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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第39話 変わったこと


 朝の通学路を歩く。


 最近はさすがに地図を見ずに学校に行けるようになったが、都会はあまりにも道が狭く入り組んでいるので、まだまだ注意が必要だ。

 一歩間違えれば簡単に迷ってしまうし。


 だが、思えば上京してから学校と家の近所、駅前以外の場所に行ったことがなかった。

 せっかくの都会だし、もっと足を延ばした方がいいと思いつつ、その一歩が踏み出せない。


(迷いに迷って、二度と帰ってこれなくなるかもしれないしな……)


 都会はジャングルで闇が深い。

 俺みたいな田舎者は簡単に吞まれてしまうのだから、依然として注意が必要だ。


 なんてことを考えながら歩いていたのだが、やはり気になってしまう。



「ねぇ、あれって桐生くんだよね?」

「リレーでアンカーだったあの?」

「ヤバい! 超カッコいい!」

「やっぱりイケメン過ぎるよね!」

「テストも一位だったんでしょ⁉」

「性格もいいって噂だぞ?」

「マジで? 完璧じゃん」

「転校してきたんでしょ?」

「しかも結構な田舎らしいよ」

「逸材がいるもんだな……」

「もう人としてのレベルが違うわ」

「めっちゃカッコいいんだけど!」



 歩いているだけなのに生徒たちに見られ、噂されている。

 

 なんなんだこの注目度は。

 以前から見られている感はあったのだが、体育祭後は尋常じゃないほど注目されている気がする。


 それはきっと、俺が組対抗リレーのアンカーだったからだろうけど。


(これが、都会の体育祭マジックってやつか)


 秋斗が体育祭前に、体育祭で一躍時の人になる生徒が毎年いると話していた。

 きっと優勝が懸かった大一番でアンカーだった俺は、それに当てはまっているんだろう。


(俺はただ、みんなが繋いでくれたバトンをゴールに届けただけなんだけどな……)


 俺がすごいんじゃなくて、それまでの人がすごかっただけだ。

 だからこの注目度が分不相応だと思えてならない。


(はっ! もしかして、赤組だった人に恨まれてのこの注目度なんじゃ……って、そんなわけないか)


 変なことを考えてしまうくらいには現状に困惑していると、背後から迫る気配を感じた。


「アニキ!」


 横に並ぶ男子生徒。

 俺のことをアニキという人は、この世に一人しかいない。


「坂本」


「おはようございます、アニキ! 本日はお日柄もよく」


「あははは……そうだな」


 相変わらず人目を引く、カッコいい容姿をしている坂本。

 さすが俳優の卵だ。


 今も坂本が現れて、視線が俺から坂本に移っているのを感じる。

 そりゃそうだ。

 本当に注目されるべきは、田舎者の俺じゃなくて都会人で有名人な坂本なのだから……。



「なぁ、今坂本くん、桐生のことアニキって言ってなかったか?」

「兄弟じゃないよね?」

「ってことは……舎弟?」

「桐生くん、もう舎弟いるの⁉」

「やっぱりスケールがちげぇな」

「さすがだわぁ」

「しかもあの坂本とはな」

「さすがとしか言いようがない」



 何がさすがだよ。


「今日もカッコいいですね、アニキ!」


「あ、ありがとう」


 ただ、坂本は親しみを込めて俺のことをアニキと言ってくれている。

 周りに誤解されるのは嫌だが……どうにもアニキ呼びはやめてくれ、なんて言えない。


「最高です、アニキ!」


「あはは……」


 やっぱり、やめてくれって言おうかな。










 昼休み。


 中庭に呼び出された俺は、いかにも都会の華やかJKな女子生徒と向かい合っていた。

 

 この子は確か、体育祭の時に写真を撮って、少し話したような気がする。

 

「それで、話って?」


「えっとね! その……」


 口ごもる女子生徒。

 やがて拳をぎゅっと握ると、俺を見て言った。



「私と付き合ってくれない? 桐生くんのこと……好き、なんだ」



「っ!」


 告白。

 そう、これは告白だ。


「前からカッコいいなって思ってたんだけど、体育祭の活躍見てビビっときて! どう……かな?」


 首を傾げる女子生徒。

 

 実は体育祭の後、こうして告白されることがあった。

 体育祭後からはこれで三回目。

 

(ほんとにすごいな、体育祭マジック)


 それと同時に、都会の恋愛に対する関心と積極性の高さに驚かされる。

 だが、俺の答えは決まっていた。


「ありがとう、告白してくれて。でも、ごめん」


「っ! ……好きな人とかいるってこと?」


「好きな人?」



 ――リレーの時の桐生くん、カッコよかったよ



 一瞬、脳裏によぎるあの子の顔。


 切れ長な瞳に、紫色の綺麗な髪が……って、なんで今、猫谷さんのこと思い出してるんだ。

 こないだの出来事があまりに印象的だったからか?


「いないよ。そもそも、誰かと付き合うとか想像したことなくて。だから、ごめん」


「……そっか。わかった。ありがとね」


 そう言って、女子生徒が立ち去っていく。

 やはり、告白を断るというのは心が痛む。


(こういうとき、どうするのが一番いいんだろうな)


 俺は真摯に答えるようにしているが、言葉も含めてどうするのが一番その人を傷つけずに済むんだろうか。


「うーん……」




「今の子、結構可愛いかったね」




「え?」


 慌てて振り返る。

 そこにはパックのいちごみるくをストローで飲んでいる猫谷さんが立っていた。


「猫谷さん⁉ いつからそこに?」


「付き合ってくれない? から」


 だいぶ最初からいたな……。


「断るんだね、今の子」


「え? あぁ、うん」


「へぇ……そっか。やっぱり桐生くんってモテるね」


「そんなことない。体育祭があって、今こうなってるだけだろ。たぶん」


「ふーん」


 さっきから猫谷さんが少しだけそっけない気がする。

 怒っている? ような気もするし。


 最近は俺に仲良く接してくれてるだけに、俺が敏感になっているだけかもしれないが。

 それでも今の猫谷さんは、なんだか様子がおかしい気がする。


「そう」


 猫谷さんがくるりと踵を返し、歩いていく。


「ね、猫谷さん?」


 声をかけるも、猫谷さんから返事はなかった。

 遠ざかる背中を見ながら、思わず首を傾げる。


(ど、どうしたんだ?)


 

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