第52話 きみの横顔
集合場所に到着する。
そこで秋斗と波留と合流し、早速班行動を開始することになった俺たちは、まず初めに電車で移動することに。
「今日の瑞穂ちゃんの髪可愛いね!」
「そう? ありがとう」
猫谷さんと波留が席に座り、俺と秋斗がその前のつり革に捕まる。
車窓からは見上げたら首が痛くなりそうなくらいに高いビルが次から次へと流れていて、都会にいることを強く実感させられる。
「一緒に来たんだな」
「え?」
「猫谷さんとだよ。まさか朝一緒に来るとは思ってなかった」
「あぁ、確かにな。正直、俺も予想外だったし」
車内にアナウンスが流れ、電車がホームに滑り込む。
ドアが開くと、ぞろぞろと人が乗り込んできた。
「でもなんか、いい感じだな。よかったじゃん」
「そうか? ならよかったけど」
「頑張れよ。今日なんだろ? 例のやつ」
「あぁ」
秋斗がニヤリと笑う。
ふと猫谷さんに視線を向ける。
今日はいつにもなく綺麗で、洗練された美しさを感じる。
それはもしかしたら今日、俺とふたりで遊ぶからなんじゃって、勝手に……。
「?」
「っ!」
猫谷さんと目が合う。
猫谷さんは首を傾げ、
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
もちろん誤魔化した。
とてもじゃないけど、猫谷さんと告白する予定だ、なんてここでは言えない。
……それはともかく。
「「……にやりにやり」」
秋斗と波留、そのむず痒くなるような視線はやめてくれ。
電車を乗り継ぎ、やってきたのは――
「やってきました、浅草ー!」
波留が両手を広げはしゃぐ。
俺たちの目の前には、よくテレビで見る大きな雷門がそびえたっていた。
何という威圧感。
「人が多い……おまけに外国人ばっかりだ。しかも見た事ある場所だし……うおっ。奥にあるのはなんだ? 塔か? 屋台もあるな。おぉ……浴衣着てる人もいる。あ、あれ人力車だよな? ……浅草はほんとにあったんだ」
「ラピ〇タのテンションで言われても……」
波留が呆れたように呟く。
「俺にとってはそれくらいのレベルだよ。うわ、ほんとすごいな……」
ついキョロキョロと見渡してしまう。
ド田舎にはなかった観光名所。
それも、日本人ならみんなが知っているような場所に俺がいるなんて……。
「「「ぷっ」」」
一斉に吹き出す秋斗と波留、猫谷さん。
「え?」
「あははははは! 旭くんが大はしゃぎしてる~!」
「普段はクールな感じなのに、すごいギャップだな」
「……ふふっ、桐生くんが大はしゃぎ」
そ、そんな笑うほど面白いか?
自分の面白さに無自覚でいると、秋斗と波留がひとしきり笑い、歩き始める。
「ほら、早く行くぞ」
「レッツゴー!」
迷わず進んでいく二人。
迷いがない足運び……さすが純都会人だ。
「桐生くん、はぐれないように私についてきて。私が桐生くんを導いてあげる」
得意げにサムズアップする猫谷さん。
なんだかそれが面白くて、つい頬が緩んでしまう。
「頼むよ、隊長」
「ふふっ、了解っ」
秋斗と波留を追って、猫谷さんと並んで歩き始める。
心が躍っていた。
猫谷さんのとなりで、とても、ものすごく。
その後、浅草で食べ歩きをし、浅草寺でお参りをし。
おみくじを引いたり、昼ご飯でもんじゃを食べたりと浅草を満喫し。
次にやってきたのは、東京スカイツリー。
チケットを購入した俺たちは、展望台へと上がるエレベーターの列に並んでいた。
「すごい人だな……」
「あははは……さっきから旭くん、人の多さばっかりびっくりしてるね」
この列だけで住んでた村全員の人数と同じ可能性があるのだ。
そりゃびっくりもするし、口にも出る。
キョロキョロと辺りを見渡しながら感心していると、ふととなりでプルプル震える猫谷さんが目に入った。
「猫谷さん?」
「っ! だ、大丈夫。大丈夫だから」
「まだ何も言ってないんだけど」
この様子、雷のときと若干似ている。
ということは、もしかして……。
「猫谷さん、高いところ苦手?」
「……苦手というか、高いところに上ったことなくて。心配だなって」
「なるほどな」
東京スカイツリーは日本で一番高いタワーだ。
高いところの中でも随一の高さを誇っている。
そりゃ不安になるのも無理はない。
「大丈夫だよ」
「え?」
猫谷さんの目をしっかり見る。
「絶対に大丈夫だ」
「っ!」
こういうとき、変な理屈よりシンプルな言葉がいい。
もう一度繰り返そうとしたそのとき。
「……うん」
頷きながら、猫谷さんが俺の服の袖を摘まむ。
まるで母親の陰に隠れる子供のよう。
これで猫谷さんが安心できるならお安い御用だ。
なんて思っていたのだが……。
「「にやりにやり」」
秋斗と波留、二度あることは三度ないぞ?
エレベーターで上がり、ドアが開く。
眩しいくらいの光に包まれ、やがて見えたのは……。
「「「「おぉ……」」」」
絶景の二文字が似合いすぎる景色。
今日が雲一つない晴天だったのがよかったんだろう。
「わぁ……!」
猫谷さんが無邪気に外の景色を眺める。
「高いところ大丈夫だったんだな」
「そうみたい。あ、見て! 東京タワーがある!」
「ほんとだ。すごいな……」
本当にすごい。
こんな景色を生まれて初めて見た。
「それにしたって、東京は建物だらけだな……緑が全然ない。さすがは大都会東京……これが都会の力ってやつか」
「旭くんはどこに感心してるの……」
呆れたように呟く波留。
しかし、波留の少し後ろに立つガタイのいい男は、全然景色なんて見てなかった。
「アキくん」
「な、なんだよ波留」
「アキくんって強がってたけど、昔から高いところ苦手だったよね? ジャングルジムでも登れなかったくらい」
「そ、そんなことねぇよ? ほら、俺が立ったら他の人見えなくなるし、どうせいつでも見れるから譲ってやろうと……」
珍しく饒舌な秋斗の背中を波留がニコニコで押し始める。
「さぁさぁー。そんなこと言わずに最前列で見ちゃおうね~」
「おい波留! やめろって言ってんだろ⁉」
「聞こえません~」
じゃれ合う秋斗と波留。
本当に二人は仲がいい。
「ふふっ」
となりでクスっと笑う猫谷さん。
「楽しいね」
「楽しいな」
短く言葉を交わし、再び景色に目を向ける。
「わぁ……」
猫谷さんが声を漏らす。
その横顔はやけにあどけなくて、可愛らしくて。
(やっぱり俺、猫谷さんが好きだな)
絶景よりも俺はきっと、すぐとなりの女の子の美しさに目を奪われていた。
それほどに猫谷さんはやはり、綺麗だった。




