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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第34話 頑張れの魔法


 体育祭の最終種目、組対抗リレー。


 総合優勝を決めるアンカーが今、レーンを駆けていた。

 そのうちの一人である俺は、重い足を何とか動かして坂本の背中を追う。


(ほんとに全国区の選手なんだな)


 こんなに軽やかにスピードを上げていく人を見たことがない。


 それに今、全校生徒の注目は俺と坂本の二人に集まっている。

 普通に生活していれば受けることのない、ありえない数の視線と熱気。


 しかし、坂本はそれを諸共せず走っていた。


(さすがは都会の有名人……経験値が違いすぎる)


 おまけに坂本は俳優の卵だと言っていたし、普段からこんな重圧慣れっこなのだろう。

 とてもじゃないが、田舎者の俺には重すぎる。



「桐生くん頑張れー!!」

「絶対に負けるな!」

「坂本いっけ~!」

「このまま逃げ切れるぞ!」

「坂本速すぎ!」

「やっべぇ! マジやっべぇ!」

「行けー!!!」



 歓声がすべて、俺の足かせになっていく。

 

(クソ、このままじゃ……)


 俯きかけた――そのとき。



「負けるな桐生!」



 聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 声の方を見てみると、そこには山田と上原、真田さんに赤羽さんがいた。


「巻き返せるぞ旭!」


「ファイト、桐生くん」


「走れ桐生くんー!!!」


 各々が俺に声援を送ってくれる。

 中には俺の敵である赤組もいるのに、友達だからって……。



「負けんなよ、旭!」


「旭くん勝ってっ!」



 その隣には秋斗と波留もいて、みんなが俺のことを応援してくれていた。

 

「……ははっ」


 思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 右も左もわからず都会にやってきて、俺はいつの間にかこんなにもたくさんの友達が出来ていたのか。

 それもみんないい人で、俺の毎日は楽しくて……。


(都会の人、みんないい人すぎるだろ)


 カッと心が熱くなり、力が湧いてくる。

 六人の前を通り過ぎ、さっきよりも強く足を踏み出す。


「――桐生くん!」


 うるさいくらいの歓声の中、その声だけが浮いて聞こえる。

 通り過ぎていく一瞬。

 声のする方を見ると、そこには今日も綺麗な顔をした猫谷さんが立っていて。


 今までに聞いたことがないくらいの声量で叫んでいた。




「がんばれっ!」




「っ!!!!!!!!!」


 今度は口パクじゃない。

 猫谷さんの確かな言葉が、俺の心に火をともした。


 友達が見てくれている、猫谷さんが見てくれている。

 そんな状況でプレッシャーがどうとか――言ってられないよな。


「(ふっふっふっ……これで俺の勝ちですね、桐生先輩! 陸上ではさすがに勝つだろうと思っていたから勝負には入れませんでしたが、こうなったら何が何でも勝たせてもらいますよ! これで男として優れているのは、名実ともにこのお……)」


 速度を上げる。

 腕を振り、地面を勢いよく蹴っていく。


「……え?」


 坂本が振り向いた。


「えぇ⁉」


 ――そのときにはもう、俺は後ろにいなかった。


「はァ⁉ なんですかそれはァアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 坂本を抜き去り、差を広げていく。


 そして俺は、一番最初に白いテープを切った。



「「「「「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」



 どよめくグラウンド。


『白組、桐生旭! 一着~~~~!!!!』


 響き渡るアナウンス。


 俺は勝利した。

 ド田舎には存在しない、都会特有のプレッシャーに。


(都会に……勝った……!!!)










 興奮冷めやらぬグラウンド。


 坂本が遅れてゴールし、膝に手をつく。


「はぁ、はぁ……」


 バトンがからんと音を立てて、地面に落ちた。


「くそっ……どうして陸上でも負けてるんだ俺は……こないだ、尊厳を踏みにじられる勢いでボコボコにされたっていうのに……」


 その言い方は語弊がある気がする。

 

「くっ……アンカーを託されたのに……すみません、た……たく、た……祐先輩」


 卓也先輩だ。

 なんで俺が覚えてるんだよ。


「……三年に全部任せてもらったのに、それでも俺は負けるのかよ……情けない」


 坂本が顔を歪める。


「それに猫谷先輩に見てさえもらえないことに苛立って、猫谷先輩と仲よくしてる桐生先輩に嫉妬して、勝負を持ち掛けて……どこまでも情けないな、俺は」


 渇いた笑みがこぼれ、陰になった地面に落ちる。


「はじめっから負けてたんだ、俺は……すみません、皆さん。こんな俺に賭けてくれたのに……」



「――坂本」



 声をかけると、坂本がしょげた顔をゆっくりと上げた。

 

「桐生先輩……」


 力ない声が漏れる。

 俺は坂本をまっすぐ見ると、右手を差し出した。




「いい勝負だった。ありがとな」




「ッ!!!!!!!」


 再び俯く坂本。


 どうしたんだと思っていると、ぷるぷる震え始める。


「えっと……だ、大丈夫か?」


「……桐生先輩、マジで半端ないですよ……」


「え?」


 何かマズいことでも言っただろうか。

 あたふたしていると、坂本がようやく顔を上げる。


「桐生先輩」


 坂本は俺の手を取ると、目をキラキラと輝かせて言うのだった。




「……アニキって呼んでもいいですか⁉」




「……え、アニキ?」


 


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