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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第38話 ネクストステージ


 学校から歩くこと数分。


 打ち上げ会場に到着した俺と猫谷さんは、騒がしい店内へ恐る恐る入っていく。

 しれっと紛れる算段でいたのだが……。



「あ、桐生くんだ!」



 入り口付近にいた女子生徒が俺に気が付き、声を上げる。

 嘘みたいに静かになり、視線が俺に集まった。


「……へ?」


 な、なんだこの状況は。

 困惑していると、


「「「「「桐生ーーーー!!!!」」」」」


 あっという間に囲まれた。



「遅いぞ桐生! 待ちくたびれたぞ!」

「とっくのとうに打ち上げ始まってるっつーの!」

「桐生くん来てくれたんだ!」

「ちょー嬉しいんだけどー!」

「主役は遅れて登場するってか?」

「やっぱり桐生は違うなー!」

「登場の仕方も主人公すぎるんだって!」

「リレー超カッコよかったよー!」

「桐生くんめっちゃ速かったよね⁉」

「スポーツもできるのかよ!」

「俺にもその才能分けろって!」

「桐生コノヤロー!!!」



「えっと……あはは」


 聖徳太子でも聞き取れない数の言葉。

 全部にちゃんと答えたいけど、その技量が俺にはなかった。


 さらなる盛り上がりを見せる打ち上げ会場。

 なんだか店はバーみたいにオシャレで、それだけでも圧倒されてるっていうのに……。


 やはり、都会の高校生はエネルギッシュだな。


「あれ? 猫谷さん?」


 俺を囲んでいた一人が、俺の少し後ろにいる猫谷さんに気が付く。

 今度は全員の視線が猫谷さんに移った。


「「「「「猫谷さんだ!!!」」」」」


「っ⁉」


 打ち上げ会場の熱気がさらに一段階上がる。



「猫谷さん来てくれたんだ!」

「意外! 超嬉しい!」

「こういうの来るの初めてじゃない⁉」

「マジか! 猫谷さん来てんの⁉」

「神回かよおい!」

「やば! めっちゃ可愛いんだけど!」

「レベル違うわ……」

「わ~! 猫谷さんだー!」

「いっぱい話そー!」



 みんなからの注目を受け、委縮する猫谷さん。

 

「き、桐生くん……」


 猫谷さんが俺の服の袖を摘まむ。

 どうやら怖いらしい。


 さらに俺の背中に身を隠す猫谷さんの方に振り返り、顔を寄せる。

 随分と店内は騒がしいし、普通の距離感じゃ聞こえないだろうから。


「大丈夫だよ」


「う、うん」


 猫谷さんが頷き、意を決して俺の横に並ぶ。

 そんな俺たちを見て、何故か周りは急に静まり返ってしまった。


 さっきまであんなに盛り上がっていたのに。



「今の見た?」

「なんか耳打ちしてたよね」

「な、なぁ。二人で来たってことは……」

「たたならぬ雰囲気を感じるんだけど」

「やっぱり噂通り……」

「私、猫谷さんがリレーの時……」

「え、マジ⁉」

「やっぱりそうだよね!」

「絶対そうだよ!」

「目の保養すぎる……」

「推し同士が結婚した気分」

「尊い……」

「それな……」



 ボソボソと話す生徒たち。

 

「えっと……」


 俺と猫谷さんはどうしたらいいのかわからず、困惑する。

 

 そんな中、人ごみをかき分けて秋斗と波留がやってきた。

 

「よ、旭。遅かったな」


「待ってたよー!」


「ごめん。色々あって」


「色々、ねぇ」


「なんだよその目は」


「別に?」


 別になわけがない目で俺と猫谷さんを交互に見てただろうが。


 最近の秋斗と波留は少し秘密主義なところがある気がする。

 もしくは俺の勘が鈍すぎるのか。


 なんだか後者な気がするけど。


「猫谷さんも来てくれたんだね!」


「う、うん。お邪魔します」


「あははっ、お邪魔しますって人の家じゃないんだから。ここは猫谷さんにとってもホームだろ?」


 秋斗がにひっと笑う。


「あ、そうだ! 猫谷さん、飲み物取りに行こ!」


 波留が猫谷さんの腕を引く。

 猫谷さんは波留に連れられ、会場の奥へと進んでいった。


 こないだも波留と秋斗と俺と猫谷さんの四人でラーメンを食べたし、猫谷さんにとって波留と秋斗は比較的ラフにいられる存在かもしれない。

 それに二人とも、そこらへんは上手だしな。


 俺も二人のおかげで都会での高校生活に初めから苦しまずに済んだ。

 俺が大丈夫だったのだから、猫谷さんはもっと大丈夫だろう。


(でもどうしてだろう。猫谷さんを見てると、なんだか……)


 自分の中で知らないことが起こっている気がする。

 まぁ俺なんて知らないことだらけなんだけど。


「とりあえず、俺も飲み物を取って……」



「「「「「「「桐生~~~!!!!!」」」」」」」



「……え?」


 待ってましたと言わんばかりに、再び俺の周りを囲んでいく生徒たち。

 しかもさっきより明らかに数が多い。



「おいおい今のはどういうことだよー!」

「猫谷さんとどういう関係なの⁉」

「このイケメンめー!」

「転校してすぐにこれかよ!」

「お前ほんとすごいな!」

「カッコよすぎるって!」

「桐生くんいっぱい話そー!」

「桐生くんー!!!」

「やっぱり付き合ってるんだろ⁉」

「リレーめっちゃよかったよ!」

「よっ! 体育祭の主人公!」

「テストも一位だったんでしょ⁉」

「どうなってんだよー!」



 どんどん人が集まってきて、もみくちゃにされる。


「やっぱり旭、ただものじゃないな……くくっ、これからも面白いことが起こりそうだ」


「秋斗⁉ きゅ、救助を……」



「「「「「桐生ーーーー!!!!」」」」」



 とてもじゃないが、俺の力じゃ捌ききれない。

 

 リレーのときは都会に打ち勝ったと思ったのに……。


(やっぱり都会って強敵だ……)





     ♦ ♦ ♦





 あれから数日が経ち。


 猫谷さんは打ち上げを機に、少しずつ周りと話すようになった。

 特に秋斗と波留、そして俺とは行動を共にすることもあり……。


「瑞穂ちゃん、これってわかる?」


「たぶん、Aの液体をビーカーに入れて……」


 俺の正面に座る波留と猫谷さんが、化学の教科書を見ながら話し合っている。


 もう下の名前呼びになってるのか、波留は。

 さすが涼川高校の人気者だ。


「…………」


 またしても、猫谷さんを見ていると知らない感情が湧き上がってくる。

 

(なんなんだろう……この気持ちは)


 都会にはまだまだ俺の知らないことがたくさんある。


 それでも、何かが大きく動くような、漠然とした予感が俺の中に確かにあったのだった。




「……なぁ秋斗」


「なんだよ旭」


「なんでそんなにニヤニヤしてるんだ?」


「別に?」


 だから絶対に、別にではない。



 

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