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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第73話 尊いだらけ


 ある日の放課後。


 ホームルームが終わり、手早く帰り支度を済ませ。

 

「また明日な。秋斗、波留」


「あぁ、また明日」


「また明日ね~!」


 席から離れた俺は、そのまま教室を出る……と思いきや。

 その直前で曲がり、とある席にやってきた。


 もちろん、俺がお付き合いしている猫谷さんの席だ。


 実は今日、俺の家で猫谷さんとお菓子作りをする予定なのだ。

 まずはスーパーに買い出しに行って、その後家でガトーショコラを作る。


 この提案をしたのは猫谷さんで、今朝からテンションがかなり高かった。

 


「ふふっ、桐生くんとお菓子作り……ふふふっ」



 ふと、今朝のやけにニヤニヤしていた猫谷さんを思い出してしまう。


(可愛かったな……)


 あの猫谷さんを俺だけしか見ていないというのも、特別感があってなおいい。


「猫谷さ……」


 声をかけようとして思いとどまる。

 

 熱心にスマホを操作する猫谷さん。

 どうやら今日も、スマホのいわゆるクソゲーに熱中しているらしい。


 猫谷さんは頭を空っぽにできるスマホゲームが趣味で、朝待ち合わせしているときも度々やっていることがあり。

 集中しすぎて俺に気が付かないことが結構ある。


(マイペースな猫谷さんらしいな)


 その度に俺は、ひと段落つくまで待つのが決まりだ。

 もちろん、全く嫌じゃない。


「あ……んぅ」


 大人びた容姿からは想像できないほどに、無邪気にゲームを楽しむ猫谷さんの姿はやはり新鮮だ。


 気づかれていないことをわかったうえで、こっそり横顔を見るのもまた楽しい。

 

 それから少し経ち。

 ゲームオーバーになった猫谷さんが、ようやくスマホから目を離す。


 そのまま視線はゆっくりと隣に立っている俺へと移り、


「⁉」


 ビクッと肩が跳ねる。

 たぶん猫耳があったら、ピンと立っていたと思う。


「き、桐生くん……あ、ごめん。待たせてた?」


「いや、待ってない」


 なんて嘘をつくも、猫谷さんが訝し気に目を細めてじっと見てくる。


「……声かけてくれればよかったのに」


「邪魔しちゃ悪いかなって思って。それに、可愛かったから」


「かわっ……!」


 腕で自分の体を抱きしめ、頬を赤くさせる。


「またすぐそういうこと言う……誰にでも言ってないよね?」


「猫谷さんだけだけど」


「っ! ……ちょっと信用できなくなった」


「え?」


 ど、どういうことだ?

 何も嘘は言ってないし、むしろ今一番答えるべき回答をしたと思うんだけど。


「ちょっと待って」


 猫谷さんがテキパキと支度を済ませ、鞄を肩にかける。


「お待たせ。行こっか」


「あ、あぁ」


 猫谷さんと並んで教室を出る。

 しかし、どうしても気になっていた。


「ねぇ、猫谷さん」


「なに?」


「さっきの言葉、どういう意味?」


「……聞いてくること自体が答えだよ」


「…………え?」


 ますますわからなくなって、頭が混乱してくる。

 そんな俺を見て、猫谷さんは楽しそうに笑うのだった。


(まぁ、猫谷さんが楽しそうだからいいか)





     ♦ ♦ ♦





 ※久我秋斗視点



 旭と猫谷さんが教室を出て行く。


 あの二人は気付いている様子もなかったけど、教室にいる奴らはほとんど二人の会話を聞いていて。


 二人がいなくなった瞬間、息をするのを思い出したみたいに呟いた。



「「「「「「と、尊い……」」」」」」



 空気が一気に緩む。

 冷房の効いた教室なのに、思いのほかもわんとした熱気を感じた。



「やっぱりあの二人、見てるだけで尊すぎるよな」

「カップルってみんなあぁあるべきだと思うわ」

「純粋すぎて眩しいよな」

「純度高すぎるわマジで。見習えよ全高校生」

「見てて飽きない上に嫉妬しないカップル、初めてだわ」

「ってかお似合いすぎるよな、あの二人」

「十年後もあんな感じなの、想像に容易いもんなぁ」

「もう夫婦じゃん……」



 もう二人が付き合ってそこそこ経つというのに、未だに話題の中心に旭と猫谷さんがいる。

 さすがと言うべきか、すごすぎると言うべきか。


「あの二人、ほんとにいいカップルだよね」


「誰にも心を開いてなかったあの猫谷さんが、今や恋する乙女みたいに赤面しちゃったりするんだもんな……」


 本当に、桐生旭という男はすごい。

 誰にも成し得なかったことをあっという間に達成して、猫谷さんをあんな風に幸せにしているのだから。


 なんて感心していると、


「……なんだよ、じっと見て」


「いや、アキくんも猫谷さんのこと可愛いって思うんだなって思って」


「別に可愛いなんて言ってないだろ?」


「じゃあ、可愛いと思ってないの?」


「超可愛いと思ってる」


「思ってるんかいっ!」


 波留のマンキンのツッコみ、久しぶりに見たな。

 思わず笑っていると、波留が不機嫌そうに頬を膨らませる。


 やがて「でもさ」と猫谷さんの席を見ながら言った。


「二人ともほんとに幸せそうだよね。付き合うべくして付き合ったというか……やっぱり、すっごくお似合いで……」


「っ!」

 


 ――やっぱり、二人はお似合いだ



「「っ!!!」」


 目が合い、慌てて逸らす。

 急に心のある場所が落ち着かなくなって、心臓がドクドクと鳴っていた。


(な、なに急にぎこちなくなってんだ)

 

 波留も変に意識してるし……。


「い、いいよな」


「そ、そうだね」


 必要のない言葉を交わして、またしても沈黙が流れる。


(ったく、影響力ありすぎるんだよ……旭は)


(も、もうっ……旭くんのせいだからね……!)


 何故か二人別の方を向き、むず痒さを感じながら黙っているのだった。





 ――一方その頃、クラスメイトたちは。


(あれ、なんか別の尊さの雰囲気を感じる?)


(これは尊さの芽……)


(あぁ……なんかもう尊い)


 

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