのだ。


 水場に到着すると、蛇口をひねって水をためていく。

 

「罰ゲームお疲れい」


「うおっ」


 声をかけられ、慌てて振り返る。

 そこにはイタズラな笑みを浮かべている秋斗がいた。


「お、お疲れ。どうしたんだ?」


「手を洗いに来たんだよ」


 そう言って、秋斗も蛇口をひねる。

 

「なぁ、旭」


「?」



「お前ら、俺と波留のこと変にくっつけようとしてるだろ」



「……え?」


 一瞬思考が停止する。

 あまりにもさりげなく言われたものだから、何気ないことのように言葉を咀嚼しようとしていた。


 でも、天気の話みたいにさらっと消化できない。


「え⁉」


 思わず声が出てしまう。

 秋斗は相変わらず笑っていた。


「やっぱり、旭って意外にバレバレだよな。クールな雰囲気あんのに」


「えっと……」


 何か誤魔化しの言葉がないか、自分の辞書を探る。

 しかし、突然の対応力が著しく低い俺は、何か言うことでより墓穴を掘ると判断。

 

 つまり、観念した。


「……なんでわかったんだ?」


「違和感はファミレスのときから感じてたんだけど、この旅行中に異様に二人にさせようとしてくるし、バーベキューで恋愛の話振ってくるしでさすがにな」


「な、なるほど」


 忘れていた。

 秋斗は俺と違って鋭いということを。


「ったく、そういうの好きだよなー。どうせ、蘭子とか陽太が中心になってやってるんだろうけど」


「うぐっ」


 そこまでお見通しとは……敵わないな。


「ま、色んな意味で面白かったけど……いいよ。気遣わなくて。どうせ意味ねぇから」


「え?」


 秋斗が手を洗い終え、水を止める。

 

 トーンは変わらず明るくても、その横顔はどこか影が滲んでいて。

 さすがの秋斗でも、隠しきれていなかった。


「秋斗はさ、やっぱり……波留のこと、好きだろ」


「……え、えぇ⁉」


 驚き、目を見開く秋斗。

 俺から言われるのは予想外だったらしい。


「な、何言って……」


「すごく感覚的な話だけど、秋斗の波留に対する態度とか空気が他の人と違うって思ったんだ。それは二人が重ねてきた時間とか言葉もあるだろうけど……やっぱり、恋愛感情によるものだってなんか今日、確信した」


 俺の言葉に黙り込む秋斗。

 聞き返されれば何度でも説明し直す気でいた。


 しかし、秋斗が小さく笑みをこぼす。


「ほんと、旭って変なところで鋭いよな。普段は鈍感なのによ」


「え?」


「無自覚も入ってたか」


「?」


 鈍感で無自覚? なのに変に鋭い?

 それって矛盾してないか?


 頭が混乱していると、秋斗が深く息を吐く。

 もう隠そうとはしていなかった。


「……どうせ無理なんだよ。俺と波留は」


「秋斗……」


 秋斗が神妙な面持ちで続ける。


「波留とは中学の頃から今みたいに仲良くて、ずっと一緒にいたんだ。それこそ中学までは、お互いに幼馴染ってだけじゃないって思ってたんだけど……中二のときだっけな。波留が友達に俺との関係聞かれて……アイツ、『ただの幼馴染で、家族みたいなもの』って言ったんだよ」


 それはつまり、秋斗に対して恋愛感情を持っていないということ。

 思いが違っていたということ。


「自分だけなんだって思って、波留とこれからも幼馴染するために忘れようって思って。ほんと最低な話なんだけど、ちょうどその頃に告白してくれた先輩と付き合い始めたんだ」


「波留が言ってたマドンナの?」


「自分で言うのも恥ずかしいけどな。でも、先輩に波留のこと引きずってんのがバレて。というか、それまで自分も思ってなかったんだけど、先輩にはバレバレだったらしい。んで、フラれたんだ。ほんと、情けねぇ話だろ?」


 秋斗の話を全部聞くと、秋斗が自分のことを卑下する理由がよくわかる。


「……悪いけど、情けないな」


「はっきりだなー。でも、その通りだ」


 秋斗がため息をつく。

 もうその表情は、いつもの秋斗だった。


「だから、なんとかしようとしてくれんのはありがたいけど、大丈夫だから」


 でも、やっぱり引っ掛かる。

 秋斗の話を聞いても、秋斗と波留の間で決定的にすれ違っているところがある気がする。


 きっと秋斗は、波留は――


「あの……」



「おーい! 早く来いよー!!!」



 上原が遠くから叫ぶ。


「おー、今行くー」


 秋斗は応じると、「行くぞ」と俺に声をかけて歩いて行った。

 タイミングを失い、言葉が喉の奥へと戻っていく。


「いや、波留は……秋斗は……」



 

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