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第8話 山田くん、座布団一枚


「……え?」


 キャピキャピ一年女子四人を前に困惑する俺。


 俺じゃなくて、俺越しに後ろの人に話しかけてるんじゃないかと思って振り返るも、そこには誰もいなかった。


「えっと……俺?」


「そうです先輩です! というか、今ばっちり目合ってますよね?」


「これで先輩じゃなかった変ですよ~!」


「そう、だよな」


 この子たちの言う通りだ。

 しかし、全く持って意味が分からない。

 なんで俺がこの四人に話しかけられているんだろうか。


「先輩のお名前聞いてもいいですか?」


「桐生旭、だけど」


「「「「キャーーーーー!!!」」」」


「じゃあじゃあ、何クラなんですか?」


「A組、だけど」


「「「「キャーーーーーーー!!!!」」」」


「出身はどちらなんですか?」


「ここから新幹線で二、三時間行ったところにあるド田舎で……」


「「「「キャーーーーーーーー!!!!!」」」」


 なんだこれ。

 まるで相槌みたいに黄色い歓声が俺の発言の後に挟まれてるんだけど。


 ただ俺は自分の基本情報を言ってるだけで、何もカッコいいこともタメになるようなことも言ってないはずなんだけど。

 都会の感性がますますわからなくなってきた。


「先輩ってとっても面白い人ですね!」


 今の三往復でどこにユーモアを感じたんだ、この子たちは。


「全然面白くないと思うけど」


「面白いですよー! あ、そうだ! 先輩のこともっと知りたいなって思ったので、連絡先聞いてもいいですか?」


「連絡先?」


「はい! インスタってやってますか?」


 出た、またインスタだ。

 ミサミサさんもやっていたし、何なら母さんもやっていた。

 最近はメッセージアプリではなくインスタでやり取りすることも多いらしく、母さんに勧められて実はインストールしておいたのだ。


 もちろん、そこからはほぼノータッチだが。


「一応、やってはいるけど」


「ほんとですか⁉ じゃあ交換しましょう!」


 待ってくれ。

 なんでこの子たちは俺とインスタを交換したいんだ?

 しかも四人全員なんて……はっ! もしかして……。


「フォロワー増えるごとにクオカードプレゼント、とか?」


「……はい?」


 反応的に、どうやら違うらしい。

 ということは……またしても詐欺か?

 でもさすがにここは学校内。


 表立って詐欺なんてできないだろうし、いくら俺が、街を歩けば新手の詐欺師ホイホイな見るからにカモだとはいえ、普通学校でしないだろう。

 じゃあなんだ?


 勘繰っていると、女子たちもそんな俺の様子に気が付いたのか、笑いながら口を開いた。


「そんな警戒しないでくださいよ~。上級生のお知り合いがいた方が、一年生でまだまだ色んな事がわからない私たちにとってすっごく助かるってだけなので!」


「……なるほど」


 そう言われれば、確かにその気持ちはわからんでもない。

 まさに今、俺が都会での新しい高校生活に怯えており、精神的支柱が欲しいと思っているのだから。


 ただ、この子にとっての支柱がド田舎新参者の俺でいいのかという疑問はさておき。


「お願いします、先輩っ!」


「わ、わかった」


 最後は半ば強引に頷かされ、女の子主導の下、インスタを交換する。


「先輩、始めたばっかりなんですね。フォロー欄十人くらいしかいませんし」


「あぁ、あんまりスマホは触ってこなかったからさ。SNSとか得意じゃないし」


「っ! SNSが得意じゃない、交友関係の狭いイケメン……」



「沼だね」

「沼沼だね」

「圧倒的沼だね」



「なんて?」


 あまりにテンポが速くて聞き取れなかった。

 ちなみに、インスタを交換しているのは母さんとあっちにいる紗枝さんや香奈さんたちだけだ。


「ありがとございます! また連絡しますね!」


 女の子たちはそう言って、はしゃいだように立ち去っていく。

 その背中をぼんやりと眺めながら、


(都会のキャピキャピ系女子、エネルギー高いな)


 と感心していると、背後から突如声をかけられた。


「いきなり後輩女子四人と連絡先交換とは、やるな」


「っ⁉」


 慌てて振り返る。

 するとそこには、ニヤリと余裕の笑みを浮かべたイケメンが立っていた。


 見覚えがあると思ったら、さっきボードの前で注目されていた男子生徒だった。

 さらに、その横には……。


「初日からモテモテだね。羨ましいなぁ、なんて? ふふっ」


 クスクス笑う女子生徒。


 この人もさっき注目されていた、別格のオーラを放った金髪の美少女だった。

 こうして二人が目の前に来ると、より容姿の良さを思い知らされる。


(美男美女すぎるな……) 


 思わずボーっと二人のことを見ていると、二人は顔を見合わせ首を傾げた。


「どうしたの? そんなにボーっとして」


「あ、ごめん。つい見ちゃったというか、目を奪われてたというか……」


「「…………」」


 俺の発言に固まる二人。


 あれ?

 もしかしてまた間違えたか?

 何やってんだ俺は。完全にさっきの女子四人にペースを乱された。


 いや、あの子たちは悪くないな。

 悪いのは全部、都会に順応できてない俺なわけで……。



「「……ぷっ」」



 急に吹き出す二人。


「え?」


 やがて二人は腹を抱えて笑い始めた。


「あはははははっ! なんだよそれ!」


「現実で目を奪われた、とか言う人初めて見たよ!」


「えっと……」


 どうやら俺、都会の人気者から一本ウケ取れたみたいです。




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