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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第63話 花の前に喧噪


 伊澄さんと目が合う。


「え……」

 

 俺を見て固まってしまう伊澄さん。

 ひとまず伊澄さんから重い土をもらい受け、歩き始めた。


「花壇でいいか?」


「は、はい」


 袋を両手で抱え直すと、そのまま花壇まで運んだ。

 地面に置くと、ドスンと低い音が響く。


「ここでよかったか?」


「…………」


 返事がなく、どうしたのかと思って振り返る。

 伊澄さんは俯いたままだった。


「伊澄さん?」


「……どうして、私に優しくするんですか」


 脈絡もなく伊澄さんが訊ねる。

 

 その答えは、色々考えた末に俺が声をかけたときから明確に出ていて。

 だから何のためらいもなく、さらりと言ってのけるのだった。




「やっぱり、困ってる人は見過ごせないから」




「っ!!!」


 見過ごす、という優しさは俺の知ってる優しさじゃない。

 確かにそれも正解かもしれないし、むしろそっちが正しいこともあるかもしれない。


 だけど、困ってることだけは間違いなくて。 

 なら、見過ごすという選択肢はハナからないのだ。


「ズルいですよ……先輩は」


 さらに俯き、絞り出すように伊澄さんが呟く。

 やがて顔を上げると、感情のこもった顔で俺を見た。


 視線が合う。

 伊澄さんの髪が風に攫われ、耳から顔の前にはらりと落ち。

 小さく口を開いた――そのとき。





「アニキじゃないですか!!!」





「「……え?」」


 声の方を見る。

 そこには餌をもらう前の犬みたいに嬉しそうな坂本が立っていた。


「こんなところで何してるんですか? ってか、今日も相変わらずカッコいいというか、どこにいても絵になるというか……」


 言いながら、視線が俺から隣の伊澄さんへとゆっくり移っていく。

 伊澄さんを完全にとらえると、「あ」と声を漏らした。


「伊澄じゃん。ここで何してんの?」


「げ、坂本……」


 顔を歪める伊澄さん。


「げ、って言うのやめてくれない? その汚物を見るような目も」


「実際、坂本って汚物でしょ」


「汚物じゃねぇから! 俺のこと汚物っていうの、ほんと伊澄くらいだぞ」


「……そういうところがほんとに汚物」


「ほんとに汚物ってなんだコラ!」


 いがみ合う二人。

 どう考えたって、初めましての距離感じゃない。


「二人は知り合いなのか?」


「知り合いというか、中学からの同級生なんです。しかも一年からクラスがずっと一緒で、おまけに高校に入っても同じっていう腐れ縁っぷりです」


「それはこっちのセリフだから。なんでこのナルシスト男と四年間も……時間返してほしいくらいなんだけど」


「むしろお礼言われるくらいじゃない? 俺と四年間って」


「……ほんと無理なんだけど」


「なんだ無理ってコラ!」


 初めて見る坂本と伊澄さんの姿。

 なるほど、くだけるとこんな感じなのか。


「ってか、伊澄がなんでアニキと一緒にいるんだよ。密会?」


「っ! み、密会じゃない! 変なこと言うなアホ!」


「妙な動揺っぷり……」


「は? な、なに?」


 探るように伊澄さんを見る坂本。

 伊澄さんは動揺したようにキョロキョロしていた。


「っ! まさか、伊澄……」


 じーっと伊澄さんを見る坂本。

 やがてすべてを察したのか、伊澄さんの肩にポンと手を置いて言った。



「知らないのか? アニキは猫谷先輩と……」



「うわぁあああっ! それ以上言うなアホ! 坂本!」


「アホと同列に俺を並べるな⁉」


「いらないこと言おうとするからでしょ⁉ ほんと空気読めてないから! 昔っから!」


 顔を真っ赤にして伊澄さんが怒る。

 

「いやいや、俺は伊澄のためを思って言ってあげようとしたんだろ? ほら、伊澄って友達いないし、情報とか回ってこないだろうから」


「っ! う、うっさい! 坂本!」


「遂に俺の名前を悪口として単体で使い始めたか……だから友達出来ないんだぞ? 教えてやろうか? 友達の作り方」


「いいから! ほんと黙れっ!」


 坂本が上手なのはなんだか新鮮だ。

 伊澄さんのあっぷあっぷな感じも見たことがないし、この二人がどれだけ仲がいいのかが伝わってくる。


「二人とも、仲いいんだな」


「「よくないです!」」


 ほら、やっぱり。


「……はぁ、ほんと最悪なんだけど」


 伊澄さんががくりと肩を落とし、呟く。

 坂本はそんな伊澄さんを目の前にして、ごく自然に頭にポンと手を置いた。



「ま、伊澄の気持ち、わかんなくもないけどな」



「坂本……」


 温かい表情で坂本が微笑む。

 しばらくの間そのままでいると、坂本がふっと笑って言い放った。


「確かに、アニキは半端じゃないほどにカッコいいからな! 俺の憧れだし!」


「…………は?」


「そんなアニキと付き合ってる猫谷先輩も、俺はずっと好きだったわけだし? その二人が一緒にいたらもう最強というか、一般人からすれば色々沈むものもあるけど? でも、それが普通だし? どちらかと言えば、アニキと猫谷先輩が普通じゃない! まさにスペシャル! スペシャルだ!」


 ものすごい饒舌。

 全部聞き取れたはずなのに、全く頭に入ってこなかった。


「っ! ……ほんとうっさい。うっさい坂本!」


「はぁ⁉ 俺は伊澄を励ましてやろうと……」


「いらないから! 誰が坂本に助け求めたわけ⁉」


「助けを求める顔してたから」


「してないから! もうほんとうっさい!!!」


 ガミガミと言い争う二人を見て、思わず頬が緩んでしまう。


 やはり都会には、色んな関係性が存在してるんだな。

 人それぞれに。


 

「っ⁉」



 ふと背後から視線を感じ、振り返る。

 しかし、そこには誰もいなかった。


(気のせい、かな)


「うっさい坂本! 坂本!」


「だから、坂本は悪口じゃない!」


 花壇の前で、二人の言い争う声が飛び交う。


 不思議と咲き誇る花たちはどこか楽しそうで、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。


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