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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第50話 ほぼ、同然の


 必死に校内を駆けていく。


 春の名残を感じさせながらも、ほのかに気温が高く。

 そのせいでじんわりと汗が滲んでいたが、気にせず猫谷さんを探した。


 今じゃないとダメだ。

 なんだかこの機会を逃してしまえば、猫谷さんが遠ざかってしまうような気がするから。


 昇降口に差し掛かり、四人組の横を通り過ぎようとする。


「あれ? 桐生?」


「あ、山田」


 山田とばっちり目が合う。

 他は上原に真田さん、赤羽さんといつものメンバーだった。


「そんなに走って、何してるの?」


「鬼ごっこだろ! それかかくれんぼだな!」


「桐生くんがそんなことするわけないでしょ? 上原じゃあるまいし」


「あ、そっかー! って、それ俺のこと馬鹿にしてね⁉」


「あははは……で、どうしたの?」


 相変わらず王子様みたいなオーラを放つ山田に再度訊ねられる。


「猫谷さんを探してるんだ」


「えぇ⁉」


 驚いたように声を上げる赤羽さん。

 そんな驚くようなこと言っただろうか。


 いや、今はそれを確かめてる時間はないな。


「みんな、猫谷さん見てないか?」


「なんで探してんのかは置いてといて、そういやさっき見たよな?」


「あっちに歩いて行ったよ、一人で」


「それも結構さっきだよね」


 真田さんが俺が進もうとしていた方向を指す。

 さっきってことは、だいぶ近いな。


 今から走って行けば、きっとすぐに追いつけるはずだ。


「ありがとう!」


 再び地面を蹴り、一歩を踏み出す。


「今度話聞かせろよ!」


「よくわからないけど頑張れ、桐生!」


「あぁ!」


 声に答え、さらにスピードを上げる。

 もはや校内で許されないスピードが出ていて、焦る気持ちを必死に抑えながら走った。



「なんだったんだ? 今の」


「……ま、俺はなんとなくわかったけどね」


「ちなみに私も」


「はぁ⁉ なんで二人ともわかってんのさ!」


「蘭子が察し悪いからじゃね? 知らんけど」


「上原もわかってないでしょっ!」


「いったー!!!」










 走りながら、猫谷さんを必死に探す。


 山田たちの話を聞く限り、きっとそろそろ会えるはずだ。

 ずっと探していた、猫谷さんに――



「っ! 猫谷さん!」



 立ち止まり、声を張り上げる。


 視線の先、渡り廊下。 

 歩いていた女子生徒は足を止め、俺の方に視線を向けた。


「あ、桐生くん」


 その声、その顔は間違えようもないほど猫谷さんで。 

 安堵しつつ、猫谷さんの正面に立つ。


「はぁ、はぁ……やっと見つけた」


「どうしたの? そんなに息切らせて」


「ずっと猫谷さんを探してたんだ。教室にいなくて、それで……」


「そうなんだ。ごめんね? 日誌を職員室に出しに行ってて」


「職員室? 行ったはずだけど」


 俺が言うと、猫谷さんが少し言いづらそうに視線を落とす。


「……実はその後、なんとなく学校内をぶらぶらしてたら、どこかわからなくなっちゃって……正直言うと、ちょっと迷ってた」


「そ、そうだったんだ」


 どうやら迷ってたことを言うのが恥ずかしかったらしい。

 申し訳ないと思いつつ、それも猫谷さんらしくて、可愛らしいと思ってしまう。


「それなら見つからないわけだな」


「でも、私に用事があったなら連絡してくれればよかったのに。こないだも電話したし、連絡先持ってるでしょ?」


「……あ」


 完全に盲点だった。

 そうだ、電話すればよかったんだ。

 

