第89話 水着と書いて、夏と読む
「お待たせ~!」
砂浜を歩いてくる女子四人。
遠くからでもその四人が常人離れした容姿であることは、放たれているオーラからもよくわかって。
その輝きは、太陽の光を反射してキラキラと輝く海よりもはるかに眩しかった。
「めっちゃ海じゃん」
「それどういう感想?」
「風、気持ちいい」
「そうだね~!」
やってくる猫谷さんたち。
(これが都会の最高戦力……末恐ろしいな)
そう思わずにはいられない。
なぜなら――四人の水着姿が、あまりにも美しかったから。
「遅いぞ波留」
「ごめんね~。色々手こずっちゃって」
手を合わせて謝る波留。
波留は白のビキニの上に、同じ白のシースルートップスを着ており、露出は少ないがしっかりと透けているためそのスタイルの良さが露わになっていた。
なんとも波留らしい、爽やかな水着姿。
「久我、そこは全然待ってないでしょ?」
「そうだそうだー!」
「上原は同意すんな!」
「なんで⁉」
しっかりと上原を理不尽にしばくことを忘れない赤羽さん。
赤羽さんは赤色のワンショルダータイプの水着を着ていて、すらっとした生足が惜しげもなくさらされていた。
普段の制服姿からはあまり想像できない、セクシーな印象を受ける。
「暑いねぇ」
鞄を肩にかけ、サングラスをずらす真田さん。
シンプルに黒色のビキニを着ており、さすがバレー部の二年生エースと言ったところか。モデルのようなスタイルの良さで、存在感が凄まじい。
海外のセレブを思わせる、派手すぎないオーラを放っていた。
「えへへ、なんか照れるね」
「うちの学校、水泳の授業ないしな」
「俺はあってもいいと思うけどなー」
「女の子の水着見たいだけでしょ」
「そんなことねぇよ⁉」
ワイワイと盛り上がる一同。
猫谷さんが少し遅れてやってくる。
「お待たせ」
麦わら帽子を深くかぶる猫谷さん。
猫谷さんは水着の上からダボっとした上着を一枚羽織っていて、どんな水着を着ているかまではわからなかった。
「全然待ってないぞ」
「そ、そっか」
モジモジする猫谷さん。
何か言いたげな様子で、じっと言葉を待つ。
「その……私、肌弱いから」
「?」
急に何でそんなことを言ったのか、全くわからない。
でも、確かに猫谷さんは肌が弱そうだ。
真っ白だし、この季節になってからこまめに日焼け止めを塗っているし。
「なら、できる限り日陰にいるようにしないとな」
「……うん」
俯く猫谷さん。
様子が少し変なのが気になるが、これで全員揃った。
「えへへ、なんか照れるね」
「ま、そうだな」
「というかアキくん、また体ゴツくなった? 最近はバイトばっかりなのに」
「軽く走ったりはするからな」
「ふーん」
話している秋斗と波留をじっと見る他の六人。
きっと、全員が同じことを思ったと思う。
((((((これはチャンス……!!!!!!))))))
「ねぇ久我、ちゃんと褒めてあげないとダメじゃない?」
赤羽さんがニヤニヤしながら促す。
「はぁ? 何がだよ」
「あはははっ、秋斗はわかってて知らないふりをするのが上手だね」
「どうせわかってるくせに、ね?」
「そーだそーだ!」
山田たちにも言われ、さすがに立場が悪くなった様子の秋斗。
しかし、俺はその一歩手前でつまずいていた。
(褒めてあげるって、何をだ?)
みんな言わなくてもわかるみたいな感じだけど……わかってないの、俺だけ?
「ふふっ、褒めてみる?」
波留も乗り気で秋斗に訊ねる。
秋斗は照れくさそうに顔をそらし、頬をかいた。
「……ま、波留にしては頑張ったんじゃねぇの? 似合ってるよ」
「っ! そ、そっか。それは……よかった」
頬をほんのり赤く染めて、そっぽを向く波留。
なんとも甘酸っぱい雰囲気が流れている。
「でも露出が少ないけどな?」
「なっ! これでも頑張った方ですー!」
ぽかぽかと秋斗の肩を叩く波留。
とはいえ怒ってる感じではなく、二人笑い合って仲睦まじい様子だった。
((((作戦成功!!!!))))
こっそりサムズアップし合う赤羽さんたち。
俺もサムズアップしておいたが、何を褒めるのかがよくわからなくて、ずっと引っ掛かっていたのだった。
その後、俺たちはとにかく海で遊び倒した。
ビーチバレーをしたり、浮き輪で海に浮かんだり。
近くにある海の家で昼ご飯を食べたり、ビーチフラッグをして名勝負を繰り広げたり。
「ボール海に落としたヤツ負けなー!」
声を上げる上原。
「行くよー! それっ」
ボールを秋斗にトスする波留。
「おっしゃみんな! しっかり繋げて……」
秋斗はボールを遠慮なく上原へスパイク。
「ほいっ」
「ぶへぇっ!!!」
顔面にボールが当たり、上原ごと撃沈。
「はい、上原負けー」
「ひどすぎないかァ⁉⁉⁉」
ケラケラと笑うみんなをパラソルから眺める。
「楽しそうだな」
「うん、そうだね」
喉が渇いたので猫谷さんと水を飲みに来たのだが、こうしてみんなを傍から見るのも悪くない。
……というか。
(みんなのレベルが高すぎて、あの集団だけ異様に目立ってるな)
海にはほかにも観光客がいたのだが、ほぼ全員の視線が波留たちに集まっていた。
そりゃそうだ。
みんな都会の高校で、全生徒が知ってるくらいの有名人。
少し田舎に出てきてしまえば、その存在感は圧倒的だ。
「あの集団ヤバくね?」
「全員美男美女過ぎるだろ……」
「俺もあの中に混ざりたかった」
「理想の高校生活すぎんだろ……」
周りからもちらほら声が聞こえてくる。
全く、その通りだ。
俺があの中にいるなんて、本当に信じられない。
けど、それが今の当たり前の高校生活なのだ。
(なんか、楽しいな)
このタイミングで思うなんて、かなり変だけど。
さて。早く水を飲んで、みんなのところに……。
「き、桐生くんっ」
「え?」
猫谷さんに急に手を引かれ、人気のない方へと進んでいく。
「猫谷さん?」
「ちょっと来て」
言われるがままについて行き、やってきたのは人のいない岩場。
海水浴場の様子もここからは見えず、急に別の場所に来たんじゃないかと思うくらいひっそりとしている。
「どうしたんだ?」
とてもじゃないけど、楽しそうな場所ではない。
首を傾げていると、猫谷さんは唇をきゅっと閉じ、やがて「よしっ」と呟いた。
「……え?」
思わず声がこぼれてしまう。
だって……え?
意味が分からない。
猫谷さんがそうする意図がわからない。
――じーーーーーっ。
上着のジッパーをゆっくり下ろしていく猫谷さん。
真っ白な肌が、どんどん露わになって……。
(ど、どういう状況なんだ⁉)




