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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第35話 無自覚砲、炸裂


「……アニキって呼んでもいいですか⁉」


「……え、アニキ?」


 アニキってあの兄貴だよな?

 なんで坂本が俺をそう呼びたいのか、全くわからない。


「桐生先輩には感服しました! これだけ俺が失礼なことをして、惨敗したにも関わらず、試合後のノーサイドを個人間でもしっかり取り入れるなんて……ここまで器が大きい人を見たことがありません! だからアニキです! ぜひともアニキと呼ばせてくださいッ!」


「えっと……俺、そんな器大きくないと思うんだけど」


 たぶん鈍いだけだし。


「そんなことないです! もう桐生先輩は俺のアニキです! この先一生、ついて行きます!」


「それは困るんだけど……」


「大丈夫ですよ、アニキ! やっぱり、アニキはすごいですッ!」


「あはは……」


 あまりにも食い気味な坂本に気圧される。


 坂本のことは前から変な奴だと思っていた。

 しかし、まさか坂本からアニキと呼ばれることになるなんて……都会にはアニキ文化が根付いているのか?


 まるで坂本が俺の舎弟みたいじゃないか。

 普通逆だと思うけど。


「坂本!」


 坂本の背後から声が投げ込まれる。

 振り返ると、そこには肩を借りて立っている坊主アンカーと赤組の走者たちが集まっていた。


「っ! えっと、その……」


 俯く坂本。

 きっと坂本には負い目があるんだろう。

 託してもらったにもかかわらず、負けた事に対して。


 ――しかし、



「惜しかったな!」

「善戦したよ!」

「初めは勝ったと思ったぜ!」

「お疲れ様、坂本くん!」

「よかったよ~!」

「一年なのによく走った!」

「相手が化け物過ぎたな!」

「ま、坂本も十分速かったけど!」

「とにかくお疲れ!」

「ナイスファイトだったぜ!」



 坂本にかけられる、温かい言葉の数々。

 

「先輩……!」


 顔を上げた坂本の肩に、坊主アンカーが手を置く。


「悪かったな、急にアンカー任せて。でもカッコよかった。この大舞台でよく走り切ったよ」


「っ! ……卓也先輩!!!」


「……フッ、やっと俺の名前を呼んでくれたな」


 坂本と坊主アンカーの周りを囲む、赤組の走者たち。

 

 二人の変にドラマチックな感じが俺としては少しだけ違和感だったが、みんなが幸せそうで何よりだ。


 なんてことを思っていると、



「旭ー!!!」



 駆け寄ってくる秋斗と波留、山田に上原、赤羽さんに真田さんの六人。

 

 やはり六人揃うとオーラが半端じゃなく、思わず目を背けてしまう。 

 体育祭での都会の有名人の輝きは尋常じゃない。


「すげぇなお前! やっぱ、旭は主人公だよ」


「ね! 私も思わず興奮して叫んじゃったよ! えへへ、ちょっと喉痛いし」


「あはは、ありがとう」


 秋斗と波留に褒められると、どこか照れくさい。


「それにしても、最後の桐生は早かったね。陸上やってたの?」


「いや、やってないよ」


「じゃあサッカーとかやってたんだろ! それかバスケとかさ!」


「それもやってないな。今まで遊びではやったことあるけど、スポーツはほとんどやったことなくて」



「「「「「「……え」」」」」」



 声が揃う六人。


 え? 今俺、何か変なこと言ったか?


「……それであの速さは、桐生くんが末恐ろしいよ」


「そ、それな……」


 真田さんと赤羽さんが信じられないと言わんばかりに俺を見る。

 

「いやいや、俺だけの力じゃないよ」


「何言ってんだよ。ただただ旭の足がめちゃくちゃ速いってことだろ? 体力測定のときもぶっちぎりで一番だったし」


「それでも、初めは全然走れなかったんだ。プレッシャーがすごくて……」


「あはは……なんか旭くんらしいね」


「もうダメだって、坂本の遠くなっていく背中を見て思ったんだ。――だけど」


 六人全員を見る。

 



「みんなが応援してくれたから、速く走れたんだ。だから、こうして勝てたのはみんなのおかげだ。応援してくれてありがとう」




「「「「「「ッ!!!!!!」」」」」」


 やはりお礼はきちんと伝えないとな。

 じいちゃんばあちゃんにもそう教わって生きてきたし、実際本当に六人には助けられたし。


「そ、そっか……」


「……う、うん」


「桐生、くん……」


「?」


 波留と真田さん、赤羽さんが顔を真っ赤にして視線を逸らす。


「……ま、今のは不可抗力だな」


「三人がこうなるのも無理ないね」


「天然の人たらしってこういう奴のこと言うんだな!」


「っ! べ、別に違うし! か、からかうのも大概にしなよ上原!」


「俺からかってねーよ⁉」


「い、今のは効いちゃったかも……えへへ」


「へぇ、波留が食らうのは珍しいな」


「っ! アキくんもからかわないで!」


「美琴も大丈夫?」


「……だ、大丈夫」


 さらに顔を真っ赤にする三人。

 

 俺、また何かやらかしただろうか……。

 いや、でも俺はただお礼を言っただけだしな。


「どうしたんだ? みんな顔真っ赤にして……あ、もしかして熱中症? だったら急いで水を……」


「……やっぱり、どこまでも旭は旭だな」


「体育祭も大活躍して、この無自覚さはもはやズルいけどね」


「あははは! そーだな!」


「「「…………」」」


「えっと……」


 またしても会話について行けない。


 やっぱり都会の高度な会話に、田舎脳がついていけてないんだろう。

 まだまだ都会に慣れる日は遠そうだ。


(あ、そういえば猫谷さんにもお礼言いたかったけど……後にするか)


 こうして、体育祭は白組の勝利で幕を閉じたのだった。










 すっかり夕陽の染み込んだ廊下を歩く。


(まさか戻ってこれたのがこんな時間になるなんて……)


 もうすでに閉会式を終えて随分と経つのだが、なんだかんだ写真撮影を求められたりして、気づけば夕方になっていた。


 総合優勝を決める種目のアンカーだったこともあって、仕方がないとは思うけど。

 

(すごい非日常だったな)


 でも、ここで調子にのってはいけない。

 今回はただ、たまたま運がよくアンカーとして優勝できただけ。


 俺にバトンを渡すまでの人が頑張ってくれて、さらに秋斗たちが応援してくれたから一着でゴールできたのだ。


 決して俺だけの力じゃない。


(身の程をわきまえて、俺は所詮田舎者、だな)


 上京した時に掲げたスローガンを胸の内で呟きながら、教室のドアを開く。



「あっ」「……あ」



 教室にただ一人いた女子生徒と目が合う。


 その子は放課後の教室にあまりにもなじんでいて、目を奪われるほどに美しかった。


「猫谷さん?」


「桐生、くん」




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