 そうすれば俺がこんなに走り回って探すこともなかったのに。

 都会に来てからようやくスマホを使い始めたから、まだスマホの存在に慣れてないんだよな。


「……ふふっ」


「猫谷さん?」


「やっぱり、桐生くんって面白いね」


「面白いというよりダメだろ……そんな初歩的なこともできないなんて」


「そんなことないよ」


 猫谷さんがクスっと笑い、切れ長の瞳を俺に向ける。



「私はとても素敵だと思うよ、桐生くんのそういうところ」



「っ!!!」


 胸がドクンと跳ねる。

 ボールを地面に突いて、跳ねたみたいに。


「それで、私に用ってなに?」


 はっと我に返る。


 そうだ。俺はただ猫谷さんと話したかったんじゃない。

 大切なことを伝えに来たんだ。


「あのさ、猫谷さん」


「?」


 首を傾げる猫谷さん。

 猫谷さんの視線が俺に溢れるくらいに注がれる。


 緊張に喉が締まりそうになるも、拳を握って噛み殺し。


「校外学習の後のことなんだけど」


 意を決して切り出そうとした――そのとき。



「でさ、真菜子が雄大くんと二人で出かけることになったらしくて~」



「えー! それマジ⁉ 激アツじゃん!」


「だって校外学習の後でしょ? ジンクスの!」


「カップルめっちゃできるって先輩たちも言うもんね!」


「つか、誘われたってことはほぼ確じゃん!」


「校外学習の後に誘うとか、告白同然だもんね!」


「それなー!」


「いいなー、私も誘われたいなー!」


 俺から来た方とは逆側から歩いてくる女子生徒二人組。

 話題はどうやら俺たちと同じ、校外学習についてのようで……。


「「っ!!」」


 とんでもない。

 本当にとんでもない話をしている。


 俺にとって、あまりにも間が悪すぎる。


「っ! 猫谷さんと桐生くんじゃん!」


「やば、カッコいい……!」


「こんなところで何してるんだろうね」


「しかも二人じゃん!」


「校外学習のことだったりして……」


「だとしたらヤバいよね!」


 なんて、コソコソと話しながらも普通に聞こえる声量で俺たちの横を通り過ぎていく。


 女子生徒たちの姿は見えなくなり、再び渡り廊下は俺と猫谷さんの二人だけになった。

 校舎やグラウンドの方からは喧騒がぼんやりと響いていて、かすかに誰かの気配を感じる。


(なんてこと直前に言ってくれたんだ……)


 この後に本当に誘うなんて、彼女たちの言う通り告白同然だ。

 その意味合いは、彼女たちが話したことで確実なものとなったし。


(今日の俺はほんと、とことんついてない)


 猫谷さんがほんのりと頬を赤く染め、俯いている。

 

 ぎこちなく流れる時間。

 猫谷さんが目だけちらりと俺を見た。


「……校外学習がどうしたの?」


「っ! えっと……」


 躊躇う気持ちが湧いてくる。

 言おうとしていた言葉が、いとも簡単に引っ込んでしまう。


 ……でも、ここでやめるわけにはいかない。


 今だ。今じゃないとダメなんだって、俺の勘がそう言ってる気がした。

 そして、こういうときの勘は――よく当たる。


「猫谷さん!」


 拳を握りしめ、覚悟を決める。

 猫谷さんは驚いたように目を見開いた。


 揺れる瞳をしっかりと見つめ、きちんと言葉にする。

 それはもはや――告白同然だとしても。





「校外学習の後、俺と一緒に遊んでくれないか?」





「っ!!!!」


 あたふたする猫谷さん。

 忙しなく手を動かしながら、


「それって……」


 その後の言葉は続かず、やがて俯く。

 紫色の綺麗な髪から、ちょこんと見える耳はあまりにも真っ赤で。


「っ!」


 なんと両手で顔を覆ってしまった。


 ま、またやっちゃったか?

 最近失言が多いみたいだし、もしかしたら今の言葉もどこか猫谷さんを傷つける要素があったじゃ……。


「もう……ダメだよ、そんな不意打ちしたら」


「ッ!!!」


 頭から雷が落ちる。ように思えた。

 

 猫谷さんの言葉はつまり、俺の誘いを断ったってことだ。

 告白の前提とか思ってたのに、もはや告白も断られたも同然なわけで。


 俺、フラれたのか。

 衝撃が抜けないでいると、猫谷さんが顔から手を離した。


 見たことがないくらいに恥ずかしそうに、視線を斜め下に向けていた。

 どうしたらいいのかわからないような表情をしつつ、やがて唇をきゅっと結ぶ。




「……私も、桐生くんと遊びたい」




「…………え?」


 猫谷さんが二度ずつ視線を左右に散らして、俺を見る。

 一瞬目が合うとまた逸らし、唇を尖らせながら言うのだった。




「だから……いいよ。校外学習の後、ふたりで」




「っ!」


 ――その瞬間、胸が燃えるくらいにカッと熱くなった。


 叫んでしまいそうなくらいに嬉しくて、思考が吹き飛んで。


 遠くの喧騒が聞こえなくなる。

 それほどに、俺と猫谷さんを取り囲む空間だけが別世界になったみたいだった。


 ふたりだけの、小さな別世界のような、そんな気がしたんだ。



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